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人はきっと、誰かに救われながら生きています。
大きな言葉じゃなくてもいい。
たった一言。
たった一つの優しさ。
それだけで、生きようと思える夜があります。
この物語には、“運命を書き換える力”が登場します。
けれど本当に描きたかったのは、魔法みたいな奇跡ではありません。
苦しみながらも誰かを想うこと。
忘れたくないと願うこと。
誰かの痛みに手を伸ばそうとすること。
そんな、不器用で優しい人たちの姿です。
もし今、少しだけ苦しくて、少しだけ疲れているなら。
この物語が、あなたの心へ静かに寄り添えますように。
『時雨堂に、雪は降りつづく』
どうか最後まで、見届けてください。
屋上の扉を開けた瞬間、冷たい風が吹き抜けた。
灰色の空。
フェンスの向こう側に、美咲が立っている。
「美咲ちゃん!」
雫は叫んだ。
美咲はゆっくり振り返る。
その顔には涙の跡があった。
「……なんで来たの」
消えそうな声だった。
湊が息を切らしながら駆け寄る。
だが雫は一歩前へ出た。
「死んじゃダメ!」
美咲は苦しそうに笑う。
「なんで?」
「え……」
「生きてても苦しいだけだよ」
言葉が詰まる。
雫は何も返せない。
美咲の痛みが分かるからこそ、軽い言葉が言えなかった。
「私、もう疲れた」
風が強く吹く。
その瞬間。
雫の脳裏に、本の文字が浮かんだ。
『午後五時三十二分、彼女は空へ落ちる』
時計を見る。
五時二十九分。
あと三分。
雫の心臓が激しく鳴る。
「お願い……!」
だが美咲は目を閉じた。
その時だった。
雫のポケットから、一枚の紙が落ちる。
美咲の描いた絵だった。
記憶庫で見た、あの絵。
風に乗って、美咲の足元へ滑っていく。
美咲の目が大きく揺れた。
最後まで『時雨堂に、雪は降りつづく』を読んでくださり、本当にありがとうございました。
この物語は、“救うこと”について考え続けた作品でした。
誰かを助けたいと思うことは、とても優しくて、同時にとても苦しいことです。
全部を救いたい。
誰も傷ついてほしくない。
そう願っても、現実は簡単ではありません。
それでも、人は誰かを想い、支え合いながら生きていける。
その小さな希望を、この物語に込めました。
雫が最後まで失わなかったものは、“人を想う心”でした。
そして玲たちもまた、誰かを忘れずに生き続けました。
人は、誰かの記憶に残る限り、きっと消えません。
もしこの物語の誰かが、あなたの心に少しでも残ってくれたなら。
それが、この作品にとって何よりの救いです。
あなたの明日が、今日より少しだけ優しいものでありますように。
本当にありがとうございました。




