第六十三話:協力関係
ひとしきり笑った後、モーリーは話を本筋に戻した。
「ユニーククエストが全部で七つ。つまりまだ全く見つかっていないものがあと五つもあるわけだ」
「一つを俺が見つけてるから、案外広まっていないだけで既に誰かが見つけている可能性もあるけどな」
まぁ、そこを考えても仕方がない。
「それより、俺は『雲散無生』をクリアしたときの話が聞きたいな。何か手がかりになることもあるかもしれないし」
「分かった、俺たちがユニーククエストを攻略したときのことをもっと詳しく教えよう」
その大きな体をソファに深く預け、モーリーがゆっくりと語りだす。
「俺はアリアちゃんの好感度をあげるために、カッペルの街のサブクエストをこなし、その結果ユニーククエストに繋がる特殊なアイテムを貰った。ここまではネットに書いたんだが」
「あぁ、読んだよ」
意図せずカッペルで受注可能なサブクエストをすべてクリアしてしまうなんて、変態の行動力は凄まじい。
「ただし、後から同じことをしたウチのメンバーは、同じアイテムはもらえなかった。おそらく初めて条件を達成したプレイヤーにしか与えられないんだろう。一方でユニーククエストはボス戦だ。まさか一人でボスに挑め、なんてことを言われても困る」
実際、あんなボスをソロ攻略なんて無理ゲーも良いところだし、とモーリーは続けた。
「その特殊なキーアイテムを手に入れた時点で、ユニーククエストはクエストクリア条件がボス討伐へ変化する。ご丁寧にクエスト名も『雲散無生』から『雲散霧消』に変わったよ。まぁ、簡単な言葉遊びだな」
「凝ったギミックだな、アイテムの所持でクエスト名が変化するなんて」
「他のプレイヤーとの差別化の意味もあるんだろうな。そのキーアイテムを所持した俺をパーティーリーダーとしなければ、ボス戦には挑めなかった。リョーダン、キーアイテムに心当たりは?」
心当たり、というと、モグラを倒してゲットした認定状や、ボナパルトの家から拾ってきた、半分に割れた宝玉が候補かな。
あとは、ユニーククエストの進行条件が今のところ『封土神殿の結界を解け』となっていることもポイントだ。結界を解く手段こそが、キーアイテムになるのだろう。
「たぶん、こっちもキーアイテムがあると思う」
「なるほどな、そこは同じってわけか。俺は信頼できるギルドメンバーを集めてユニーククエストに挑み、どうにかクリアした。そうしてクリア特典のEXスキルや星喰獣の素材を手に入れたわけなんだが……ドロップアイテムの素材は参加したメンバー全員が貰えた一方で、肝心のEXスキルはパーティーリーダーの俺しか貰えなかった。ここも条件なんだろうな」
「そのEXスキルっていうのが?」
「『星喰獣化:霧消』。どうせ他の奴はゲットできないのなら隠す必要もないと思ってネットにも書いたが、案の定大騒ぎになっちまった」
はぁ、とモーリーがため息をついた瞬間。目の前に座っていたはすの彼の姿が消えた。
「…………はっ?」
そこにいたものが、一瞬で消え去る。え、ログアウトでもした?
「くっはは、良い驚き顔だな」
モーリーの声。変わらず正面から聞こえてくる。瞬きの間に、再びモーリーが現れた。
これはひょっとして。
「透明化か……?」
「正解だ。『星喰獣化:霧消』の効果はシンプル。スキル発動後、一定時間の間、任意で透明になれる。視覚だけじゃないぞ。熱源や音で探知してくるモンスターのヘイトすら切れる完全ステルスだ」
なるほど、それがEXスキルの効果か。分かりやすく、使いやすく、そして強力な効果だ。
モーリーの武器は長剣。一撃の威力が大きい反面、隙も大きい大振りの武器だ。
ところがこのスキルがあれば、相手のヘイトを切って、死角から悠々と高威力の一撃を叩きこめる。これほどシンプルで強い効果は中々ない。
おそらく、街中で俺の背後からいきなり声をかけてきたときにも、周囲にバレないようにこのスキルを使っていたのだろう。
「確かに、ヘイトを自由に切れるスキルがあれば……」
「このスキルがあれば、アリアちゃんにバレずに覗きができる」
「そっちかよ!?」
確かに、透明人間になれたら何をするか、の定番ではあるかもしれないが……。
ブレない変態に、俺はいっそ尊敬の念すら覚え始めた。
「さて、俺が教えられそうなものはこれくらいだな」
教えてくれた情報は、十分に貴重だった。モーリーに礼を言う。
「助かるよ、参考になった」
「構わないさ。それより交換条件だ。『決壊』とやらを倒す際には、是非とも俺もパーティーに入れてくれよ」
「勿論だよ。……あ、でもユニークスキルの獲得権は譲れないぞ。俺だってEXスキルが欲しいから」
「問題ない。星喰獣の素材があれば、それだけでも強力な装備が作れるからな。それに、二度もユニーククエストの攻略に関わったプレイヤーは俺だけになる」
モーリーは不敵に笑った。
「オーケー、それなら約束するよ。俺がユニーククエストに挑む際は、モーリーもパーティーメンバーとして協力してほしい」
「ああ、任せろ」
互いに握手を交わす。これで俺たちは協力関係だ。
「それで、俺はどうすればいい? 何か手伝えることがあれば、協力しよう」
「申し出は嬉しいけれど、正直、今のところは俺がクエストを進めるまで待ってもらうしかないかな。教えてもらったキーアイテムも、まだ完全には見つけ切れていないんだ。ただ、時がきたら必ず協力を要請するよ」
「ってことは、当面はレベル上げか?」
「ああ。自分の実力が低いとは思わないけれどさ、まだまだレベルが足りない。あとはユニーククエストに挑むときの仲間を他にも集めないといけないな」
強大なボスに挑むための、強くて頼れる仲間を。
「当てはあるのか?」
「一応、考えているメンバーはいる。誘いに応えてくれるかはまだ分からないけど……」
そもそも、俺の狭い交友関係の中で、頼れる実力者といえば限られてくる。その人たちを中心に声をかけてみるつもりだ。
「ふむ……それなら仲間集めの人選はリョーダンに任せるとして、俺は入り用になりそうな回復アイテムや強化アイテムの準備でもしておいてやるか」
あ、なるほど。確かに、強力なボスに挑むなら、相応のアイテムも必要になりそうだ。
ただ気になることとしては。
「……俺、お金あんまりないぞ?」
「そんなもの、ユニーククエストに対する投資だと思えば惜しくない。所詮はどうとでも稼げるゲーム内通貨だ。俺ら『アリアちゃん親衛隊』が普段、どれだけ下らないことにお金を使っていると思ってるんだ。それに比べれば安いもんだよ」
凄く説得力のある言葉だ。
頼りになる変態を仲間に加え、俺たちはユニーククエスト攻略のために打ち合わせを続けた。




