72ページ
人はきっと、誰かに救われながら生きています。
大きな言葉じゃなくてもいい。
たった一言。
たった一つの優しさ。
それだけで、生きようと思える夜があります。
この物語には、“運命を書き換える力”が登場します。
けれど本当に描きたかったのは、魔法みたいな奇跡ではありません。
苦しみながらも誰かを想うこと。
忘れたくないと願うこと。
誰かの痛みに手を伸ばそうとすること。
そんな、不器用で優しい人たちの姿です。
もし今、少しだけ苦しくて、少しだけ疲れているなら。
この物語が、あなたの心へ静かに寄り添えますように。
『時雨堂に、雪は降りつづく』
どうか最後まで、見届けてください。
次に目を開けた時。
雫は知らない場所に立っていた。
夕暮れの商店街。
古びた街並み。
だが妙な違和感がある。
人がいるのに、全員顔がぼやけている。
「ここ……どこ?」
すると背後から声がした。
「“もしもの世界”だよ」
振り向く。
そこには神代透がいた。
「透?」
透は周囲を見渡す。
「書庫主が見せてるんだ」
「何を?」
透は少し黙る。
やがて静かに言った。
「運命を変えなかった世界」
雫の背筋が凍る。
その瞬間。
一人の少女が通り過ぎた。
美咲だった。
だが彼女は笑っていない。
目が死んでいる。
そして。
ふらふらと歩道橋へ向かっていく。
「待って!!」
雫が駆け出そうとする。
だが透が腕を掴んだ。
「触れられない」
「え……」
次の瞬間。
美咲が、静かに柵を越えた。
雫の悲鳴が響く。
最後まで『時雨堂に、雪は降りつづく』を読んでくださり、本当にありがとうございました。
この物語は、“救うこと”について考え続けた作品でした。
誰かを助けたいと思うことは、とても優しくて、同時にとても苦しいことです。
全部を救いたい。
誰も傷ついてほしくない。
そう願っても、現実は簡単ではありません。
それでも、人は誰かを想い、支え合いながら生きていける。
その小さな希望を、この物語に込めました。
雫が最後まで失わなかったものは、“人を想う心”でした。
そして玲たちもまた、誰かを忘れずに生き続けました。
人は、誰かの記憶に残る限り、きっと消えません。
もしこの物語の誰かが、あなたの心に少しでも残ってくれたなら。
それが、この作品にとって何よりの救いです。
あなたの明日が、今日より少しだけ優しいものでありますように。
本当にありがとうございました。




