第六十二話:先駆者に会いに行く
ここはカッペルの街。いつでも人の多いこの街で、俺はすれ違うプレイヤーの顔を確認しながら大通りを歩いている。
「……やっぱ、MMOで手掛かりなしに人探しは無理ゲーかなぁ」
先日、ボナパルトの家でユニーククエストに関連する重要そうな資料を見つけた俺は、カッペルの街まで戻り、手に入れたアイテムをトレットに見せた。
しかしながらボナパルトの家で手に入れたアイテムは単体では特別なキーアイテムというわけではなかったようで、トレットのリアクションも薄いものだった。「……ふむ、なるほどのぅ」としか言わず、肝心の新しいヒントをくれなかったジジイに若干腹が立ったのは内緒だ。
やっぱり、あとはキングモグラを倒して封土神殿の調査をもっと進めないと、クエストは進行しないのだろう。
そこで、俺は一人のプレイヤーを探して街を歩いていた。
探し人の名はモーリー。『アリアちゃん親衛隊』のギルドマスターであり、つい先日、海の家で会った男。そしておそらく、今このスタブレの中で最もホットな話題の中心にいる男だ。
なにせこのゲームで唯一の、ユニーククエストをクリアしたプレイヤーなのだ。
新たなユニーククエストの手がかりを求めるプレイヤーたちは、こぞってモーリーから情報を聞き出したいと思っていることだろう。
「そういう面倒ごとを嫌って、情報を洗いざらいネットに書いた可能性も高いけどな」
彼はユニーククエストにまつわる情報をインターネット上で公開したのち、姿をくらませている。
だがカッペルの街はNPC、アリアちゃんが暮らす街だ。当然のように『アリアちゃん親衛隊』のメンバーもカッペルを拠点に活動しているので、ここなら会える可能性はゼロじゃない。
「まぁ、ゼロじゃないだけで可能性低いけどなぁ。そもそもログインしているのかすら分からないし。こんなことなら、海イベントのときにフレンド申請送っておけばよかった」
「どなたかお探しなんですか?」
「ああ、モーリーを……ってうわぁ!?」
いきなり背後から声をかけられ、叫び声をあげてしまった。
振り返ると、どこから現れたのだろうかアーちゃんが立っている。
「び、びっくりした……」
「えへへ、驚かせちゃってごめんなさい、リョーダンさん!」
ニコッと笑うアーちゃんは、今日も元気そうだ。
……何だか、アーちゃんとタイミングよく会う機会が多い気がする。気のせいだとは思うけど、最近ちょっと怖い。
「ど、どうしてここに……?」
「お散歩していたら、リョーダンさんの姿が見えたので! それよりモーリーさんって、この前に海の家にいた方ですよね?」
「あ、ああ。ちょっと話を聞きたくて探しているんだ」
「それなら、メッセージで今どこにいるか聞いてみましょうか?」
「マジで!? いつの間にフレンドになってたんだ……?」
「私、お友達が沢山ほしくてゲームを始めたので、お会いした方とはたいていお友達になってますよ?」
アーちゃんが最近本当に怖い。
「ぽちぽちぽちっと。これで良し!」
善は急げと、さっそくメッセージを送ってくれた。ところが、
「あれ、断られちゃいました……?」
「断られた?」
「最近、ユニーククエストのお話を聞きたいっていう人が多すぎて疲れたから、だそうです……」
「なるほどな、そりゃそうだ」
俺みたいに、モーリーから話を聞きたい奴は大勢いる。そんな連中をいちいち相手になんてしていられないだろう。
だが、俺には相手から話を聞き出すための切り札がある。
アーちゃん経由で伝えると情報漏洩になりかねないが、この際仕方ないだろう。アーちゃんならいいか、という思いもある。
「じゃあアーちゃん。『二匹目は決壊。一枚噛まないか?』ってメッセージを送ってくれないか?」
他の星喰獣の名前を出せば、俺が他の奴よりも事情を詳しく知っている側だと伝わるはずだ。
「にひきめ……? けっかい……?」
「そう、それをメッセージにしてほしい」
「分かりました。ぽちぽちっと……」
アーちゃんが首を傾げながらもメッセージを送ってくれる。
さぁ、返事はどうなるか。
「……リョーダン、お前知ってるんだな?」
「どゅわぁ!?」
いきなり背後から声をかけられた。心臓止まるわ!
振り返ると、そこには大柄の男。モーリーが立っていた。
「お、お前、いつから!? てかどこから!?」
「タネ明かしは後でしてやるよ。数日振りか?」
「あら、モーリーさん! こんにちは! メッセージ見てくださったんですね!」
「よう、アーちゃんこんにちは。それよりリョーダン、その名前はどこで知った?」
口から飛び出そうになった心臓を落ち着かせ、俺はひとつ深呼吸をして答える。
「二匹目の手がかりを知っているんだ。だからこそ先輩に話を聞きたくてな。場合によっては、協力をお願いしたいとも思っている」
気取ったようにニヤリと笑いかければ、モーリーは真剣な表情で考え込む。だがそれもすぐのことで。
「うちのギルドハウスに招待しよう。そこならゆっくり話ができる」
交渉成立だな。
「あの、私は……」
「アーちゃんすまないな、ここからはリョーダンと二人で話をさせてくれ。この埋め合わせはまた今度」
「ごめんなアーちゃん、モーリーに連絡とってくれて助かったよ」
「なるほど、私は都合のいい女、ということですね!」
「「その言い方はやめてくれ」」
モーリーに刺さる言葉だ。……俺には刺さってないからな?
アーちゃんとは埋め合わせのために、モーリーとの話が終わった後に一緒に遊ぶことを約束してから一度別れた。
モーリーに案内されるままに後をついていく。
「遠回りで悪いな。人混みを避けたくてよ」
「いや、仕方ないさ。今のあんたが大通りを歩いたら、それだけで騒ぎだろ」
なるべく人通りの少ない路地を通ってたどり着いたのは、小さいながらも作りのよい屋敷だ。白塗りの外壁と手入れされた庭の草木のコントラストが美しく、品の良い印象を与える。
ただし、寒気がするほど精巧に作られたアリアちゃんの等身大人形が玄関の脇に置いてあり、その印象を見事にぶち壊している。
……ブレないなぁ、この人たち。
「ここが俺たち『アリアちゃん親衛隊』のギルドハウスだ」
「……この人形が何か突っ込んでもいいやつ?」
「うちのメンバーが、あの手この手でアリアちゃんのスリーサイズを把握して作った人形だよ。中々よく出来ているだろ?」
その行動力をもっと別のことに回せ。
ちょうど建物の中からギルドメンバーが出てきた。
「あれ、モーリーさんお疲れ様です。そっちの人は?」
「俺の客だ。応接間、誰か使っているか?」
「今は空いてますね」
「なら、奥の応接間を借りるぞ。できれば、人払いも頼む」
ギルドメンバーの人に軽く挨拶をしてから、屋敷へ入る。屋敷の中もお洒落な調度品とアリアちゃん関連のグッズが半々くらいの割合で飾られていて、リアクションに困る。癖の強い建物だ。
そのまま応接間に案内され、ようやく二人きりになった。
「さて、ここなら誰かに聞かれる心配もない。ゆっくり話ができる。……それでリョーダン。本当にユニーククエストについて知っているんだな?」
「勿論だ。とはいえ、まだボスに挑める状況じゃない。予想は立っているが、前提クエストが終わっていないって状況だよ」
「なるほどな、それで俺から少しでも手がかりになりそうな情報を聞き出したいってわけだ」
「とはいえ、俺ばかり聞いてもあんたの得にならないだろ。お互いメリットのある話がしたい」
俺はトレットから『星喰獣』について色々と聞いているからな。まずは手探りで情報を出しながら、相手とすり合わせていこう。
「星喰獣が全部で何体いるか、モーリーは把握してるか?」
「ああ、一応把握している。……試すような物言いで悪いが、リョーダン。お前はちゃんと知っているのか?」
「全部で七体いる。確か、モーリーが倒したのは『霧消』だったか?」
「『霧消の白虎ランザ』って名前のボスモンスターだったな」
「俺が狙っているのは『決壊』って二つ名だ。他に『獄炎』『流水』『凍結』『暴風』『雷鳴』って二つ名の星喰獣がいる」
モーリーは顎に手をあて、視線を下げる。考え込む姿勢を五秒ほどとってから、頬を緩めて口を開いた。
「俺が知っている星喰獣の情報と合致するな。オーケー、分かった。これまで俺に話を聞いてきた奴とは違うみたいだ。俺も惜しむことなく情報を教える。だから、一枚噛ませてくれ」
「勿論初めからそのつもりだ。……ちなみに興味本位で聞くけど、話を聞きに来た奴はそんなに沢山いたのか?」
聞けば、モーリーは「マジで多いぞ」と。
「フレンドのDMだけでも溢れかえるレベルだな。それどころか、スタブレ外のSNSでも知らない奴からメッセージが来る。大抵は、ロクに情報も持っていないまま、話を聞きたいです! と来るから無視してるがな」
「すご、有名人は辛いな」
「よく言うぜ、お前も名が売れてきてるぞ?」
「……マジ?」
全然知らなかったけど。
「主にナギのせいもあるけどな。ここ数日、ナギと一緒に仲良く海イベで遊んでるからよく目立っているんだろ。嫉妬半分、実力半分で掲示板とかで名前見るようになってきたぞ? 知らなかったのか?」
「……そういうのが怖いから、ネットの掲示板はほとんど見ないようにしているんだよ」
「くははっ、それがいい」
モーリーは肩を揺らし、ケラケラ笑った。
アーちゃんはネトストの才能に溢れた女の子です。




