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第二話

 巫女飾りとは魂振(タマフリ)と呼ばれる紐に、鎮魂(タマシズメ)と呼ばれる着物の生地でできた球状のものを二つつけたもののことを指す。巫女たちはそれで腰まで伸ばした黒髪を一本に結いあげ、白無垢を身につけて神々をもてなすのが古くから伝わる神婚秘儀という習わしで、巫女飾りにはその際に巫女が魂振と鎮魂に分けて魂振を神に、鎮魂は自分の手元に残して再会を約束するという役割もあった。


 そういった巫女飾りに関する知識を私に教えてくれたのは、大河家の長男である神一と私より幼いころから大河家の女中として働いていた久美子だった。親方や職人の先輩はあの当時の職人らしく、巫女飾りに関することをあまり口では説明してくれなかったし、巫女の歴史においても二人から話を聞くまで私は無知に等しく、同じ年頃の二人の知識の豊富さには驚かされた。


 特に巫女の歴史について久美子は女中とは思えぬほどの知識量で、ときには歳上の大河商店の世継ぎでもある神一を黙らすほど精通していた。


 夕暮れ時、神一の部屋に集まって二人が私に巫女のことを教えてくれているとき、何度となく久美子が神一の言ったことを指摘し、そして訂正する場面を私はこの目で見てきた。神一が「神々が巫女のことを気に入ったことでこの土地が巫女の聖地と呼ばれるようになった」と言えば、すぐに「それは間違ってる」と実際は巫女が更地だったこの土地に流れ着いたことで、神々がこの土地に立ち寄るようになったと言い、神々と巫女の関係が主従関係にあるようなことを神一が口にしたときも、「巫女と神々は本来対等な立場でならなくてはならない」と、元々は神々も巫女も特別な存在などではなく、あくまで男性と女性の総称であり、お互いがお互いを尊重し合うことで成り立つ関係なのだと美子は神一を説き伏せていた。


 あの時代の一般的男性なら久美子の態度と言動は必ず怒りを買うし、相手が悪ければ手を出されていたとしてもおかしくない。しかし神一は決してそういう乱暴なことをする男ではなかった。ときには自分の主張を突き通し、言い争いになることはしばしばあったが、 それで仲違いになったりいがみ合うようなことはなく、「花町に本来あるべき巫女の文化を取り戻したい」という理想のもと、二人の意思は歳を増すごとに結束を固めていった。その昔、巫女の聖地という共通の理想を掲げ、そのために尽力した神と巫女のように。巫女飾り職人の見習いとして働く傍ら、物語にも夢中になっていた当時の私は神一の部屋で二人が巫女について熱く語り合っている様を横目に、そんな架空の物語をよく脳裏に思い描いたりしていた。

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