第五十六話:動き出す時代
夏イベント真っ盛り、スタブレを遊ぶ多くのプレイヤーが連日浜辺に繰り出し、襲い来る魚介を狩ってはバーベキューに明け暮れる、パリピな日々を送っている。俺もその例に漏れず、ナギやアーちゃんと共にイベントに参加して、海洋モンスターや、時折やってくるレイドボスを撃退していた。
そんなある日、スターブレード・ファンタジーの掲示板に衝撃的なニュースが流れ、瞬く間に広がった。
『ユニーククエスト:雲散無生』のクリア。
多くのプレイヤーがこぞって受注し、しかし長らく攻略の糸口すら見つからなかったユニーククエスト。そのクリア者が現れたのだ。
ガセではないか、という意見もあったが、それは即座に否定された。クエストを受注していたプレイヤーたちの受注クエスト一覧から、『ユニーククエスト:雲散霧生』が消えていたからだ。
すなわちユニーククエストは一度きりのクエストであり、先にクリアした者が本当にいるということを証明している。
何より、クエストをクリアしたプレイヤーが、ユニーククエストに関する多くの情報を惜しみなくインターネット上に公開したのだ。これにより、クリアを疑う者は誰一人としていなくなった。
クリアした英雄の名はモーリー。ある意味で悪名高いギルド『アリアちゃん親衛隊』のギルドマスターだ。
彼はユニーククエストの情報を惜しみなく公開した。
まず真っ先に寄せられた質問は、クエスト進行条件について。
西風の平原に現れる霧の中へ、誰も侵入することができず、攻略できなかったこのユニーククエスト。この進行条件は何なのか。
これに対し、モーリーは己の推論を交えてこう述べた。
「『ユニーククエスト:雲散無生』の進行条件は『カッペルの街で受注可能なすべてのサブクエストをクリアする』こと」
カッペルの街には数多くのNPCがいて、彼らから受注可能なサブクエストは無数にある。内容も王道なモンスター退治から、わざわざ好んでやりたいとは思えないお使いのような地味なクエストまで、多種多様だ。
そして、モーリーはそれら全てのサブクエストをクリアしたと語る。
理由は単純。カッペルの街のNPCから寄せられるお悩みを解決すれば、巡り巡ってアリアちゃんの好感度が上昇するからだ。
NPCの好感度を求めて、街のゴミ拾いのような旨味のないサブクエストすらひとつ残らずクリアしたモーリーは、すべてのクエストクリアにより、アリアから特殊アイテムを貰ったと語る。
そのアイテムを装備しているときのみ、侵入方法が分からなかった霧の中へと入ることができたそうだ。
そしてその中で強大な魔物を打倒し、『雲散無生』をクリアしたと宣言した。同時に、クエストクリア報酬によって特殊なスキルを入手したと語る。
それはこのスターブレード・ファンタジー唯一の『星剣使い』、ケンが所持する特殊なEXスキル『星剣観測:赤』と並び立てるような、強力なものだと。
その名も、『星喰獣化:霧消』。
ユニーククエストのボスモンスター、『霧消の白虎ランザ』討伐報酬として獲得した、EXスキル。
これにより、ユニーククエストと星喰獣の関連が明らかになると同時に、ユニーククエストクリアの誉れと強力なEXスキルを求め、多くのプレイヤーが第二、第三のユニーククエストに感心を寄せるようになった。
「――以上が、この土日に起きたスタブレのお祭り騒ぎの経緯だよ」
渚は神妙な目で、俺に語った。
ちょうど別の予定が入っていて、二日ほどログインをしなかった間に、スタブレではそんなことになっていたらしい。
水着イベントに触発され、リアルでも体を鍛えようと夏休みの早朝ランニングを始めたところ、偶然にも渚に出会った。
そのまま流れで近くの公園で雑談をしていたら、スタブレの話題になり、こうして渚がこの土日での出来事を教えてくれたのだ。
「……で、予想はつくけれど、俺に何でそんな話を持ってきたんだ?」
「剣一はユニーククエスト進められそう?」
俺は頭の後ろに手をやって、視線を逸らした。
「いやぁ、しばらく放置してた」
そういえば、この前に封土神殿に潜って手に入れた日記や錆びた剣をトレットのところに持っていくこともしていない。
新しい防具を作ったり、因縁のトラにリベンジしたり、夏イベントを楽しんだりと、立て続けに色々なことをしていたから、ユニーククエストに関することはすっかり頭から抜け落ちていた。
「今、色んな人が新しいユニーククエストを探しているんだ。剣一が見つけた新しいユニーククエストだけど、二人目が見つけ出さないって保証はどこにもない。先を越されて、後悔しないようにした方が良いよ」
「そうだなぁ。手がかりはあるから、優先して進めてみるか」
とはいえ、今立ち塞がっているキングモグラを打倒するにはまだまだ実力が足りない。もっとレベルを上げる必要がある。
「なぁ、オススメのレベリング方法とかないか? ユニーククエストを進めていくにしても、レベルが足りないとどうしてもモンスターに勝てなくてな。ちょっと手詰まりな感じなんだ」
「レベリングかぁ。促成栽培的な方法はいくつかあるけれど……必要なら手伝おうか?」
「お願いできるか?」
俺自身の戦いの腕前を磨くことは大事だが、そもそも多くのゲームで一番の攻略方法は『レベルをあげて物理で殴る』なのだ。
今は早急に、レベルを上げる必要がある。
「いいよ、それなら準備しておくよ。明日でも大丈夫かい?」
「ああ、頼むよ。代わりに何かしてほしいことはあるか? 俺に手伝えることがあれば、手伝うぞ」
「あっ、それなら今週末、買い物に付き合ってよ。欲しいものがいくつかあるから、荷物持ちをお願いしたいな」
「それくらいならお安い御用だ」
「本当だね? 約束したからね?」
妙に念押しをされつつ、渚と別れる。
その後、ランニングでひと汗流した。
昼からはスタブレで遊ぼうかな。渚に言われたから、ちょっとユニーククエストのことが気になり始めたし。




