53ページ
人はきっと、誰かに救われながら生きています。
大きな言葉じゃなくてもいい。
たった一言。
たった一つの優しさ。
それだけで、生きようと思える夜があります。
この物語には、“運命を書き換える力”が登場します。
けれど本当に描きたかったのは、魔法みたいな奇跡ではありません。
苦しみながらも誰かを想うこと。
忘れたくないと願うこと。
誰かの痛みに手を伸ばそうとすること。
そんな、不器用で優しい人たちの姿です。
もし今、少しだけ苦しくて、少しだけ疲れているなら。
この物語が、あなたの心へ静かに寄り添えますように。
『時雨堂に、雪は降りつづく』
どうか最後まで、見届けてください。
時雨堂へ駆け込むと、玲がすぐ異変に気づいた。
「……見せろ」
玲は雫の手を掴む。
透けている。
まるで光に溶けかけているようだった。
「どういうこと……」
玲は険しい顔をする。
「時雨堂との同化が始まってる」
「同化?」
栞が静かに本棚から降りてくる。
「人間が運命に深く触れすぎると、存在が“物語側”へ落ちるの」
雫は震えた。
「そんなの……」
「だから透は止めてる」
玲の声は低かった。
雫は悔しそうに俯く。
「でも、見捨てられない」
その言葉に、玲は目を閉じる。
「……お前は昔の俺に似てる」
「え?」
玲は少し黙った。
やがて小さく呟く。
「俺にも、守りたかった奴がいた」
その表情は、ひどく痛々しかった。
だがその時。
時雨堂の奥から、激しい音が響く。
ドンッ!!
本棚が崩れていた。
そして中央に、一冊だけ黒い本が浮いている。
『神代透の人生』
空気が凍った。
最後まで『時雨堂に、雪は降りつづく』を読んでくださり、本当にありがとうございました。
この物語は、“救うこと”について考え続けた作品でした。
誰かを助けたいと思うことは、とても優しくて、同時にとても苦しいことです。
全部を救いたい。
誰も傷ついてほしくない。
そう願っても、現実は簡単ではありません。
それでも、人は誰かを想い、支え合いながら生きていける。
その小さな希望を、この物語に込めました。
雫が最後まで失わなかったものは、“人を想う心”でした。
そして玲たちもまた、誰かを忘れずに生き続けました。
人は、誰かの記憶に残る限り、きっと消えません。
もしこの物語の誰かが、あなたの心に少しでも残ってくれたなら。
それが、この作品にとって何よりの救いです。
あなたの明日が、今日より少しだけ優しいものでありますように。
本当にありがとうございました。




