第四十六話:インターネットこわい、VRこわい
スタブレ唯一の星剣使い、ケンさんに助けてもらった俺たちは、当初の予定通り、ナギの案内のもとで浜辺にある洞窟型のダンジョンに来ていた。
ただ、当初の予定と違うのは、ケンさんもパーティーに加わっている点だ。
「本当に付いてきて良かったのかい? 友達同士で遊ぶところに、部外者の俺が混ざるのは、気まずくならないかい?」
「良いんですよ、ケンさん」
「そうそう、ケンさんも気楽に遊びましょう」
ナギとミーニャが二人そろってケンさんをパーティーに引き入れ、この四人でダンジョン攻略中だ。
勿論、俺も彼と一緒に遊ぶことに異論はない。この機会に、彼の戦い方を参考にさせてもらおう。
今回俺たちがやってきたダンジョンは、ランダムダンジョンと呼ばれるダンジョンの一つだ。
ランダムダンジョンは通常のフィールドとは隔離されていて、プレイヤーが入るたびに地形が入れ替わる小規模なダンジョンのこと。最奥のボスモンスターを倒せばクリアとなり、アイテムが貰える周回型のダンジョンになっている。挑んだ際のパーティーメンバーのレベル平均に応じて、ダンジョン内に現れる魔物の強さも変動する。
このようなランダムダンジョンはニール港近くの海岸洞窟を始め、各地にいくつか実装されていて、プレイヤーを飽きさせないためのコンテンツだそうだ。
当初はやや居心地悪そうに身を縮めていたケンさんだったが、いざダンジョンに潜って魔物と戦い始めれば、その動きは見違えるようだった。
「ふっ! せいやっ!」
光剣が煌めけば、そのたびに敵は砕け散る。魔物が放つ苦し紛れの攻撃は全て紙一重で避けられ、代わりに光の斬撃が叩きつけられる。一体が倒れたと思えば、次の瞬間には流れるような動きで別の敵へ攻撃している。
一連の動きは光剣の華麗なエフェクトと相まって、美しい舞のようですらある。
ただ単にレベルが高いだけではない。巧みな体捌きによる紙一重の回避と、自分の攻撃を連続して繰り出し、相手に反撃の余地を与えずに倒していく圧倒的なプレイングは、最強の名にふさわしい動きだった。まるで未来予知で敵の動きが分かっているみたいだ。
特に光剣は、攻撃力こそ高いが、ガード不可、常時耐久値消費など、デメリットも多いピーキーな武器だ。それを自由自在に使いこなしている。レーザーの刀身のオンオフを繰り返して、最小限の耐久値消費で、最大限のダメージを叩きだしている。
負けていられないと奮起したナギも、自慢の二刀流で敵を切り倒し、ずんずん奥へ進んでいく。
このスタブレというゲームの中で、文字通りのトッププレイヤーと、それに並び立つほどの最上位プレイヤー。しかもどちらも純正アタッカー。この二人がこぞって敵を倒してくれているので、攻略はとても楽だ。
とはいえ、俺やミーニャが気を抜いていられるわけではない。
なにせ、レベル70オーバーが二人もいるので、出てくる魔物の強さは推奨レベル50以上のものがゴロゴロ。そしてレベルが高いモンスターは図体も大きくなる傾向があるので、一対四でのパーティー戦が基本になる。俺たちも積極的に攻撃して、敵のHPを少しでも減らしていく。
「うひゃぁ!? リョーダンくんヘルプ!」
「〈土竜突〉、〈抜刀〉!」
巨大なヘビ型のモンスターを四人でタコ殴りにしていたら、背後からコウモリ型の魔物がミーニャに飛び掛かってきた。
悲鳴を聞いた俺は、スキルで素早く飛び込んでコウモリに一撃。これだけで倒せるわけではないが、大きなダメージを与えて敵のヘイトを引き付けることで、ミーニャから魔物を引き離す。
「ありがと、愛してる!」
「お礼の言葉に重みがないぞー!」
互いに軽口を交わして、散開。直前までいた場所をヘビの毒ブレスが溶かした。
「リョーダンくん、凄まじい動きだね!」
「ケンさんに褒められると、嬉しいなぁ!」
ちょこまかとヘビの周りを走り、要所で攻撃を当てて注意を分散させる。また、寄ってくるコウモリも注意さえしていれば、俺とミーニャで散らせる。
そうしていればナギやケンさんが火力を出してくれる。
しばらくして、ケンさんがラストアタックを決めて、巨大ヘビは倒れた。
・仙毒蛇の毒
仙毒蛇の強力な毒。触れるだけで岩をも溶かすため、扱いには注意が必要。
・仙毒蛇の皮
表面がぬらぬらとした仙毒蛇の皮は、刃物を滑らせることで攻撃から身を守る役割を果たす。
・三眼コウモリの羽
扱い方によって薬や毒の材料になる、三眼コウモリの羽。
ドロップアイテムも上々。経験値も、パーティーで分散されるが十分すぎるほどに美味しい。
これを俗に養殖というのだろう。……いや、俺も頑張ってるし!
しばらく進めば、ボスエリアの手前までたどり着いた。
ここで一度休憩をしてから、四人でボスに挑むことにする。
「ねぇ、ミーニャ。さっきリョーダンに言っていた言葉だけど……」
「あ、あれはその場のジョークだから! ナギちゃん、目がマジだよ!?」
女性陣は少し離れた位置で、仲良くじゃれあっている。何だかナギがテンション高めだ。
剣の欠片で武器の耐久値を回復し、一休みしていると、隣でケンさんが、
「あ、さっきの動画もう上がってる」
といって、ちょんちょんと俺の肩を突いた。
「え、何ですか?」
「ほら、見てこれ」
差し出されたウィンドウには、見覚えのある男が映っていた。端的に言うと、俺だ。
つい先ほど、ニール港の冒険者組合で起きた乱闘騒ぎ。あの野次馬のなかの誰かが動画を撮影していたらしく、俺の戦いの様子がバッチリ映っていた。
それがネットの掲示板に投稿されていたらしい。
「こういうのはやっぱり、出回るのも早いなぁ」
「えっ、恥ずかしっ!?」
俺、割とその場の勢いで格好つけたことを言った覚えがあるぞ。
「……こういうの、マナー違反では?」
「まぁ、あんまりマナーは良くないね。でも、こういうのってある程度は仕方がないことかも。あと、俺が助太刀に入ったから余計に話題になっている部分もあるかもしれない。それは申し訳ないと思う」
俺以上の有名人さんは、もはや諦め口調だ。
ネットの反応は怖くて見たくないので、俺はそっと画面から目を逸らす。
「ケンさんって、そういうネットの掲示板とか見るタイプですか」
「しっかり見るし、エゴサして一喜一憂するタイプだよ」
ケンさん、エゴサするんだ……。見かけによらないな。
「うぅん、リョーダンくんの話題も色々と書かれているなぁ」
「あーあー、気にしないことにします」
「うん、その方が精神衛生上良いと思う。ただ、もしかすると変な人に絡まれるかもしれないから、少し気を付けた方がいいかもね。俺も『持ってる』側だから、やっかみが多いんだよ。ネット上の誹謗中傷が辛く感じてしまったら、いつでも相談に乗るよ」
まぁ、こんな風に話題になってしまうのも、一過性のことだろう。そう思うことにする。
「リョーダンくんが使っているスキルのことも探られているなぁ」
何気ない口調ではあったが、それだけにドキリとした。
探られたら困る、というものでもないし、過度に隠すつもりはない。けれど、大っぴらにしていないことを他人から調べられている、と考えると奇妙に落ち着かない。
「〈土竜突〉だったかな? どこで手に入れたのか分からないけど、俺も知らないスキルだ。多分、EXスキルだよね?」
「……取得方法知りたいですか?」
「いや、いいよ。俺が覚えても、あんな速度のステップ移動、使いこなせる気がしない」
ニコニコと笑っているケンさん。その言葉は本心のようだ。
鬼神のように戦場を駆けまわって光剣を振るっていたケンさんなら、難なく使いこなせそうに思うけれど。
「中々いないよ、VRとはいえ、あの速度で動いて反応できる人は」
「それ、ナギとかミーニャにも言われましたね」
「リョーダンくんは他にもフルダイブ型VRゲームの経験はあるのかな?」
唐突に話が変わった。
「いや、スタブレが初VRですけど」
「そうなのか、驚いた。じゃあ天性だ」
ケンさんはスッと目を細めた。けれど視線は変わらず、手元に開いたウィンドウに落としたままだった。
「リョーダンくんは間違いなく、俺と同じタイプの人間だね。VRの神様に愛された、一線超えてるタイプの人間。時々いるんだよ、俺や君みたいな人が」
「……何の話ですか?」
「これは俺の友達の、フルダイブVR機器を開発している研究者から聞いた話なんだけど」
そう、ケンさんは前置きした。妙に、声に温度を感じなかった。
「リアルで格闘技をやっている人はたいてい、VRでも同じように体を動かすことができる。それどころか、現実でバク転ができない人でも、ゲームでならステータスやシステムのアシストを受けて出来る人だっている。
これは脳がその通りに命令信号を出せるなら、現実の筋力や体型で実現できない行動であっても、VRゲームのシステムが再現させるからなんだ。入力が正しいなら、ステータスを踏まえて計算した出力結果も正しくなるのがコンピュータだからね。
そして極まれに、脳の入力信号が肉体能力を過度に超えている人間がいる。フルダイブVRで動く仮想の体のパフォーマンスを、最大限まで引き出せる脳の作りをしている人間なんだってさ。リアルだとしがない会社員なのに、とあるゲームでは最強の星剣使いだったりする、なんていうのが良い例だね」
「すみません、話の内容がよく分からないんですけど」
「噛み砕いて言うと、俺は脳みそだけにすれば、前に歩きながら後ろにジャンプできる人間らしい。そういう現実離れした命令が出せる脳なんだってさ」
実は左利きなんだよね、と伝えるみたいに、大したことではないといった口ぶりで、ケンさんは言った。
「それで、多分リョーダンくんもそのタイプ。初めて遊ぶフルダイブVRゲームで、あそこまで人間離れした動きと反応ができるなんて、ちょっと異常だよ」
俺は少し混乱していた。それも仕方がないことだと思う。
いきなり、「あなたの脳は実はVRに特化しています」と言われても、すぐには信じられない。
確かに、俺は他の人に比べると、VRゲームで体を動かすのが得意のようだ。その自覚は薄々あった。けれど、それが脳の異常と繋がってくるだなんて、考えたこともなかった。
恐る恐る、ケンさんに尋ねる。
「……病院とか行った方が良いんですかね?」
「いやぁ、俺はその友達から、気にしなくても大丈夫だって言われたよ。フルダイブVRをしなければ一生気が付くことのなかった才能の一種だと考えろ、だって。日常生活に影響が出ていないなら、変に不安になることもないらしいよ。病気ではなく、持って生まれた体のつくり、らしいから」
確かに、俺は生まれてこのかた脳に異常を感じたこともないし、普通に生活を送れている。
ホッと胸を撫でおろした。ただ、ケンさんがそこでようやく顔を上げて、俺の目を見た。
「でも、そういうVRの申し子は、みんなすさまじく強くなる。君がレベルをあげて、いつか俺と同じくらいのレベルになった時は、ぜひ戦おう」
その言葉を聞いて、「あぁ、この人も剣に頭をやられているんだな」と思った。
いや、よく考えれば当たり前だった。こんなおかしなゲームのトップに立つ人が、戦狂いでないはずがない。
送られてきたフレンド申請を、苦笑いしながら承諾した。
リョーダンも脳みそだけにしたらブリッジしたまま逆上がりができるタイプ。




