第七十八話:海を渡って新たな島へ
星喰獣グラブへと偵察のために挑んだあと、俺たちはそれぞれ次回の本格攻略にむけて準備を進めることとなった。
次の挑戦は一週間後、参加メンバーのスケジュールの都合がつくのがその日だった。それまでに俺はなるべくレベルをあげて、基礎能力の向上に努めることにした。
俺の現在のレベルは39。対する他のメンバーは皆70レベルオーバーだ。海イベントでかなりマシにはなったものの、平均レベルを明らかに俺一人で下げている。
正直、俺がユニーククエストを発見したキープレイヤーでなかったら真っ先にパーティーから追放されている。足を引っ張るのは本意ではないので、頑張りどころだ。
そして明くる日。なんと今日は朝から俺のレベル上げに付き合ってくれる人がいるのだ。
「ということでよろしく、モーリー」
「おーす、よろしくなリョーダン」
ニール港の船着き場でモーリーと合流する。
……世間は夏休みだが、社会人には関係ない。彼は多分成人していると思うのが、予定は大丈夫なのだろうか。
「……一応言っておくが、俺の仕事はフリーランスだ。仕事してないわけじゃないぞ?」
「何も言ってないだろ」
俺の表情から何かを読み取ったらしいモーリーが、じとっとした目つきで俺を睨む。
実際、彼には凄く助けられているのだ。ユニーククエストの攻略情報や、戦力として、さらには彼のギルドの資金力を借りた、アイテムの準備もお願いしている。彼に頼り切っていると言われても否定できないほど、俺たちのパーティーの中で一番貢献度が高い。
ただ、人間的な部分でどうも素直に感謝しづらい奴なのだ。
「俺だって、ユニーククエストが絡んでなかったら男なんかに時間使わず、女を口説きに行ってるよ」
「女って言ってもどうせゲームのキャラだろ」
「当たり前だ。新作のVRギャルゲが一昨日に発売されたんだよ。まだどの子のルートもクリアできてないんだ」
本当にブレねぇな、コイツ。
「ところで、何で船着き場に集合なんだ?」
「無限レベルアップルパイはもうやったんだろう? レベルも40近いって話だし、こっからはよりレベルの高いモンスターを狩った方が効率がいい。ヤマト島なら、高レベルのダンジョンもあるし、いくつか効率のいい狩場を知っているんだよ」
ヤマト島は現状で実装されている最新マップだ。それにあわせ、高レベルのモンスターがでてくるエリアもある。そいつらを狩るのが今日の目的ってわけか。
「なにせ期限は一週間。来週の攻略準備で、一番効率が良いのがお前のレベルや装備の質をあげることだ。俺らのパーティーで明確に劣っている箇所だし、その分短時間での伸びしろも大きい」
「耳が痛いなぁ。否定できないけど」
「そう腐らないでくれよ。お前のプレイヤースキルはピカイチだ。そこに基礎能力が加われば、怖いものなしだよ。特にお前にはもっと速度を上げて貰わないと困るんだ」
「グラブの足止め、だろ?」
モーリーが頷く。
グラブ攻略パーティーの中で、グラブの速度に食らいつける可能性があるのはAGI偏重の俺か、高レベルにあわせAGIも高いナギくらいだ。ケンさんがやや追いつけるかもしれないが、他の二人はAGIを重視していないため受身になる。
一度様子見したときに明らかになったことだが、グラブのスピードと攻撃力は破格だ。防御に長けたノブシゲさんも、そう何度も攻撃を防ぎきれない。
奴のスピードに追い付き、ヘイトを分散させ妨害する役割が必要になる。
そして何より、このユニーククエスト『封土決壊』に挑むための前提クエストであった、二種類のモグモグ組手のクリア報酬で得られるEXスキル。グラブに追いつくための超加速である〈土竜突〉と、動きを止めるスタン効果を有した攻撃である〈土竜撃〉。ボス攻略に使えと言われているようなものだ。
「一週間で俺らに追いつけ、ってのはちょいと無謀だが、それでもレベル50から60くらいまでは上げて貰わないと困る。かなりハードな促成栽培になるぜ」
「ああ、望むところだ」
俺とモーリーはそろって、ヤマト島へ向かう船に乗り込んだ。
大きな船の上で、波に揺られることしばし。航海は順調なもので、特にトラブルもなく目的地であるヤマト島に上陸した。
「おおー、ここがヤマト島!」
ヤマト島の玄関口にあたる、サクラ港。
目の前に広がるのは典型的な和モチーフの街並みだ。瓦葺きの木造建築が並び、桜っぽいピンクの花をつけた木がいくつも生えている。あれは茶菓子屋だろうか? 番傘を日よけに、赤い椅子が店先にでていて、プレイヤーが茶菓子を楽しんでいる。
行き交うプレイヤーたちは装備品によって和洋折衷なので、なんとも頓珍漢な光景だ。
やっぱり新マップはテンションあがるなぁ。
「気合入ったマップだなぁ」
「サクラ港にはないが、もうひとつ隣のツバキ城下町にいけば温泉もあるぞ」
「温泉!」
「入ると一定時間、能力にバフがかかるんだ。ただまぁ、観光やクエスト周りはまた自分で来た時にしてくれ。……あ、道具屋でワープ用のアイテムや剣の欠片は買っていこう。帰りが楽だ」
正直、ゆっくり街の中を見て回りたい気持ちはあったが、今日の主目的は観光じゃない。道具屋でアイテムを買った後は、モーリーの案内に従って街を出る。
「行先はここから少し南にある『落日の森』っていうエリアだ。その森の泉の近くで、経験値効率の良いモンスターが高頻度でポップする。今日の目的はそれだな」
街を出てすぐ、飛行剣に乗って平原を移動する。移動用の飛行剣に乗っていれば、それなりの速度が出るため多くのモンスターを振り切ってスムーズにマップ移動ができる。
が、中にはその速度に追いついてくるモンスターもいるらしい。
「モーリー! 何か追いかけてきてないか!?」
「ケンイタチだな。別に大したモンスターじゃない、適当に倒していくぞ」
草原の茂みの中を、俺たちに並走するように追いかけてくるモンスターがいる。俺は初見だが、モーリーは見たことがあるらしい。
「そら、くるぞ!」
合図を待っていたかのように、茂みの中から三体の獣が飛び出してきた。薄茶の胴体で、尻尾の先が剣のように鋭く尖ったイタチだ。
「鎌じゃなく剣なわけかっ」
飛行剣の上で身を屈め、尻尾の斬撃を回避する。一匹はモーリーの方へ行ったが、彼も長剣を盾にして攻撃を防いでいた。
「そらよっ!」
さらに、剣で受けた反動を活かして体を捻り、フリップアクション。飛行剣ごと回転して、その刃先で斬り付けている。
「手慣れてるな!」
「そりゃどうも!」
思わぬ反撃を受けたケンイタチは、また茂みの中に身を隠した。
「飛行剣の移動中にもちょっかいかけてくるモンスターはそう多くないが、ゼロじゃないのが面倒なんだよな。こうも派手に移動してると、ヘイトも切れないし、飛行剣の上だと大振りの長剣を振り回すのも一苦労だ」
「確かに小回りが効かなさそうだ。ならその分俺が経験値を貰っていくぜ」
飛び掛かってきたケンイタチに対して、今度は〈抜刀〉でカウンターをあわせる。体重の軽いケンイタチはそれだけで吹き飛んでいった。
速度もそこまでだし、攻撃も重くない。
「なんか、あんまり手ごたえがないな」
「そりゃダンジョンでもない、しかもサクラ港の近くのモンスターなんてこんなもんだよ。街のすぐそばにいきなり強いモンスターが出てきても困るだろ」
新マップということで気合を入れていたんだが、若干肩透かしだ。どうやら俺もレベルがあがり、流石にヤマト島の入口付近の推奨レベルには到達していたよう。最近は海イベで、本来自分が戦うよりも強いレベルのモンスターとレイドバトルをすることが多かったから、感覚が麻痺しているのかも。
「安心しろ、今日の目的のモンスターはかなり歯ごたえがあるから」
それもそれでちょっと怖いな。
ケンイタチの群れは二人で難なく撃退。目的の森の入口まではすんなりとたどり着くことができた。
「さて、これまではヤマト島の入口扱いで、出てくるモンスターのレベルも低かったが、『落日の森』に入ると一気に要求レベルがあがる。気を付けていくぞ」
「ああ、道案内を頼む」
ずんずん進んでいくモーリーを追いかけ、俺は薄暗い森の中へ入っていった。




