第六十一話:バトルスタイルと弱パンチ
――対戦開始!
「〈土竜突〉、〈抜刀〉!」
最速コンボで正面から突撃。先制で重たい一撃をかましてやる。
腰の鞘から流れるように居合刀を抜いて、横薙ぎに切りつける。
弾け飛ぶような甲高い金属音と、火花のように舞い散るエフェクト。痺れるような硬い手ごたえ。
受け止められたと、感覚だけで理解する。
「っ!」
加速して体重を乗せた渾身の一撃だぞ? しかも居合刀のフルチャージだ。それを受け流すのではなく正面から受け止めるとか、いくらレベル差があるとはいえ、どういうSTRしてるんだよ!?
受け止められて体に急制動がかかる。がくんと揺れる視界が思考に追いついてきて、驚きで大きく見開いたナギの瞳と視線がぶつかった。
しかしそれも一瞬のこと。次の瞬間、ナギの瞳の奥に闘志の炎が燃え上がるのを見た。
受け止められたのは左手の剣。つまり、右手の剣で追撃が来る!
「せぇい!」
「当たるかよぉ!」
予想通りに振るわれた右手の剣を、体を逸らして避ける。鋭く風を切る直剣を見送り、そのままバク転ついでにナギの顎を目がけて蹴りを放つ。
ダメージはないが、当たれば体勢を崩させることくらいはできるだろう。
咄嗟にナギも体を引き、互いに距離が生まれる。その隙に居合刀を鞘に戻し、チャージを溜める。
だが、一息ついた瞬間には眼前までナギが迫っていた。
「高いAGIが自分だけの長所だと思ったらダメだよ、リョーダン!」
「くっそ、速ぇ!」
チャージのために時間を稼ぎたいが、そうはさせてくれない。
小さな体を活かすよう、低く深く切り込んでくる。
右足目がけて低い斬撃。足元を嫌って一歩引けば、不安定な体勢のところを逆の剣で狙ってくる。
畳みかけるような連続攻撃、それでいて一撃が致命に繋がる威力を持っている。
右手、左手と連続して思い切り剣を振れば、普通は体勢が乱れるものだ。重い直剣を振りぬけば、切り返すまでに僅かな隙が生まれるのが普通。
ところがナギは振った剣を高いSTRで素早く引き戻し、時には体を回転させて絶え間のない連続攻撃を実現している。
「〈瞬歩〉!」
体捌きだけでは避けきれないと判断。後ろに向かってスキルを発動。素早く跳躍してどうにか距離を作る。
だが、それで稼げるのはほんの数秒にしかならなかった。
「逃げてばっかりじゃダメだよ!」
反撃に移るきっかけが作れない。攻撃のペースを握ったままのナギが飛び込んでくる。スキルエフェクトが二本の剣に宿った。
「〈クロススラッシュ〉!」
「〈ハイジャンプ〉」
交差して放たれた斬撃を、ジャンプして回避する。
「空中は隙! 〈エアスラッシュ〉!」
「お前もそれ使えるのかよっ!」
前にも見た飛ぶ斬撃スキルだ。それ俺も欲しい!
〈エアステップ〉で姿勢を変えて、飛んでくる斬撃を空中でギリギリ回避。着地の隙を減らすため、斜め下方向に向かって空中を蹴り、なるべく速く地面へ。
着地、同時に背中から突きが飛んでくる。体を捻り、紙一重で回避。
「甘い! 〈旋風剣〉!」
突きこんだ剣がそのままスキルエフェクトを纏った。ナギの体が素早く回転し、横向きに剣が振りぬかれる。抉るような回転斬撃に巻き込まれる。
チャージを諦め、鞘から刀身を引き抜いて間一髪で受ける。タイミングを合わせて体を捻り、少しでも衝撃を受け流す。
「ぐぉっ!?」
だが、全てを受け流しきれるわけではない。胴まで突き抜けるような重い衝撃。体が吹き飛ぶ。
防御の上からHPを思いっきり削り取られた。次はたとえ防御してもHPが全損させられそうだ。
空中でどうにか納刀。そのまま回転する体の姿勢を制御して、着地の体勢を取る。
「まだまだっ!」
「追撃しつこいなぁ!」
ナギは攻撃の手を一切緩めることがない。着地後、息つく暇もない。
〈錬気〉を発動してチャージを少しでも溜め、即座に〈抜刀〉。二割しかチャージできていないため、威力は大したことないが牽制にはなるはず。
飛び込んでくるナギ目がけて横振りに斬る。左手の剣で払いのけられた。〈連閃〉に繋いで、もう一撃。今度は右手の剣で受け止められる。
マズい。そう思った時には、既にナギの左手の剣が引き戻され、俺の首を狙っている。
首の斬撃はきっと避けられる。体を逸らす。顔のギリギリを直剣が振りぬかれる。
でも――次はもう避けられない。攻撃の繋ぎ目に迷いがなさすぎる。右、左と続く連続攻撃を捌ききるだけの手札がもう残っていない。
「貰ったっ!」
右手の剣が俺の胴に直撃。上半身と下半身はあっけなく泣き別れした。
「いや、勝てねぇ」
あれから三回、ナギに勝負を挑んだのだが、ものの見事に全敗した。STR、AGIともに勝るナギの猛攻に耐えきれず、押し切られる形で連敗だ。
勝って嬉しいのか、ドヤ顔気味のナギが自慢げに胸を張る。
「ふふふ、どうだいリョーダン。少しは僕のことを見直したかい?」
「見直すもなにも、初めから格上だと思って挑んでるよ」
「まぁ実際、レベル差を考えればリョーダンに勝たれると僕の立場がないからね。負けるわけにはいかないよ」
互いの健闘を称えた後、俺はナギにアドバイスを求める。
「で、どうだった? もっと強くなるためにはどうすればいいと思う?」
「二刀流になれば良いと思う」
「いいよその話は」
どれだけ二刀流を推したいんだ、コイツは。
と思ったのだが、意外にも真面目な理由があるようで。
「実際、手数の少なさが弱点だね。居合刀はチャージ攻撃が強力な反面、牽制になる攻撃が一切ないだろう? 例えるなら、今のリョーダンには弱パンチがないんだよ」
そう言われれば、なるほどと俺も頷くしかない。
「弱パンチか……確かにな」
「実際に戦ってみた感想だけどね。リョーダンの初撃は怖かったけれど、それさえしのげば後はあまり怖くなかったんだよね。牽制があれば相手だって攻撃の手を緩める。でも、今のリョーダンは一度受け身に回ったら相手のペースに呑まれちゃうんだ。攻撃を受け流すことも、反撃を差し込むこともできないまま一方的に避けるだけだと、いずれ限界がくる。これまでは速度の差で相手の間合いに入らないよう避けながら戦えたと思うけど、敵がリョーダンの速度に対応して間合いを外させてくれなかったら、今みたいになると思うな」
「耳の痛い話だな。でも確かにそうだ。それで二刀流がオススメってわけなのか?」
「分かりやすく手数を増やす方法の一つだからね。僕のフォロワーで居合刀を使っている人は、二本装備して片方ずつ交互に使って攻撃するらしいよ?」
「お前のフォロワーって、要するに二刀流狂信者のことだろ。……とはいえ、他の居合刀使いの戦い方も参考にしたいな」
俺以外にも居合刀を使っているプレイヤーは当然いる。
例えばノブシゲさん率いるギルド『戦国同盟』の人の中には、日本刀から居合刀に乗り換えたという人もいた。そういう人たちからもアドバイスを貰っても良いかもしれない。
「何となく課題が見えてきたよ。ありがとうな、ナギ」
「ふふっ、どういたしまして」
それはそれとして、負けたのは悔しいのでいつか見返してやろう。
俺はそう心に決めた。
リョーダンは一番ノリに乗ってるときでレベル差20前後をひっくり返せる程度。流石にそれ以上差が開くと、今の段階では勝てません。




