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剣しか勝たんVRMMO  作者: 雉里ほろろ
第三章:海に轟く勇名 地に眠る神名

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第七十一話:VSソードディグ・キング リベンジマッチ


 渚と買い物に行った日の夜。俺は普段より少し遅い時間にスタブレにログインした。

 日中、良い気分でリフレッシュできたので、今の俺のゲームに対するモチベは高い。今日はこのまま、モグラクエストを進めたい。

 ポーションなどの必要品を雑貨屋で買い足して、そのまま封土神殿へ向かう。長い滑り台を降りて地下へと潜り、神殿の中心にある広場に踏み入った。

 光る宝石樹が生えた広場は、モグラたちが日々の手入れをしているのだろう、余計な石は一つも落ちておらず、平らに均されている。花の一本も生えないこの地下にあって、それでも庭園らしさを感じられるのは不思議な空間だと、つくづく思う。

 風の入らないこの空間は、いつだって耳が痛くなりそうなほど静かで厳かだ。音と光が制限されるだけで自然と緊張が生まれる。

 気持ちを落ちつかせるため、深呼吸を一つ。

広場の中央に佇むモグラに声をかける。


「免許皆伝、もらいにきたぜ」

「モグ!」


 渚に声をかけたんだ。クエストを先に進めなくてはいけない。

 爪先で軽く地面を蹴って、足首を回す。両手を軽く握って、開いて、体の調子は万全だ。

 この日のために、武器も新しくしたしレベルだって上げてきた。

 リーダーモグラの掛け声にあわせて百匹のモグラたちが集まり、光の塊となって一体の巨大なモグラへと変身する。その身の丈と同じ長さのスコップを武器とし、戦士は構えた。


 ――ソードディグ・キングを倒せ


 戦闘開始と同時、ソードディグ・キングがスコップで突きを放つ。

 開幕と同時に急加速し、不意を突く一撃。まるで俺のお株を奪うような攻撃だ。


「けど、それは知ってるんだよなぁ!」


 速度はかなりのものだが、警戒していれば受けられる。

 左腰の鞘から逆手で短剣を抜く。スコップの軌道に合わせ、刃を交えて受け流した。火花のようなエフェクトが散る。合わせのタイミングは完璧だ、ダメージなし。

 突きの勢いを受け流され、僅かにキングモグラの姿勢が崩れる。ここからなら、長柄のスコップは引き戻しが間に合わないはず。

 右手で腰の居合刀を握る。さらに、左手の短剣も同じ位置に取り付けた鞘へ戻す。


 居合刀と短剣、長さの異なる二つの刃物を収める鞘は、細いX字になるように固定、連結されている。

 左手で短剣を握っていると、居合刀の鞘を握れない。だが、無理に鞘そのものを握る必要はないのだと閃いた。

 鞘に収めた短剣を疑似的なグリップにして、居合刀の位置を調整すれば良い。そのために、無理やり二つの剣の鞘をくっつけて貰った。

 ここまで自由に配置を改造できるとは思っていなかった。流石、自由度の高さを売りにしているVRゲーム。細かなところまでプレイヤーの手をいれられる。


 短剣を逆手で鞘に収め、そのまま力を入れて繋がった居合刀の鞘の角度を調整する。右手で居合刀の柄を握り、力をこめる。

 〈過集中〉120%。〈重ね刃〉による連撃を付与――。


 食らいやがれ、俺の最大火力!



「――〈斬々舞〉!」



 煌めく三連撃のヒットエフェクト。うち一つに運よくクリティカルが乗った。

 都合六発分プラスアルファの破壊力を一瞬のうちに叩きつけられ、キングモグラが大きく吹き飛ぶ。宝石樹へぶつかり、砕け散った欠片がきらきらと宙に舞った。

 強化を施した新たな居合刀、『土竜刀・鉄華』は今の俺のレベルに合わせ、攻撃力も高まっている。そこから繰り出される火力は絶大で、いくら強力なキングモグラといえど痛打だろう。

 スコップを振り、立ち上がるモグラ。あの一撃を喰らってもすぐに立ち上がれるとは。やはりコイツは強い。


「モグモグ!」


 地面に跡を刻みながらスコップを引き、下段からの切り上げ。これはバックステップで回避。

 だが同時にスコップで地面の砂を巻き上げてきた。一瞬だが視界が潰される。

 そして砂のカーテンを突き破ってスコップの刃先がとんできた。


「小細工までしてきやがる!」


 〈瞬歩〉で後ろに跳んで、大きく距離を作る。危なかった、目くらましまでしてくるだなんて。

 防御力は相手の方が上。攻撃力は一撃の威力だけなら武器の分俺の方が高いはずだが、俺の防御が低すぎるので誤差。そして速度はほぼ互角。

 あとは戦いの技術や駆け引き、判断の良さを競い合う。勝機があるとすればそこだ。


 一度体勢を立て直すと同時に、短剣を抜いて今度は俺から攻勢に出る。

 切り戻しての攻撃を、姿勢を低くして避けてスコップの下へもぐりこんだ。相手のリーチの内側に入った。

 さらに肉薄して短剣で胴体を斬る。

 キングモグラはスコップの持ち手を短く持ち、柄の方で殴りにきた。短剣で防ぎ側面へ回る。薙ぎ払いはジャンプで回避、そのまま顔に一撃浴びせる。

 空中で体を捻って着地、背中にもう一撃浅く攻撃を当てて、また距離を取る。


「やっぱり強いよ、お前」


 目くらましや、距離を詰められた途端に武器を短く持って応戦するなんて、普通のモンスターじゃ見られない戦い慣れた動きだ。まるで対人戦をしているような感覚を覚える。

 自分の口の端が吊り上がっていくのが分かる。楽しくなってきた。

 低く構え、居合刀のチャージを溜めながら相手の出方をうかがう。一瞬だけ居合刀の鞘に触れ、チャージの状態を確認する。あと十五秒は溜めたい。

 キングモグラはスコップを武器に、巧みな技を繰り出してくる。斬り払い突きと自在な攻撃に、目くらましやフェイントの技術も上手い。


 だが、これまでの戦いで飛び道具染みた技は一度も使っていない。

 例えば火を噴くだとか、体が巨大化するだとか、モンスター特有の攻撃モーションがほとんど見られない。あくまで人間の剣士でも再現できる技の延長、それが研ぎ澄まされていて、シンプルながらとても強い。ただし、動きに意外性がないので先読みもしやすい。


「つまり、技と技、力と力の真っ向勝負ってわけだ」


 組手、その皆伝編と言うだけのことはある。まぁ力と力だったらSTRの差で負けるんだけど、そこは俺の腕の見せ所だ。

 スコップの斬撃に短剣を合わせて数度切り結ぶ。大振りのモーション、これはフェイントと読んで、釣られないよう冷静に距離を保つ。

 大振りを避け、やはり狙っていた二撃目を慌てずに受け流してから居合刀を抜いて〈抜刀〉を当てる。


 回避、回避、受け流し。狙いの鋭い一撃を無理に避けるのではなく、短剣で逸らしながら間合いを維持できるだけで戦いのテンポがまるで違う。

 鍔迫り合いのように、互いが戦いの主導権を奪い合う。

 切り払いに逆らわず距離を取る。作った距離は〈土竜突〉で拍子を外しながら詰め、居合刀での一撃を狙う。


 互いの位置を入れ替え、走り回りながら剣をぶつけ合う。


 短剣による牽制も、ただ闇雲に剣を振るだけでは意味がない。

 相手の攻撃に牽制を差し込んで受けさせれば、一撃分のテンポを奪える。

 腕の動き、体の動き、目線。全てを見て、次の動きを予測して一歩先へ攻撃を差し込む。スコップを持つ手首を切る。振りぬく前のスコップの柄を足で踏みつけて抑え込む。視線でフェイントと本命を見分け、避けるか受けるかを瞬時に判断する。

 一方で、俺が放つ攻撃もまたキングモグラに読まれつつあった。

 威力の高い居合刀を警戒して、俺が距離を詰めれば時折向こうから離される。隙を突いたと思っても、スコップで受け止められる。


 横の払いをバックステップで避けようとして、間合いを見誤った。

 スコップの刃先が胴を浅く抉る。幸いにも防具の硬いところだったため、一撃で死ぬことはなかった。

 よろけた体勢を立て直すために無理やり〈土竜突〉で突っ込んで、モグラの背後まで走り抜ける。即座に回復ポーションを使う。

 遅れて追撃にきた背中への突きは〈ハイジャンプ〉で躱し、わざと着地狙いの攻撃を引き出してから〈エアステップ〉で位置をずらして避ける。


「ふぅー……!」


 長く、息を吐いた。左手の短剣を握りなおす。大丈夫、集中力はまだ持つ。


「やっぱりお前はモンスターだから疲れたりしないの?」

「モグモグッ!」


 答えているつもりなのか、はたまた単なる威嚇なのか。スコップをぐるりと大きくまわしてから構えなおす姿は戦闘続行(ファイティングポーズ)。


 瞳に宿る戦意は本物。ただ、その肉体も精神もあくまで電子で構成された存在だ。

 俺も今の肉体は仮想なので、痛みや疲労はない。けれど、目まぐるしく動き続ける戦場で死線をくぐり続けるのは、精神的に疲れる。


「かといって気を抜けば一発アウトだ。気合いれてやるしかねぇ!」


 強気に笑い、前へと飛び出した。


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