第六十九話:デート
「うお、今の凄いな。肩から腕の先まで繋がってる、綺麗な動きだ」
「――――」
「重心の運び……いや、腰の使い方か?」
「――――ねぇってば!」
イヤホンをはぎ取られる。振り向けば、不機嫌そうに頬を膨らませる渚がいた。
「うわ、びっくりした。来てたのか」
「……もうちょっと僕の買い物に興味持ってくれても良くない?」
ここは近くの大型複合ショッピングセンター。服に家電にレストラン、なんでもござれの大型施設で、地元の人は何か欲しいものがあれば、大抵のものをここで買い揃える。
今日は渚との約束通り、買い物に付き合うことになっている。
待ち合わせの場所に少し早く来てしまったので、動画を見て時間を潰していたのだが、集中してしまっていた。渚がきたことに気が付かなかった。
「何を見ていたんだい? 随分と集中していたみたいだけど」
「あっ、ちょ」
渚は俺の手からスマートフォンを取り上げた。画面に映っているのは有名動画サイトだ。
「『古武術実践、短刀術その2』、その前は『初心者でもわかる護身術』、『居合道全国大会決勝』……これって」
ジト目で見られ、思わず視線を逸らす。
「最近は動画で色々見られて便利だなぁー……なんて」
「これ、ひょっとしなくてもスタブレのためだよね?」
小さく頷く。渚は呆れたようにため息をついた。
渚の洞察通り、これらの動画はスタブレで少しでも強くなるために興味を持って見ていたものだ。
VRゲームと現実は当然勝手が違うが、それでも武術の達人と呼ばれる人たちの体の動きは理に適っていて、参考になる点が多い。
それが簡単にインターネットの動画で見られるのだから、良い時代だ。気になる箇所は巻き戻して繰り返し見られるのも良いポイント。
「見始めると結構面白いんだよ。最近、バトルスタイルにも選択肢を増やしてるからさ。参考になるぜ?」
「そこまでのめりこむなんて……。喜ぶべきなのか、呆れるべきなのか」
「渚はこういうの見たりしないのか?」
「ゲームで強くなるために現実の武道の動画を見たことはないなぁ。せいぜいアニメくらい?」
「あー、渚の二刀流好きはかなりアニメの影響受けてそうだもんな」
渚はスマートフォンの電源を切り、投げ返してくる。
「うぉっと! 危ないな」
「今日は僕の買い物に付き合ってくれるんでしょ。一旦それは忘れてね」
「はいはい、分かったよ。それで、今日は何を買うつもりだったんだ?」
買い物に行く、とだけ聞かされていて、具体的なプランはまだ何も知らない。渚は指折り、今日のプランを語る。
「いくつか欲しいコスメがあるのと、水着を買いたいんだ」
水着とは珍しい。夏らしい買い物だけど。
「へぇ、水着ってことは泳ぎに行く予定があるのか?」
「これから作ろうと思ってね。剣一、どうせ暇だろう?」
そういうと、渚はどこか自慢げな顔で鞄から何かを取り出した。……チケット?
「僕の母さんがくじ引きで、プールのペアチケットを当てたんだ。どう、僕とプールにいかない?」
渚が持つのは、隣町にある大きなレジャープールのチケットだ。俺は行ったことないけれど、大きなウォータースライダーや、流れるプールなどの設備が豊富で、夏のレジャーにとても人気のスポットだ。
ほう、なるほど? かなり面白そうだな?
ここ最近は朝にランニング、昼からスタブレで遊ぶばかりだった。ゲームではしょっちゅう海に行っているが、それも結局はモンスターとの戦闘ばかり。たまにはリアルでも夏っぽいイベントがしたいところ。
「俺が貰っていいのか?」
「うん。ペアチケットだから、家族で行けないからね。せっかくだから、剣一と行きたいなって」
そういうことならありがたく受け取ろう。
「ありがとう、渚。面白そうだ」
「やった! 僕は平日の方が人が少ないと思うんだ。今週は空いてるかい?」
「おう、割といつでも暇だぞ」
「それじゃあ明後日にしよう」
「そうと決まれば、俺も新しい水着がいるな。プールなんて久しぶりだ」
テンション上がってきた。
渚に連れられ、まずは化粧品売り場へやってきた。この辺りの売り場は俺とは縁遠い場所だ。周りはやはり女性客ばかりで、若干居心地が悪い。
「最近はメンズコスメも沢山あるけど」
「あんまり興味が持てないかなぁ」
軽くヘアスプレーを使うときはあるが、その程度だ。化粧どころかスキンケアも面倒がってしていない。お洒落関係には疎いので、たまに渚のファッショントークについていけないことがある。
「あ、このコロンいい匂い。どうかな、剣一」
手首に香水をつけて試してみたところ、気に入った香りのものを見つけたらしい。
渚が手首を差し出してきたので、顔を近づけ香りを確かめる。詳しくはわからないが、柑橘系の匂いだ。甘い中に爽やかさもあって、渚に似合う香りだと思う。
「夏っぽくて良いんじゃないか?」
「ならこれにしようかな」
お買い上げ決定。渚は買い物に時間をかけて悩むことがないタイプだ。いくつかの候補に絞り込んだあと、スパッと割り切って決めるので買い物に何時間も付き合わされることはない。俺に意見を求めてくることもあるが、結局最後は自分で決めてくれる。
てきぱきと売り場を回る渚の後ろを付いていれば、どうやら満足のいく買い物ができたらしい。いくつかの化粧品が入った袋を受け取り、荷物持ちとしての役目を果たす。
「そろそろお昼ご飯にしようか」
「待ってました」
ショッピングモールに備え付けられたフードコートに移動。中には色々な店が入っている。二人そろってチェーンのハンバーガーショップを選んだ。
夏休みということもあり、家族連れやカップルが多い。ほとんど満席状態だったが、運よく空いた席に座ることができた。
「食べ終わったら、次は水着か?」
「うん、そうしようか。あとは本屋にも寄りたいかな」
「なんだ、読書感想文でも書くのか?」
「そんなわけないでしょ」
ハンバーガーにかぶりつき、アイスコーヒーで胃の中に流し込む。夏の暑さにアイスコーヒーの冷たさが美味しい。
夏の予定や買い物の話と、話題がいくつか流れたあと、スタブレの話になった。
最近は渚も海イベントにかかり切りだが、前線攻略組の知り合いからダンジョン攻略の協力をしてくれないか、という話があるらしい。ひょっとすると、そろそろヤマト島の星の遺跡もクリアされるのかもしれない。
そこで唐突に思い出した。
ユニーククエストに関する情報を聞いて、そろそろ本格的に攻略のための準備を進めないといけないんだった。モーリーには仲間を集めるって言ってあるし、渚にも誘いをかけておこう。
「なぁ渚。俺がユニーククエストに挑むとき、協力してくれないか?」
「唐突だね? 何か進展でもあったのかい?」
ポテトをつまんでいた手をピタリと止めて、渚は俺の顔を見た。
「一昨日、モーリーからユニーククエストの話を聞けたんだよ」
「へぇ、よく捕まえられたね。あの人、今話題の中心だろう? 初めてユニーククエストをクリアしたから」
「そこは色々とな。それで、ユニーククエストに関する情報を教えてもらって、代わりに俺のユニーククエストにも一緒に挑むことになったんだ。要するに協力関係だな。それで、今は一緒にユニーククエストに挑んでくれるメンバーを集めている最中なんだよ」
「……なるほど、一番初めに僕に声をかけなかったことは少し気になるけど。でも、ついに本格的に剣一も動くんだね」
渚は一つ頷き、「勿論協力するよ」と言ってくれた。
「メンバーは今のところ、まだ三人だけ?」
「ああ。モーリーの情報によると、最大五人まで挑めるみたいなんだ。一人はケンさんを誘おうと思ってる」
「あの人が加わってくれるなら、心強いね」
次に会った時に誘ってみよう。
「最後の一人は?」
「まだ未定。俺が知っている人で実力者ってなってくると、あとはノブシゲさんかなぁってぼんやり考えてる。その二人に断られたときはどうしようかな」
「剣一が抱えているユニーククエストの情報を思えば、よほどの理由がない限り断られることはないと思うけれどね」
なによりユニーククエストにきちんと挑むためにはまず、あのキングモグラを打倒しなくてはならない。
レベルはあがったし、新しいスキルも覚えた。新しい武器も作って、出来る手札を増やした。挑むための準備は整えた。
それこそ、今夜にでもリベンジしよう。
気楽な買い物の誘いから断りにくい流れを作って、プールの約束を取り付けるのは冷静に考えると強い




