第五十九話:無限レベルアップルパイ
レッツギャグ回
翌日も俺はスタブレにログインした。今日はナギに、俺のレベル上げを手伝ってもらう約束だ。代わりに、週末の買い物に荷物持ちとして付き合う取引になっている。
ということで早速ナギと合流。待ち合わせに指定されたのはニール港だ。そのままレベル上げが出来る場所まで移動するらしい。
「やっほ、リョーダン」
「よっす、ナギ」
合流したあとは二人して飛行剣に乗り、ニール港から北東方向へ移動していく。この辺りは俺も来たことがない場所だな。
「レベル上げって、具体的に何をするんだ? やっぱり効率良いモンスター狩りとか?」
「いいや、無限レベルアップルパイだよ」
「……何だって?」
「無限レベルアップルパイ」
訳が分からないので詳しい事情を聞く。
俺たちが今向かっているのは、ニール港からやや離れた場所にある森の中の集落、スニーズ村という場所だ。
その村の中で受注可能な『サブクエスト:家族のためのアップルパイ』を使ったレベル上げ方法のことを、そう呼ぶらしい。
クエストの内容はタイトル通り、家族のためにアップルパイを作りたい女性NPCに、採取アイテム「りんご」を集めてきてあげるだけのシンプルなものだ。
ただし、この「りんご」はとある方法で大量に採取可能であり、クエストは何度も繰り返し受注できる。この方法を組み合わせ、クエストクリア報酬で得られる経験値でレベル上げを実施する方法のことを『無限レベルアップルパイ』と呼ぶ。
普通にフィールドを歩き回ってモンスターと戦闘するよりも、簡単かつ効率よく経験値を手に入れられるらしい。最も、クエストを利用したレベル上げのため、スキルの経験値は得られないので注意が必要らしいが。
「リョーダン、今はレベルいくつになったの?」
「最近は海イベントのおかげで、かなりレベルが上がったぞ。ええと今は――レベル30だな」
海イベントのレイドバトルは、多くのプレイヤーが関わっているのでその分だけ経験値も分散するのだが、ボスのレベルが高いこととでプラスだ。ありがたくレベルを上げさせてもらっている。
「おお、かなり上がってるね。ついに30の大台に乗ったんだ。それなら、今日の目標は35にしておこうか」
「一日でそんなにレベルを上げられるのか?」
「うん、レベルをあげるだけなら、この方法を使えばすぐだよ」
そうこうしているうちにスニーズ村に到着。森を切り拓いて作られた村のようで、丸太を組み合わせたログハウスが何軒も並んでいるのが特徴だ。規模としては、カラム村よりも少し人口が多いだろうか。
そのうちの一軒にお邪魔して、『サブクエスト:家族のためのアップルパイ』を受注する。
相手はどこにでもいるような、妙齢の女性NPCだった。家族のためにアップルパイを作りたいというNPC、サマンサさんのためにりんごを五個集めてくるだけの簡単なお使いクエストである。
「それじゃあ、りんごを五個持ってきておくれ、よろしくね!」
「任せてください。――んで、ナギ。次は?」
「次はりんご狩りだよ。ちゃんとインベントリの中を軽くしてきたかい?」
「ああ、要らないアイテムは極力、宿に預けてきたぞ。けれど、どこでりんごを集めるんだ?」
「この村にはりんご農園があるから、そこで採取するんだよ」
ナギの案内で村の外れにくると、お目当てのりんご農園があった。
動物避けの柵の内側には等間隔に植えられたりんごの木が並んでいる。手入れが行き届いており、近くには農作業に勤しむNPCの姿もあった。ひょっとするとこの村の主要産業だったりするのかな。
「これ、勝手に取って良いのか?」
「うん、別に怒られるわけじゃないからね」
勝手知ったる顔で農園の中に入っていくナギの後ろを付いていく。
ナギはりんごの木を指さし数えながら歩いていき、やがて一本の木の前で立ち止まった。
「入口から三列目、手前から七本目……この木だね」
「この木がどうかしたのか?」
見た目は周りの木と何も変わらないけれど。
するとナギはおもむろに、背中の剣を抜いた。そして躊躇うことなく目の前の木を切りつける。
「せいっ!」
ズドン、と音を立てて木が揺れる。衝撃で大量のりんごが落ちてきた。その数は十個ほど。普通の採取ポイントが一度に多くてもニ、三個のアイテムがゲットできる程度なので、異様に多い。
「この木だけドロップ数が高く設定してあるんだ。叩けば叩いただけりんごが落ちてくるよ」
「バグでは?」
「開発主任プログラマの人がSNSで質問されたときに、『仕様です』って答えたらしいよ」
「それマジで言ってる?」
「現に、運営も把握しているようだけれど修正されてないから、良いんじゃないかなぁ。プログラマの人も『いいぞ、もっとやれ』って煽っていたからね」
「ホントに良いのかよそれで」
繰り返し、ナギがりんごの木を叩く。ボトボトと大量にドロップし続けていたりんごだが、四度目で落ちてこなくなった。アイテムドロップは打ち止めのようだ。
地面に落ちた大量のりんごをナギと一緒になって拾い集める。
「ほら、次はリョーダンの番だよ」
「あれ? でも今のでもう採取上限になったんじゃ?」
こういったフィールド上の採取ポイントは、連続して採取できる回数が決まっていて、採り尽くしたら再度利用できるようになるまでのクールタイムがあるはずだ。
ところがこの木は事情が違うようで。
「それは僕の分。リョーダンの分はまだ採取できるよ。それに、この木は一度他のプレイヤーが採取を挟めば、何故かクールタイムがリセットされてもう一度採取できるようになるんだ。だから二人のプレイヤーで交互にやるんだよ」
「そ、そうなのか……」
装備を変更して、『始まりの日本刀・改』に持ち換える。コイツもすっかり採取用の装備になっちゃったなぁ。
日本刀を振りかぶって木に叩きつける。ナギの時と同じくらい、大量のりんごが落ちてくる。
俺の分のドロップが打ち止めになればナギに交代。それを繰り返して、インベントリいっぱいになるまでりんごを拾う。
結果、二人合わせてニ百個以上のりんごがインベントリに詰めこまれた。
「さぁ、これをさっきのNPCに渡しに行くよ」
「何人家族ならこれだけの量のりんごを使いきれるんだろうな」
民家まで引き返し、クエストクリアの報告をする。NPCの女性に拾ってきたりんごを五個渡すと、彼女は喜んでそれを受け取った。
「ありがとう、冒険者さん! これでアップルパイが作れるわ!」
「ええ、どういたしまして」
「また困ったことがあれば、頼むわね!」
「ええ、任せてください。ところで、アップルパイを作ると聞いたのですが」
「そうなのよ! 家族のためにアップルパイを作ろうと思っているの。そのために、りんごを五個集めてきてくれないかしら?」
――『サブクエスト:家族のためのアップルパイ』が発生しました。
インベントリからりんごを取り出して、目の前の彼女に差し出す。
「ありがとう、冒険者さん! これでアップルパイが作れるわ!」
「ええ、どういたしまして」
「また困ったことがあれば、頼むわね!」
「ええ、任せてください。ところで、アップルパイを作ると聞いたのですが」
「そうなのよ! 家族のためにアップルパイを作ろうと思っているの。そのために、りんごを五個集めてきてくれないかしら?」
――『サブクエスト:家族のためのアップルパイ』が発生しました。
クエストクリアとクエスト受注をその場で何度も繰り返す。スタブレのNPCは一見、そうと分からないくらいに高度なAIを使用しているので、普段は意識することは薄いのだが、このときばかりは目の前の相手がNPCなんだと強く理解させられた。
「会話のループを繰り返してると、頭がおかしくなりそうだな」
「何を言っているんだい、まだ一往復目じゃないか。お使いクエスト一回で貰える経験値はそこまで多くないんだから、これを何往復も繰り返すんだよ」
「え゛」
手持ちのりんごがなくなれば、農園まで行って大量採取。民家に戻れば、NPCと会話ループ。
虚無感に襲われる作業を五往復ほど繰り返せば、ついにレベルがあがった。
「こ、これでようやくレベルアップ……か」
「レベルが40よりも低いうちなら、戦闘するより経験値の時間効率が良いんだ。採取ポイントまで近いから、移動もほとんどないしね。さぁ、目標のレベル35までどんどん繰り返すよ!」
「ナギはこれやってて楽しいか?」
「リョーダンと遊べるなら僕は割となんでも楽しいよ?」
「そっか……」
三時間後、俺のレベルは無事に目標の35に到達し、代わりに心から何か大事なものを一つ失ったような気がする。




