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ゲームだと思ったら異世界転生だった! 〜人生をやり直したい男の異世界探索記〜  作者: 和三盆光吉


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 18話 ストーカーミリアとスタットダンジョン攻略



「ここまで順調に来れた。もはや豆鹿は敵ではない」


 その日、ホープはスタットダンジョン5階層に到達した。

 視覚から得るダンジョンの印象は、これまで通過した階層となんら変わらない。全面石造りの通路と部屋で構成された迷路だ。出現する魔物は豆鹿レベル5。階層深度=魔物のレベルである。


 これは全ダンジョン共通のルールであり、豆鹿の強さを人間に当て嵌めると、成長値Dの人間の子供とほぼ変わらない。体高110〜120センチ。体重20キロ前後。四つ足動物の瞬発力はあるが、見るべき部分はそれだけだ。


 レベルアップは大原則として元の身体能力の倍化であって、成長値Dならレベルアップした場合の身体能力上昇量は基本値の3〜5% 成長値Cなら5〜10% 成長値Bなら10〜15% 成長値Aなら15〜20% 成長値Sに至っては一度のレベルアップで20〜25%も上昇する。


 元々弱い豆鹿である。レベルが5でも基本値の最大1.4倍であり、たかが知れている。レベル1の大人でも武装すれば対応可能であり、ホープの場合はスキル成長が異常に速いので肉体レベル以上の対応力を発揮できた。


「魔物の巣に行こう」


 ダンジョンの地図を頼りに魔物の巣へ向かう。そこでレベリングを行う予定である。豆鹿レベル1より5の方が習得経験値が多いのは自明。魔物の巣を殲滅させれば宝箱が必ず出現するし、5階層の中身は鹿肉生ハムの増量だ。量が多い分、買い取り額も多くなる。何度も何度も魔物の巣を殲滅すれば、経験値もお金もウハウハという寸法だ。


「え〜と、ここを右に曲がって、次を左で、そこから直進で……」


 ホープの足音がダンジョンに反響する。音は1つではなく、複数響いている。5階層になると他の冒険者とすれ違うからだ。


 ちなみに冒険者を志す者のほとんどが成長値Cである。人口に対する割合と、冒険者として成り立つ成長値を勘案すると、成長値Cの数が最も多くなるからだ。

 肉体レベルは簡単には上がらず、スキルはさらに上がりづらい。成長値Cではレベルアップの恩恵もそれなり。なので武装をしっかり整えて、パーティーを組んで助け合い、効率的に魔物の巣を利用しようとする。つまり。


「うげ。順番待ちの列ができて〜ら」


 5階層の魔物の巣はレベリングに人気があった。

 豆鹿レベル5は、低レベルでパーティーを組む若者には手頃な相手であり、ダンジョン内を無闇に歩き回ってエンカウントを待つよりも、魔物の巣で順番待ちをする方が遥かに効率的であるからだ。


 ホープは仕方なく列の最後尾に並ぶ。するとすぐ後ろに赤髪の少女が無言でピタリと並ぶ。ホープは気付いているがあえて振り向かない。


「あ〜あ。沢山並んでる。待つの辛いわ〜。こんなに混雑してるのに、ソロで使う人なんているのかしら? もしいたら相当な恥知らずね。DQNだわ。常識的に言って、2人以上で利用するべきよ。ソロの人は臨時のパーティーを組めば良いのよ。そうだわ! 私が組んであげても良い」


 大きな声で独り言を漏らすミリアであった。

 昨夜パーティーは組まないとお断りしたはずなのに、今日になったらダンジョン前で待ち伏せていた。絡むでもなく、黙ってホープの後を追い掛けて、そして今の独り言。これはプロのストーカーと評して良いかも。


 ホープは俯いてブルブルと震える。怖い。本当に怖い。母親にちょっとだけ似ているミリアのストーキングに冷や汗が止まらない。


「あ、前の人ちょっと」


 ミリアがホープに声を掛けた。わざと他人行儀に「前の人」などと、白々しい。


「列が進んでるわよ」

「あ、はい。すいません」

「早く行ってよ。愚図な童貞ね」

「すいません、ごめんなさい」


 後ろのミリアを警戒するあまり、列が進んだのを見落とす。

 ヤバいと感じて反射的に振り返ると、そこには夏の太陽を一杯に浴びる向日葵を連想させるミリアの笑顔。


「ひっ!」

「私の顔見て悲鳴とか、失礼過ぎない?」

「ごめんなさい、ごめんなさい!」


 目が合ってしまった。野生の獣は目が合うと危険な場合がある。猿などは特にその傾向があり、ミリアも我が意を得たりと、ホープの首と肩に腕を回してヤンキーホールドを決める。


「別に良いけど、ホープって本当に女の子が苦手なの?」

「あの、はい、その、そうです」

「なんで?」

「それは、その」

「過去に酷いフラれ方をしたとか?」

「ま、まさか。女性に告白した事もないです」

「じゃあなんで?」

「それは、アレです。言いふらす事ではないと言うか、人にはそれぞれ事情があると言うか」

「ハッキリしないわね。なんなのよ」

「だから、察して下さい。そんなだと、嫌われますよ?」

「なんですって!」

「ひいっ! ぶたないで!」


 まるでカツアゲか虐めの様だ。

 ミリアは周りから白い目で見られ、軽蔑を向けられる。

 ホープに対しては同情半分、情けない嘲り半分。

 そうこうしているとホープの順番になった。


「ホープが魔物の巣に入る番よ」

「そうですね。それではこれで」


 やっと逃げられる。そう安堵した次の瞬間には、ミリアというストレスが襲い掛かる。


「待って」

「はい?」

「沢山並んでるわね」

「そうですね」

「こんな時は礼儀作法として、相魔物の巣をするものよ」

「相魔物の巣?」

「私はソロ、ホープもソロ。だから即席のパーティーを組んで順番を譲るのよ」


 先程の独り言まんまである。初めからミリアの狙いはこれだった。


「それだと経験値が減りません?」


 なんとか断る理由を探す。


「大丈夫よ。2人までなら経験値は減らないの」

「……そうですか」


 魔物の巣は周回が基本。終わればまた列の後ろに並ぶ。

 つまりもたつけば、後ろから鋭い非難の視線を浴びる事となる。


「ほら、行きましょう!」

「……はい、はい」


 なし崩し的に魔物の巣へ入る2人。構造は他の階層と変わらない。広い正方形の石壁の部屋。

 2人が完全に部屋に入ると入り口が魔力の壁で閉じられた。そして中央に現れる豆鹿レベル5の群れ。数は20匹。最大数だ。


「1人10匹ね。私は問題ないけどホープは?」


 ミリアは父親に買って貰ったミスリルのロングソードを抜くと不敵に笑った。


「俺もたぶん大丈夫」


 ホープも盾とショートソードを構えた。


 豆鹿の攻撃パターンはレベルが上がっても同じ。走って跳ねて、頭の角で頭突きする。連係攻撃は無しだ。


「私は左!」

「俺は右! 任された!」


 豆鹿の群れが2人に殺到。


 ホープは右に走り、先頭の豆鹿を木の盾で殴る。次の豆鹿をショートソードで撫で斬りにして、後続を後ろ回し盾で吹き飛ばす。数匹の豆鹿が巻き添えで倒れた。それを蹴飛ばし、藻掻く豆鹿の腹を突いて倒す。


 ミリアは左に走る。動きはホープよりも速く、突撃した豆鹿を躱しながら胴体を斬る。鮮血が飛び散る。ミリアは尚も走り斬る。斬る斬る斬る。ミスリルのロングソードは鋼とは比較にならない斬れ味を発揮して、一太刀毎に血飛沫が飛ぶ。


「はぁ、はぁ。私が11匹倒した」

「そうですね。お疲れ様です」


 20匹の豆鹿レベル5を殲滅。所要時間は10分少々であった。


「魔石を拾って宝箱を回収しましょう」

「ですね。でも分配はどうします?」


 1人なら総取り。複数なら分配しなければならない。パーティー戦の面倒な部分だ。


「私はお金に困っていないからいらない。全部ホープにあげるわ」

「え? 流石にそれは」

「良いのよ。その代わり」


 ホープは(来た!)と身構える。ストーキングしてまで無理矢理パーティーを組んだ本題が怖い。


「しばらくパーティーを組んでよ。ホープは成長値Dなのに強いわよね? 盗賊団の首領を倒した時も思ったけど、スキルレベル高過ぎない?」

「ああ、それはマーガレットさんにも言われました」


 当初はスキルレベルの成長の速さの理由が分からなかった。けれど異世界転生だと知った今は仮説を立てられる。

 おそらく地球の量子コンピュータとAIは、観測装置であるホープがすぐに死なない様にチートを授けたのだと思われる。


 もしも簡単にそして頻繁に、魂の量子テレポーテーションを行えるなら、異世界は転生者で溢れているだろう。変わり者エルフがしたように、文明に干渉して世界を狂わせてもおかしくない。だが今の所、確認できる転生者はホープと変わり者エルフのみ。他にもいる可能性は捨てきれないが、量子テレポーテーションには制約があると考えるのが妥当であり、せっかく送り込んだ観測装置がすぐに機能停止するのはコストに見合わない。だからチートを授ける。そう結論つけた。


「聖女ゲレタ様にも気に入られてるし、私もホープに興味があるの。良いでしょう?」


 可愛らしい仕草でお願いするミリア。ホープの心は微塵もトキメかない。


(本当は嫌だ。嫌だけど、断っても拗れるだろう。ここは無難にあしらおう)


 ミリアはネジ工場社長の娘。飽きれば家に帰るだろうと、パーティー結成を了承した。


 魔物の巣を出て再び列に並ぶ。待ち時間に先程の戦いを振り返る。


「ミリアさんの剣は身体能力で押す感じですね。ミスリルのロングソードがなかったら、斬り損じも結構ありそうです」

「ホープは辛口ね。そっちだって、動きは良いのにパワー不足だわ。私がいなかったら囲まれてボコられてるわよ」

「レベル3ですから。5階層の魔物の巣を周回して、レベルを上げてからダンジョンボスに挑む計画です」

「私はスタットに来る前に3カ月、剣術道場に通っただけなの。だからスキルは生えてないのよ。魔物の巣を周回して剣術スキルを生やしたいの」


 成長値Dでスキル成長チートのホープ。

 成長値Aでスキル成長は普通のミリア。

 案外と良いパーティーかもしれない。


 その日から、ミリアは夕食もゲレタの家で取るようになった。

 ベラは良い顔をせず、何かと衝突を繰り返した。その都度、上品老女のゲレタが2人を嗜めて仲裁する。ホープはヤキモキして胃が痛む思いだった。けれど賑やかで、それなりに楽しい時間でもあった。そして10日後。


 ホープ 男 15歳 レベル6 成長値D

 スキル アイテムボックス

 スキル 剣術レベル8

 スキル 盾術レベル8

 スキル 長距離走レベル7

 スキル ☆家政夫レベル4


 ☆はランクアップしたスキル。


 ミリア・ボルト 女 16歳 レベル8 成長値A

 スキル 剣術レベル1


「やったわ! 剣術スキルが生えた!」


 冒険者ギルドのステ板の前ではしゃぐミリア。

 カウンターではハゲマッチョのマーガレットが頭を擦っている。


「ミリアは順調だな。このまま励めば一廉ひとかどの冒険者になるだろう。問題は」


 胡乱げな目でホープ見るマーガレット。


「ホープのスキルレベルが高い。剣術レベル8なんて、軍の兵士長とか、Bランク冒険者級だぞ。お前はどうなってるんだ? 本当に冒険者登録して1ヶ月そこそこの小僧なのか?」

「いや〜、そう言われましても」


 剣術レベルが10になるとランクアップして剣聖術。

 盾術レベルが10になるとランクアップして盾聖術。

 長距離走レベルが10になるとランクアップして長時間運動。

 いずれも超一流のスキルであり、その域に達した者は一握り。なのにホープはランクアップが目前に迫っていた。


「前代未聞だ。話すら聞いた事がない。お前らなら、Sランク冒険者パーティーも夢じゃないぞ」


 Sランクは冒険者の最高峰。過去現在において、数人数パーティーしか認定されていない伝説的存在。それに手が届くとマーガレットは太鼓判を押す。


「だってさホープ! 私達、Sランク冒険者になっちゃう?」


 浮かれるミリア。反比例してホープは沈む。


「いえ、俺達は期間限定の臨時パーティーですよね? 明日にはスタットダンジョンのボスを倒して攻略する予定なので、それで解散しません?」

「なんでよ!」


 激怒するミリアである。彼女的には、このままホープと恋愛関係にまで発展したいと思っている。なので許せない。


「やっぱり若い女性は苦手でして、出来れば男とパーティーを組みたいなと」

「あんたホモぉ! 美少女がいるでしょ! 目の前に美少女がぁ〜!」

「ひいっ!」


 ミリアは美形であるが、ベラと比較すると見劣りする。そして前世の母親に少し似ている。従ってご遠慮願いたい。


「まあまあ、喧嘩は外でやれや。それよりもだ、ミリアは既にダンジョン攻略を済ませている。明日のボスアタックはホープ1人で挑戦したらどうだ?」

「え? 良いんですか?」

「ダンジョンボスは豆鹿亜種レベル6が1匹だからな。今のホープなら油断しなければ楽勝だろうよ」

「そうですかね?」


 本来ダンジョンはパーティーで挑む。稀にソロを貫く猛者もいるが、複数人の方が戦力が高く生存率が上がるからだ。スタットダンジョンの場合、成長値C以上。人数は3人。レベルは3〜5。スキルが1つでも生えていれば楽に攻略可能。


「ギルマスだからって、私達の関係に口を出さないで下さる」

「そう言うなミリア。男には乗り越えなければならない壁があるんだよ」

「なによそれ! 壁を越えたらどうなるのよ!」

「うむ。自信が付いて、女性恐怖症が治るかもしれない」

「はっ! それは」


 その一言でミリアは納得した。ホープのM気質は治らなくて良いが、女性恐怖症は治って欲しい。そしてラブラブして、世界に名を轟かせる女王様と下僕の最強冒険者パーティーになりたい。ちなみに子供は3人欲しい。


「ホープ頑張れ!」

「え? はぁ、まあ」


 こうしてホープは単身ダンジョンボスに挑んだ。





「なんか楽勝だった件について」


 スタットダンジョン最下層のボス部屋。ホープの目の前には超レアの虹色宝箱が出現していた。


 豆鹿亜種の基本能力は豆鹿より一回り多い。レベル6なら今のホープと同レベルであり、身体能力だけならほぼ互角。


「スキルの補正が半端ない。マジで一撃だった」


 豆鹿亜種レベル6の突撃をシールドバッシュで跳ね返し、倒れた所をブスリ。それで終わり。初心者用ダンジョンとはいえ、呆気ない幕引き。


「さて、虹色宝箱は国中で年に1つ出るか出ないかだったな。中身はなんだろう?」


 七色に輝く宝箱の蓋を開ける。この瞬間が一番楽しい。


「おっ? 小瓶」


 宝箱の底には液体の満たされた小瓶が1つ。手に取ってしげしげと眺める。


「薬っぽいな。ゲームでよくあるポーション的な? 冒険者ギルドで調べてもらおう」


 この小瓶がちょっとした騒動を引き起こす。



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