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龍王の加護  作者: 仙幽
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終話:序章の終わり

傷口も完全に塞がってもいないのに、重なる戦いで体力も限界なはずなのに、飛那は、マナミが倒れていた場所へ向かった。

外では、衣服を湿らせる程度の霧雨が宙を舞っている。


そしてそこにマナミの遺体は無かった。


飛那は血の残る地面をただ眺めている。


その地面には、血液以外に、巨大な鳥の足跡らしきものが付いていた。

それをただただ見つめている飛那には表情はない。

「おかしいです…飛那様が運ばれるまでは…確かにここにあったはずなんですが…。」

「…黒磨、黒の一族の誰かが運んだのではないの?」

白竜の質問に黒磨はきっぱりと答えた。

「それはあり得ません。王族のご友人のご遺体を許可無しに動かすなど…。ただでさえ」

黒磨はチラリと白竜を見た。

「……ただでさえ黒竜様が…行方不明なのです。飛那様の御許可をとるまでは、誰もご遺体に触れることさえしないはずです。」

白竜は声の調子を変えることなく、そう とだけ応えた。

「では、誰かが持ち去った可能性がありますね…飛那様。調査に白亜を呼びます。白の一族プライドをかけて、マナミ様を必ずや探し出して見せます。」


飛那は表情の無い顔で、首を横に振った。

「…周りに鳥の足跡がある…多分生き残った飛鳥がマナミを連れて行ってしまったんだわ。それに…今は人が足りないとき。私用で警備を使うわけにはいかない…。」

「…飛那様。」

「飛那様本当によろしいのですか?今探せばあるいは見つかるやも…」

飛那は無言で首を振る。

──もう、決めた。何よりも、国を一番に思うと。だから…

「今は他にやることがある。だからいいのよ。」

そんな飛那を白竜は複雑な目で、黒磨は頼もしげな目で眺めている。

そんな時、白竜の持つ玉から一報が入った。

『白竜様。王宮前に女性と思われる死体を発見しました。この国の民ではないようです。』

白竜は飛那を振り返った。

飛那は静かに頷く。

「マナミかもしれないわ…行ってみましょう…。」



霧雨が小降りの雨に変わる頃、飛那達は王宮前に着いていた。白の一族が囲んでいるその中心に立つ飛那にはもはや言葉もなかった。



そこにいたのはマナミではなく。


無惨に胸に穴の開いた、血塗れの姿。

小降りの雨がその血を溶かし、洗い流し、傷口を生々しく露出させる。

唇は真っ青。目はしっかりと閉じ、ぴくりとも動かない。

顔色は皆無。

「…リ…ジ…ン…」

飛那はリジンがしっかり握っている札に気がついた。

相手の方が遙かに格上だったのだろう。身代わりの護符はその効果を発揮できなかったようだ。

血で染まったその札は浅黒く、原型をとどめていない。


雨の降りが徐々に強くなってきた。


白竜は佇む飛那にためらいながらも、声をかけた。

「…飛那様…戻りましょう。風邪を…ひいてしまいます。」

白竜の声に反応したかのように飛那はゆっくりと振り向く。

雨に濡れ、髪からは雫が垂れ落ちる。

それが額に付き、流れ、眉をぬらし、飛那が瞬きをする度に流れ頬をつたい落ちた。



──泣いているの?


  飛那──。




穏やかに時の流れる涼やかな林を、美しくも小さな女の子が、自身自慢の水晶の羽をばたつかせ、楠の根元にゆったりと腰を据えている、青年のの耳元で騒いでいる。

「リオン様リオン様〜〜〜〜!!大変っ大変よ〜っ!!」

青年はにこやかに自分の手のひらぐらいの女の子に春の日差しのような穏やかな視線を向ける。

「リジンが死んで、飛那が王位を継いだってんだろ?」

青年の後ろからひょっこり現れたのは、黒水晶の羽が自慢の小さな男の子。意地の悪い笑みを浮かべながら、自慢げに宙にあぐらをかき、両腕をくんでいる。

「そ〜んな古い情報リオンに伝えるために息切らしてごくろ〜さん。」

「むかーっ!何よーっ仙晶の分際でリオン様を呼び捨てにしないでよね!!」

「はん!因みに、マナミが鳥に喰われちまったことも知ってんぜ!!」

その言葉に女の子はニヤリと勝利の笑みを浮かべた。

「ふっ……やっぱ所詮は仙晶ね〜っ…それ、間違ってますわよ?自称リオン様の片腕さん?」

仙晶は、ハッと吐き捨てる。

「なぁにが違うってんだよ!うすのろ水位!」

「リオン様!マナミは死んでないよ。」

仙晶は、はぁ?と水位を見る。

リオンは二人を落ち着かせるようにニコリと笑う。

「水位?仙晶はマナミが鳥に食べられたところを見ているんだよ?」

「それが違うの!その鳥、シアの精鳥なの〜!」

仙晶はバカなと水位にくってかかる。

リオンはピクリと目を光らせた。

「何言ってんだ!お前でたらめを──」

「青かったでしょ?鳥ぃ!上に人が乗ってたんだから!!」

「人だぁ〜?飛鳥にも人くらい乗る……」

仙晶の言葉を抑え、リオンは水位を自分の指にとまらせた。

「水位?鳥には誰が乗っていたの?」

水位は嬉しげに答える。

「あのね。イシズとねキリトよ。リオン様それにね、」

リオンは、ん?と水位を見る。

「それにね、龍王の森でシアも見つかったらしいよでもね、龍王の姿はもうどこにもなかったの。要王の頭もよ?」

そう言えばと仙晶が水位を押しのけリオンの指にとまった。

「あのすげー奴…どうやら封印されるみたいだぜ。」

「誰よ〜すげー奴って。」

「ばっかそりゃー……」



古ぼけた、だが造りのしっかりした神社から、度々静電気のような音が響き、お経のような呪文の合唱もまた、神社から漏れている。

「うっ……はぁっはぁ…あっ…もぅ…無理だ!!!」

「諦めるな!!飛那様を救ったお方だぞ!!何としても力を制御して差し上げ──うぁっ!!」

バチバチと電気が辺りに焦げを残す。

電気の塊の中心には、おびただしい量の札を巻かれた…まるでミイラ化したようなディアスがいた。


リオンはふっと空に目を移す。

「──ディアスと名付けられた…世界に嫌われた青年…か。」

「わぁ♪リオン様その表現素敵です♪」

「黙れお天気頭。リオンはどうなると考えてんの?」

リオンはニコニコしながら、う〜んと考える。

「そうだね。今の龍族じゃディアスの力を抑えられないね。」

仙晶は期待を込めた瞳をリオンに向けた。

「…やっぱ…殺される?」

リオンははははと笑う。

「今までの龍族ならそうしてたろうね。でも残念ながら、今あの国には飛那がいる。今の飛那ならきっと──」


──きっと…


飛那なら──



パァンと小気味よい音ともに勢い良く神社のふすまが開かれた。

術師達の視線を集めたのは、やはり、飛那だった。

「皆、私の話が終わるまで全力で続けなさい。」

飛那の登場で術師達は活気づいた。歯切れの良い返事を返し、先ほどよりも明らかに増した力で、ディアスを抑える。

飛那は真っ直ぐにディアスの元へ向かう。

体中に札を張られたディアスの正面に立ち、ディアスを見下ろす。

「…の…………せ…俺……ま…こ………」

「ディアス。言い残したいことはある?」

札の隙間から覗く、ディアスの目の光が激しく移り変わる。飛那が初めてあったときのあどけない光。それが一瞬でどす黒く染まる。しかしまた、輝きが戻る。

「俺…は…前の世界…で……ここも…この世界…も………う…あ…あ…あ…」

「殺す!!ぶっ殺してやる!!…出せ!!…ここ…か…らっ…」

固定され、動かない両腕をばたつかせながら、唸り声を漏らす。

「この世界も……きっと……もたな…い…っつ……だか…ら……こ……ろ…」

「殺す!こいつら全部殺してやる!……──くそぉっ…頭がっ…体がっ……うごかねぇっ……」

頭がガクンと下がり、ディアスの動きが止まった。

ポツリポツリと言葉を絞り出す。

「俺っ…は…いない方が……いい………このまま………殺し…て……くれ…」

飛那は長い袖の中で拳を握った。

だが表情に変化はない。

「……──わかっ」

「飛那ぁっ!!!止めて!殺さないで!力の制御なら私がやるから!お願い殺さないで!お願いっ」

息を切らし、裸足で走ってきたのだろう。シアの素足には傷が無数に付いていて痛々しく床に朱を残している。

シアの後からは、赤の一族が真っ青な顔をして追いかけてきた。

飛那は顔を振り向きかけたが 背を向けたまま、従者の持つ弓を受け取る。

「飛那っお願い止めて?ディアスは何も悪い事してないよ。命助けられたのは飛那も同じでしょ?」

飛那はためらうことなく弓の先に札を差し、それを至近距離にいるディアスに構えた。



「飛那?嘘。違うよね止めてくれるでしょ?……ねぇ…飛那ぁっ!!」

飛那に近づこうとするが、追いかけてきた赤の一族がそれを許さない。

飛那は弓を引いた。

「止めて!!!!!!!」

シアの叫ぶのと同時に飛那の矢はディアスの心臓を貫いた。

シアの表情がみるみるうちに色を失っていく。

ディアスは力無く倒れた。

周りの術師達の呪文が止む。

しかしディアスは起き上がらないどころかぴくりともしない。


「嘘……でしょ…」


シアはよろよろとディアスに歩み寄る。

赤の一族ももはや止めようとはしなかった。

シアはディアスの首筋に手を当てゆっくりと立ち上がり、飛那と対峙する。

飛那は表情変えることなく、従者に弓を渡した。

その瞬間シアの平手が飛那の頬にとんだ。

あまりにも良く響いた音に、周りいた人皆凍り付いた。

「なんでよ!!恩は必ず返せって教えたの飛那じゃない!!それなのに!!こんな簡単に殺すの?………なんとか言ってよ!!ねぇっ!」

飛那の襟元を掴み、揺さぶり、涙を流しながら訴える。

そんなシアを目の当たりにしながら飛那は自分の襟元を掴むシアの手を握った。

「シア。自分の国へ帰りなさい。あなたを待つ人たちのいる国で、すべき事をしなさい。」


シアは愕然とした。

「飛……那…なんで?」

「巫女を継いだのなら、その責務を果たしなさい。」

「なんで?なんでなにもいわないの?」

「行きなさい。」

周りにいた術師達に腕を引かれる。

「なんで!なんで言い訳をしないの?してよ!!」

「シア様。行きましょう。さぁ。」

「なんでよ!してよ!聞かせてよ!」

飛那は連れ出されるシアに目を合わせることもしないで、ただディアスを見下ろしている。

「言ってよ!ディアスを殺した理由を!!ねぇっ!!お願いよーーーー!!!飛那ぁぁぁぁぁーっ!!!!」

シアの声が徐々に遠ざかっていく。

シアの声が全く聞こえなくなった頃。飛那の側に黒の一族の一人が膝をついた。

「どうなさるおつもりで?」

飛那はディアスを見つめる。

「……北に霊山があったわ。そこがいい。今すぐ行かないと、また吹き返す。」

飛那はディアスから視線をはずした。

「黒亜。人数集めて。これを逃すと封印できなくなるわ。」

「かしこまりました。」



「封印……でもそれじゃ…いつか目覚めるじゃん」

「分かってないなー仙晶は〜。」

不満げに目だけで水位を見た。

「飛那は封印してる間に、あのバカみたいな力を制御する方法を探すつもりなのよ〜。ねっリオン様♪」

リオンはそうだね、とクスリと笑う。

「マナミの亡骸を抱いたキリトにまだ謎の残るイシズが飛那に会わずに姿を消した。そして信じる者に思わぬ裏切りを受けたシアは誤解を解く前に国に返された。………そうか……これは序章なんだ。」

突然笑い出したリオンにいがみ合っていた仙晶と水位は不思議そうにリオンの顔をのぞき込んだ。

「…リオン様…?」

「…リオン…?どうした?」

「二人共。これは物語の序章にすぎなかったんだよ。そうか…そうだったのか。」

仙晶にも水位にも戸惑いの表情が浮かんでいる。

「戦いは確かに終わった。これからの世には平和がきっと訪れる。でも。それは一時にすぎないんだ。」

リオンは目を輝かせて二人の精霊に楽しげに語る。


「キリトかイシズか…シアか飛那か……はたまたディアスの封印が解かれる日か………もしくは…」

──ディアスがいたという、異世界からか。

「必ずまた混乱がおとずれる。今回よりも、もっと悲惨な。それこそ、世界を巻き込んで。」

──この世界の存在をかけるくらいの。


リオンはニヤリと二人に笑いかけた。

「まだまだこれからだったんだ。物語はこれから始まる。」

仙晶も水位もニヤリと互いに笑い、リオンは空を見上げた。

「これだから…傍観者は辞められないんだ。」

リオンは不敵に笑んだ。




暗黒を暗示させるような雷雲を、どこまでも続くビル群の合間から覗く老婆がいる。

「…向こうでも奴の力には耐えられなんだか。時間がない。早く見つけなければ。」

老婆は空にきびすを返すと、目の痛くなるような人混みと車の海の中に向かって歩き出した。

「早く見つけなければ。マコトを……」

老婆はそのまま大都会東京にその姿を消した。




〜終〜

すいません…だいぶ遅くなりました。 ようやく生まれて初めて書いた小説龍王の加護。これで終了です。読者カウントもいつの間にか千を越えて…恐縮です。 ご意見お待ちしております。 この話には続きを考えてます。いつか続きを書きたいと思っております。その時はまたつたない文章ですが、読んでくださるとうれしいです。それでは…今までおつきあいくださりありがとうございました。ではまた次回作で〜


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