第五十七話:新たな手掛かりを求めて
スタブレにログインし、やってきたのはカッペルの街の図書館。目的の相手は、定期的にお世話になっている考古学者のNPC、トレットだ。
前回、封土神殿に潜った際に、日記やらボロボロの剣やらが手に入った。これらを見せれば、また新たな手掛かりが得られるかもしれない。
「ということでこんにちはー」
「例の件かね?」
受付で暇そうにしていたトレットに声をかけると、そのまま流れるように奥の部屋へ案内された。以前と同じく、他の人にユニーククエストに関する話の内容を聞かれないためだろう。
「それで、冒険者殿。わざわざ訪ねてきたということは、何か新しいことが分かったのかね?」
「ああ、これを見てくれ」
机の上に、封土神殿で拾ってきた日記と錆びた剣を置く。
「誰もいないと思っていた地下遺跡に、人が生活していた痕跡があったんだよ。この二つはそこで拾ってきたんだ」
「ふむ、つまりは遺跡に入った先駆者がいた、ということか」
トレットはまず、日記に手を伸ばし、慎重にページをめくって中身に目を通す。
星喰獣の存在を探していた『ボナパルト』なる魔物学者が残した日記だ。
「どうだ、何か心当たりがあったりするか?」
「ボナパルトという者に、儂は昔あったことがある」
「マジで!?」
少しでも手がかりが得られれば儲けもの程度にしか思っていなかった、まさか面識があったとは。
思わぬところでNPC同士が繋がっているものだ。
「とはいっても、半世紀近く前の話じゃ。儂がまだ若かった頃、ボナパルトという名の魔物学者が儂の元を尋ねてきたことがある。当時の儂と同じ年のころの、若い男だった。何でも彼は星喰獣に強い関心があったらしく、考古学の視点から星喰獣についての話を聞きたいと言われたのじゃ。以来、数度手紙のやり取りをしたことがある。じゃが突然、音信不通となってしまった」
「どんな人だった?」
「学者らしく探究心に溢れた男じゃったが、それ以外に特筆するようなことはない……はずじゃ」
何せ五十年は昔のことで、記憶もおぼろげだとトレットは語る。
「魔物研究ね。一口に魔物の研究って言っても、色々な分野がありそうなものだが、そのボナパルトって学者は具体的に何の研究をしていたんだ?」
「何じゃったかのぅ? すまぬが、そこまでは覚えておらぬ。儂が何かを語ることはあったが、相手の研究を儂が尋ねることは少なかった故な」
「それもそうか」
相手がトレットの話を聞きに来たんだ。それも仕方がない。
他にヒントや手がかりは……そうだ!
「手紙のやり取りをしていたのなら、相手の家は知っているか?」
「ニール港の外れに小さな家を持っていたはずじゃ。そこへ手紙を届けてもらっていた。しかし、今も家が残っているのかは分からぬぞ?」
「駄目元で行ってみるさ」
トレットから、ボナパルトの家の場所を教えてもらう。今度はここにいけば、手掛かりが得られるかも。
日記の持ち主ボナパルトの素性が分かった。
トレットと面識があった人物であるなら、あの封土神殿にボナパルトが迷い込んだのは、遅くても数十年前のことなのだろう。てっきり、何百年と昔の人物だと思い込んでいた。
彼がそう昔のNPCではないのなら、俺にも読める現代文字が封土神殿の中に刻まれていたことにも説明が付く。
「ところで、この剣の方はどうだ?」
もう一つ、錆びた剣を指さす。切っ先が奇妙に捻じれた剣だ。
トレットはその剣を、一目見て、
「この類の剣は、鍵じゃな。切っ先がねじれておるじゃろう? この形状が鍵となり、特定の鍵穴と対応しておるのじゃ。古い遺跡などでよくみられる施錠の一種じゃな」
「あぁ、鍵っていうのは比喩とかキーアイテム的な意味でなくて、文字通りの鍵なのか」
ただ、これだけボロボロに錆びていると鍵としてちゃんと機能するのか不安だな。あとは、これがどこの鍵なのかも知りたいところだ。
「ありがとう、トレットさん。良い情報がきけた。今度はボナパルトの家に行ってみるよ」
「また何か分かれば、儂のもとに来なさい」
「分かった、今後も頼らせてもらうよ」
トレットに話を聞いた後、俺はその足でニール港の外れまでやってきた。新しく手に入れた飛行剣に乗ればすぐだ。
かなりこの剣の運転にも慣れてきたな。
「ここがボナパルトの家か」
港の中からは外れた、丘の麓にポツンと建っているボロボロの一軒家に到着。ここがトレットに教えてもらった、ボナパルトの家だ。
「やっぱり、誰も住んでいなさそうだな」
家はあちこちが痛んでいて、どうみても長期間人が住んでいない廃墟だ。入口は固く木材が打ち付けられていて、封鎖されている。
「裏口とか、屋根とか……どこかから入れないかな」
ぐるりと建物の周りをまわって、入れそうな場所が無いかを探る。すると、家の裏手に一部、外壁が崩れてしまっている箇所を見つけた。屈めば中に入れそうだ。
地面に手をついて、崩れた外壁の隙間から建物の中に侵入する。
「よっと……うわ、中もボロボロだな」
建物の中は、外見と変わらないくらいにボロボロだ。
家具の類いは残っているが、どれも土埃で汚れており、誰も中に入っていないことが分かる。
仮想空間ゆえ土埃でむせるようなことはないが、これが現実だったら、酷い空気だっただろう。思わず顔をしかめる。
俺はさっそく、何か手がかりになるものはないかと、建物の中を物色し始める。
まずは手近な戸棚から、順に中を確認していく。
「つっても、食器とか衣服とかの生活雑貨ばっかりだな」
ところが期待した手がかりになりそうなものは中々出てこない。重要そうなアイテムはなく、今のところはただの民家だ。
ここは魔物学者の家のはずだ。であれば、然るべき資料や文献が残っていてもおかしくない。生活雑貨が残ったままの廃墟で、それらの資料だけが持ち出されていると考えるのも不自然だ。
「それがないってことは、ここじゃない別の場所で資料を保管していたか、どこかに隠しているかだな」
とはいえ、こんなにボロボロの家では隠し部屋のようなものもなかなかないだろう。あるとすれば地下くらいだが……。
「いや、待てよ? 地下はありえるな」
これまで関わってきた封土神殿が思いっきり地下の施設なのだ。
地下室があることを前提に、俺は床を重点的に調べる方針に切り替えた。
すると、見事に予想が的中。調理場の隅にあった戸棚近くの床に、不自然に棚を動かした形跡があった。床の木が削れて跡になっている。
「ベタな痕跡だけど、まさかゲームの中でこんなことをするとはなぁ」
埃まみれの廃墟で、俺は何をやっているんだか。
戸棚を押しのける。するとその下には、地下へと続く扉が隠されていた。
「ビンゴ」
床の扉には不自然な細い穴が空いている。
「鍵穴だな、どうせこれだろ」
取り出したのは、封土神殿で拾ってきた錆びた剣だ。切っ先が細く、奇妙に捻じれているこの剣は、古代式の鍵だとトレットに教えてもらった。
その切っ先を穴に入れる。奥でカチリと何かが嵌まった手ごたえがあった。そのまま捻れば、鍵が外れた音がする。
「よし、開いた――」
そのとき、バキッという嫌な音がした。剣を捻ったときに、錆びていた剣が折れてしまったのだ。破損判定を受けた剣は、そのままエフェクトを纏って砕け散ってしまう。
こういうアイテムは一回使い切りなんだろうな。まぁいいや。地下への扉は開いた。
扉を引き上げる。ギギギ、と錆びた金具が音を立てた。
地下を覗き込むが、真っ暗で何も見えない。はしごが暗闇の中に向かって不気味に降りている。
「……行くか」
俺は覚悟を決め、ゆっくりと地下室へ降りていった。




