第五十話:防具を新しくしよう
柄にもなく胸が高鳴って、いつもよりも早く目が覚めた。
いよいよ今日から待ちに待った夏休みだ。
何故だろう、夏休みというのは特別の匂いがする。何か楽しいことが待っていそうな高揚感がじりじりと足元から昇ってきて、落ち着かない季節だ。
そしていよいよ、スターブレード・ファンタジーも今日からイベントが始まる。
昨日の夜のうちにアップデートは済ませてある。準備は万端だ。
朝食を済ませて身支度を整えると、そのタイミングで渚から電話がかかってきた。
「はい、もしもし?」
『剣一、ついに今日からイベントだよ! 何時にログインする?』
テンションの高さに、思わず苦笑いが零れる。青春盛りの高校生が、夏休み初日からゲームイベントの話題だなんて、何とも色気のないことだ。
「午前中は用事があるから、昼からだな。13時でいいか?」
『うん、勿論! ログインしたら、メッセージを送って!』
遊びの約束を取り付け、通話を切る。
「さて、じゃあ用事を済ませるとしますか」
携帯電話をベッドに放り投げ、俺はスタブレにログインした。
午前中に済ませたい用事、というのはどこかへ出かける予定があったわけではなく、スタブレの中でしておきたいことがある、という意味だ。
ログインした俺は、早速カッペルの街の防具屋に立ち寄る。
何やら鍛冶屋の方が多くのプレイヤーで賑わっていた。その分、防具屋の方にはちょうど誰もいない。
店の奥で暇そうにしていた店主のNPCに声をかける。
「おっちゃん、頼んでいた防具、出来た?」
「おう、お前さんか。ばっちり出来上がっているぞ!」
店主は店の奥から、俺が依頼していた品物を持ってきてくれる。防具を受け取り、早速装備した。
これで、初心者用の貧相な防具をついに卒業だ。
今度の防具は強力なクマ型モンスター、ハングリーグリズリーのしなやかで頑丈な毛皮をふんだんに使い、マッシブチキンの羽毛から作った丈夫な糸で編み合わせている。
毛皮の色味を活かした焦茶色の服とズボン、要所は各地で採取した金属や木で補強しつつ、動きやすさを重視したデザインで統一だ。
腕装備と腰装備は黒のリストバンドとベルトで、防御を高めつつデザイン的には細身で身軽な印象へ。
そして最後に、ナギのアドバイスを聞いて作った青染めの鉢金を額にギュッと巻けば、完了だ。
素材を統一して作った防具は全身の印象が整い、デキる冒険者感アップである。
腰に下げた居合刀と、後ろにたなびく鉢金の青い裾がオシャレのアクセント。
「どう、おっちゃん。似合ってるかな?」
「ああ、良い感じだぞ」
思わずNPCにファッションの見た目を尋ねてしまうくらいにはテンションがあがっている。
そしてデザインもさることながら、これまでの防具から格段に性能があがっている。
何せ防御力は単純計算で三倍以上。さらにAGIやVIT、DEXにわずかながら補正がかかる。防御力は元が紙装甲だったので、アテにはできないけどね。
何はともあれ装備が新調され、今の俺は気分的に無敵だ。
後はナギとの約束の時間までに、用事を済ませるのみ。
そう、リベンジだ。
これは全くの余談であるが、後日ミーニャに防具を自慢したときのコメントが「……足軽?」だったことは、俺の心にしばらく癒えない大きな傷を与えた。服飾に造形が深い彼女のコメントは、その分だけダメージが大きかったです、まる。




