第四十九話:キング
奇怪な部屋と、星喰獣に関する手がかりを手に入れた。
しかし、まだまだ分からないことが多い。
手に入れた情報を整理すると、何らかの『資格』を得ればモグラたちの主に謁見できるそうだ。
資格というのはつまり、モグラたちとの組手を突破して、彼らに実力を認められろ、ということだろう。
そしてこの資格を得て主に謁見することが、『ユニーククエスト:封土結界』のクリアに近づく方法でもあると予測される。
そこでさっそく、以前にモグラ百匹と死闘を繰り広げた広場まで来てみた。広場にはまたしても一匹のモグラがいた。
「あいつからクエストの続きが始まるのかな」
頬を軽く叩いて気合を入れなおし、俺はモグラの前に立つ。
「よう、今度は何をするんだ」
「モグ!」
俺の言葉を理解しているわけではないだろう。けれどモグラは好戦的にスコップの切っ先を突きつけ、一声鳴いた。
次の瞬間、周囲の地面からたくさんのモグラが現れる。
すわまたしても百対一か、と思ったのだが、どうも様子が違う。
彼らは、百匹組手のときのように俺をぐるりと取り囲むのではなく、一匹のモグラを先頭に、俺に向かって対峙する。
「モグモグモグ、モグ!」
先頭のモグラが、俺には分からない言語で高らかに叫んだ。その合図に従い、後ろに続くモグラたちが一斉に動き出す。
「モグ!」「モグモグ!」
百匹のモグラは、まるで組体操でもするかのように積み重なっていく。どんどん大きくなり、形を変え、やがてまばゆい光に包まれる。
『――――モグ!』
そうして体長2mを超える、巨大なモグラに変貌した。
「そういう生態だったんだ、お前ら……」
沢山集まって合体するなんて、そんな国民的RPGの青くてぷるぷるした雑魚キャラみたいな。
百匹のモグラが合体した巨大モグラは、その身と同じ大きさの巨大なスコップをぐるりと振り回し、俺に突き付けた。
――ソードディグ・キングを倒せ
「マジでキングなのな――っ!?」
軽口を叩いた俺の鼻先を、スコップの刃先が掠める。想像以上に速い攻撃だったので、大きく後ろに飛び退き、様子見のために距離を取ろうとする。しかし、
「モグッ!」
「速っ――」
モグラが巨体に見合わない踏み込みで、追撃に来る。腰を捻ったモーション――突きか!
「〈瞬歩〉!」
スキルを使って横に跳ぶ。スコップの刃先から体を捻り、辛うじて回避に成功。着地、切り返すように今度は俺の方から踏み込んで、
「〈抜刀〉!」
ガキン、と甲高い音を立てて刀が弾かれた。
素早い切り返しで隙を突く、自信のある攻撃だったが、スコップで正面から防がれたのだ。
振りぬいたスコップの威力に負けて上半身が仰け反る。右手の先から肩まで、痺れるような衝撃が駆けあがってきた。刀を取り落とさなくてよかった。
弾かれた勢いに逆らわず、バック転をして距離を取りながら仕切りなおす。
こいつ、今までのモグラとは全然違う。
「こんなにしっかり受け止められるのか……っ!」
小さなモグラは、速度こそあったものの体重が軽かったため、攻撃にパワーや重さがなかった。正面から剣を打ち合えば、体格差で押し切れた。
ところがこのキングモグラ、巨体の通り、しっかりと体重と筋力がある。
今まで戦ってきたモンスターの中でも、トップクラスに強力だ。
デフォルメ感が薄れた巨大モグラは、スコップを構えなおして俺を鋭く睨みつける。空気を斬り払うようにスコップを振りぬくと、俺の前髪がふわりと風圧で揺れた。
その鋭い目に思わず背筋が震えた。電子存在の中に、在りもしない戦いの熱を幻視する。
いいね、気分が上がる。魂に火が付くようだ。
とても動物とは思えない、戦士の構え。手にしているのがスコップであることを馬鹿になどできない。あれは命を奪うための武器だ。
ざりざりとした足元の感触を確かめ、居合刀の柄を握りなおす。
俺の愛刀とて、決してスコップに負けるようなものではないと、示さねばならない。
言葉が通じないモグラならば、剣で語り合おう。
「こちとらついさっきまで似たようなクマさんと遊んできたばっかりなんだよぉ!」
返答代わりに振るわれたスコップをしゃがんで避け、猛々しく俺は吠えた。
結論から言うと負けた。
「シンプルに強ぇ……」
敗因はシンプル。単純明快に正面から打ち負けた。
速度は互角か、やや相手が上。筋力は相手が上。耐久も相手が上。
そして基礎能力で上回られるだけでなく、スコップを使った攻撃の鋭さや合間に混ぜられるフェイントの巧みさ、俺の攻撃を受け流し、反撃に移るまでの反応の速さ。それらも並みのモンスターとは一線を画すレベルだった。よほど高度な戦闘AIが組まれていると見える。
魔物としての基礎能力の高さだけでなく、戦士としての腕前すら一級品だ。
善戦したが、攻撃に飛び出したタイミングにカウンターで突きを決められ、胴体をズドンとやられてしまった。
「……少なくとも、今のレベルと装備では厳しいな」
装備を整えると同時に、俺自身もスキルアップをしなければ、勝つことはできないだろう。それくらいに強い相手だった。
ただ、相手の実力を知れたのは大きい。今の自分と見比べ、何がどれだけ足りていないのかが自覚できた。もっと強くなって、いつかリベンジだな。
「そういえば、あのトラ野郎にもそろそろリベンジに行きたいな」
リベンジ、と言う言葉から連想して、このゲームを始めた初日に因縁をつけられた『黒毛の狂虎』のことを思い返す。リベンジを誓った相手が増えること増えること。
クマの装備が整えば、真っ先にトラにリベンジしよう。キングモグラはもう少し先かな。
ちなみにですが、武器やゲームの名前がブレードで、モグラの名前がソードディグなのには意味があります。




