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剣しか勝たんVRMMO  作者: 雉里ほろろ
第三章:海に轟く勇名 地に眠る神名

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第六十話:ナギを相手に腕試し


 アップルパイを利用して、レベルが35まで上がった。これまでに比べると、かなりハイペースなレベルアップだ。手に入れた能力値ポイントをAGIに重点的に割り振る。


「こうやってレベルアップしても、イマイチ強くなった実感が薄いなぁ」

「モンスターと戦ってレベル上げするのと比べれば、そうかもね」


 自分の手のひらに目線を落とす。体の感触を確かめるように、数度、拳を握ったり開いたりする。

 レベル上げの方法に不満があるわけではない。効率よくレベルを上げて、それで強くなるのは俺も好きだ。

 けど、それだけでは足りない。あのキングモグラには届かない。

 一度戦ったからこそわかる。あのキングモグラの強さは、並のモンスターをいくら倒したところで得られない、戦いの経験値が積み重なって作られた強さだ。

 それに剣を届かせるには、俺も同じように強者との戦いを積み重ねる必要がある。レベルを上げるのはスタートラインに立つための前準備で、そこから自分の強さを研ぎ澄ましていかないといけない。

 そこまで考えて、自分の考え方が随分と戦闘狂になってきていることに気が付いた。

 順調に思考回路が剣に染まってきているな、俺も。ゲームのやりすぎには気を付けよう。

 ブンブンと頭を振って邪念を取り払う。

 ナギが不思議そうに俺を見ていた。何だか気まずくなって、頬をかく。


「どうしたの、急に頭なんて振って」

「いいや、なんでもない」

「そう? ならいいけれど。はい、リョーダンも食べるかい?」


 ナギは俺のすぐ隣に腰を下ろした。手にはりんごを持っている。


「ありがとう、貰おうかな」


 受け取ったりんごに噛り付く。少し酸っぱい気もするが、瑞々しいりんごだ。美味しい。


「……こういうときは咄嗟に、VRってことを忘れそうになるな」

「んぅ?」


 俺の言葉に反応して、ナギが顔を上げた。


「いや、最近は特に海イベントで、戦ってばかりでさ。久々にこうしてゆっくりVRゲームの中で過ごしていると、ゲームの中だってことを忘れそうになるよ」

「あー……確かにね。りんごは美味しいし、風は涼しいし。現実と変わらないよね」

「でも、ココだからできることも多いんだよなぁ」


 一口かじったりんごを脇に置いて、インベントリから新しいりんごを取り出す。並べたそれを順に放り投げ、拾って、ジャグリングをする。


「ほっ、よっ、ほっ」

「うわ、凄いね。リョーダン、そんな特技があったんだ」

「いや、多分現実ならできない」


 子供のころ、お手玉で三つが限界だった記憶がある。

 りんごを五つも使ってジャグリングができるのは、VRの中だからだろう。頭でイメージする体の動きが、現実よりも正確に再現されているからだ。DEXを重点的にあげているのも影響しているかもしれない。


「現実よりも重いものが持てる、速く走れる、器用に体が動く。こっちに慣れすぎると、現実で支障がでそうで怖いな」

「フルダイブVRの依存症とかで、そういう症例がないわけでもないけれど……でも、そこまで深刻視するほどでもないよ。たかだか数時間、数十時間仮想の体を動かしただけで、元の体の動かし方を忘れてしまうほど、人間の脳も馬鹿じゃないってことだね」


 それもそうか。もしそんなことになるのなら、今頃フルダイブVRゲームは規制対象だ。




 心地よい風を感じながら、二人で並んでのんびりと時間を過ごすこと30分ほど。


「さて、そろそろお開きにするか?」


 ナギには三時間も地味な作業に付き合ってもらったしな。今日はこの辺りで解散がいいだろう。


「え、そうかい……? もう少しなら僕は時間があるけれど……」


 ところが、ナギは名残惜しそうだ。せっかくだからもう少し遊びたい、という様子が見え隠れしている。

 俺も夕食の時間まであと一時間くらいはあるし、もう少し遊べる。

 とはいえ何をしたものか。個人的にはモンスター狩りにでも行って、戦いの練習がしたいところだけど……。


 そこで、俺に電撃的な閃きが降りてきた。


 目の前の、俺の幼馴染、ナギ。彼女はこんな風に俺のレベル上げに付き合ってくれているが、かつてあったPVP大会でベスト16に入るほどの実力者だったりする。レベルも上限解放以前はカンストしていたスタブレ廃人の一人だ。


「……あれ? これ打ってつけの相手じゃねぇ?」

「え、なに? いきなり何の話だい?」


 俺は改めてナギに向き直った。


「時間があるなら、もう少しだけ付き合ってほしい」


 俺の言葉に、ナギの顔がパッと明るくなる。


「もちろん大丈夫だよ。何をするつもりなんだい?」

「ナギ、俺とPVPをしようぜ」


 ナギは丸い目をパチパチと瞬かせた。


「えっ、いきなりなに?」

「ナギと戦って、俺の今の実力を確かめたいんだよ。あと、戦い方にアドバイスが欲しい」

「なるほどね。別にいいけれど……それでいきなりPvPだなんて、どれだけ戦い好きなのさ」

「うるせぇ、俺も最近自覚がある」


 苦笑気味だが、ナギは頷いてくれた。


「まぁ、スタブレを遊んでいる人はみんな、多かれ少なかれバトルアクションが好きで遊んでいるからね。僕だってそうさ。いいよ、やろうか」


 よっしゃ、りんご拾いで溜まった鬱憤を発散するぞ。




 場所を変え、村を出てすぐの平地まで移動する。ここなら、人目もないし広いので、思いっきり走り回れそうだ。

 ブーツの先で軽く地面を蹴って、感触を確かめる。


「ルールは普通に、どちらかがHPが尽きるまででいいかい?」

「ああ、それでいいぞ」


 とはいえ、ナギの火力なら一撃で俺のHPは吹き飛ぶだろうけどな。

 ナギと向かい合えば、対戦申請が飛んでくる。これを承認。

 お互いに距離を取って構える。間は5m程度。

 目の前に、対戦開始までのカウントダウンが浮かび上がった。


「思えば、リョーダンとこうして何かで勝負するって、初めてじゃないかい?」

「そうだったか?」

「だって勉強なら僕がいつも教える側だし、スポーツは男女で勝負すること、あまりないだろう? 体育の授業だって、そういう競技の時は男女で分かれるから」

「言われてみれば、確かにそうだな」


 ナギは嬉しそうに笑った。二本の剣を八の字に開くよう広く構える。


「でも、ゲームなら男女も関係ないよね。やるからには手加減しないよ、リョーダン!」

「あぁ、本気で来てくれたほうが俺も練習になる」


 腰の居合刀(ヤマトブレード)に触れる。いつものルーティンのように感触を確かめれば、俺の中のスイッチがカチリと入る音がした。

 さぁ、やるか!

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