31/150
31ページ
黒い霧が消えた後も、時雨堂には異様な静けさが残っていた。
床には、白紙になった本が散らばっている。
「……これ、どうなるの」
雫が震える声で尋ねる。
栞は静かに一冊を拾い上げた。
「人生が“消えた”のよ」
「え……?」
「記録が完全に失われた本は、誰にも思い出されなくなる」
雫の背筋が凍る。
そんなことが、本当にあるのか。
玲は険しい表情のまま言った。
「透は“消滅”を使ってる」
「消滅?」
「運命の流れそのものを壊す力だ」
雫は息を呑む。
透はただ止めようとしているわけじゃない。
時雨堂自体を壊そうとしている。
その時。
栞が突然、雫の頬に触れた。
「熱い……」
雫の視界が揺れる。
次の瞬間。
見知らぬ風景が流れ込んできた。
雪。
病院。
泣いている玲。
『もう助けられない』
誰かの声。
そして――血に染まった栞。
「っ!!」
雫は悲鳴を上げた。
気づけば、床に倒れ込んでいた。




