第四十話:ウェルカムアクセサリ
無事に期末テストが終わった。
渚のおかげでテストの成績も好調。夏休みに補修なんてことにはならなかった。
せっかくの夏休みに補修なんてやっていられない。
期末テストが終わり、あとは夏休みまで残りの消化試合じみた登校日を過ごすのみ。
そんな今日、俺は学校から帰って着替えを済ませると、すぐにスタブレにログインした。
「ナギはもうログインしているかな?」
もうすぐ始まる夏イベントの舞台は、始まりの街カッペルから南に進んだ先にある港街、ニールだ。
今日はナギがニール港までの道のりを一緒に冒険してくれるとのことなので、お言葉に甘えることにした。カッペルの街で待ち合わせた後、ニール港を目指す予定になっている。
ということで待ち合わせの時間に合わせてスタブレにログイン。
「うーん、やっぱり賑わってるなぁ」
スタブレはいつもプレイヤーで賑わっているゲームだが、それでもイベントが近いからか、今日は普段よりも人が多い気がする。
カッペルの大通りには沢山のプレイヤーがいて、待ち合わせをしていたり、野良パーティーの募集をしていたりと様々だ。
さて、俺もナギと待ち合わせした店に向かうか。
向かった先は、以前にも待ち合わせを行ったカフェだ。ナギはテラス席ではなく、店の奥のテーブルにいたので、俺の方から声をかける。
「おう、ナギ。お待たせ」
「やぁ、リョーダン……って、何その兜」
「あ? 兜?」
ああ、そういえば前にナギと会ったときは装備から外してたんだった。今の俺は角付きの鉄兜を被っている。
ついこの前、緑竜カマリとの戦闘で片方の角が折れてしまったが、それはそれで味があると、直さずにいる兜だ。
俺は無事な方の角の部分を親指でグッと示して、ナギに自慢した。
「どう、格好良いだろ?」
「正直ダサい」
「は?」
「兜の見栄えの善し悪しはともかく、頭だけ重そうな鉄装備で服が貧相なのがアンバランスだと思うな。あと、和の印象が強いヤマトブレードと、西洋モチーフの重兜が合ってない」
ぐぅの音も出ないほどの正論。ガチダメ出しである。
流石の俺も心にグサッときた。
……正直、頭の厳つさと胴装備の貧相さの不釣り合いは俺もちょっとだけ気にしていたりする。
胴装備である『丈夫な冒険服』のデザインが地味な茶色の皮服であることも相まって、正直頭だけ浮いているのだ。
カクジカの角飾りが格好良かったので割と勢いで作ったが、他装備との合わせを考えていなかった。
「仕方ないだろ。俺だって全身鎧を着たかったんだが、重たい防具は装備できないんだよ」
「別に無理に鉄装備にこだわらなくても、軽くて優秀な防具だって沢山あるよ。鉢巻とかカチューシャとか。僕だって兜じゃなくてヘッドドレスだけど、防御力はそれなりにあるし」
「ううん、鉢巻はありかもしれないな。和のイメージにも近いし」
居合刀に見た目が合う防具……鉢巻……。何だか、浪人のような格好のイメージが出てきた。
多くの日本製オンラインゲームに共通する話なのだが、和の要素を含んだ甲冑や和服のような防具は人気が高いらしい。
ノブシゲさんを見習って、立派な戦国兜でも作るか? いや、それだと重すぎて装備できないか。
「それに、他の装備もちゃんと調えてもいいレベル帯なんじゃない? 何だったら、アクセサリだけじゃなくて防具もミーニャに作って貰ったらどうかな? ミーニャの防具は性能も見た目のセンスも一級品だと保証するよ」
「うーん、しばらくは遠慮するわ。何せ依頼できるほどの金がない」
「あら、それは残念ね」
背後からいきなり声をかけられた。振り返ると、噂をしていたミーニャが手を上げて立っている。
「二人ともこんにちは」
今日の待ち合わせの相手には前回と同じく、ミーニャも含まれていたりする。
そう、ミーニャに頼んでいたアクセサリの製作が完了したのだ。
「それじゃ、ミーニャ。早速だが、頼んでいた品物を見せて貰ってもいいか?」
「ええ、勿論。最高の作品が出来たと、胸を張って言えるわ」
誇らしげに彼女が差し出したのは、緑の宝石が埋め込まれたペンダントだ。
枝の先が剣になった大樹のモチーフがあしらわれていて、格好いいデザインになっている。
「その名も、『翡翠連理』。リョーダンくんのプレイスタイルと武器に合わせて特殊効果を調節してみたんだけど、とんでもない品質の宝石を主軸に使っただけあって、とんでもない性能になったわよ」
ミーニャから譲渡申請が来たので翡翠連理を受け取る。そして早速アイテム画面を開いてみた。
・翡翠連理
地脈の力を帯びたペンダント。地に根を張る大樹の如く、持ち主に強大な力を与える。
(制作者:ミーニャ)
【特殊効果】AGI+50
【特殊効果】居合刀の達人:居合刀装備時、DEX+30
【特殊効果】地脈の加護(居合刀):プレイヤーの足が地面に接触中、居合刀の練気速度+15%。
【特殊効果】致命吸収(気):クリティカル発生時、ST3%回復
「…………は?」
「どう、凄いでしょ?」
自慢げに胸を張るミーニャ。俺は驚きを隠せない。
な、なんだこの性能。
「じょ、上等なアクセサリってこんなに性能が高いのか?」
「高性能なアクセサリは勿論沢山あるけれど、ここまで高品質で性能が尖ったものは珍しいわね。どう? 余すところなく、リョーダンくん専用に調整してみたわ」
「完璧すぎる!」
オーダーメイド品とはいえ、ここまで俺のプレイスタイルに合致した特殊効果とは。そしてそのどれもが破格の性能。
基本のステータスを底上げしつつ、居合刀のチャージ速度や、最近不足しがちなSTを補う効果まで。何というオーバーパワー。
「ありがとう、大切に使わせて貰うよ!」
「そう言って貰えると、私も頑張って作った甲斐があったわ」
ミーニャは嬉しそうに笑った。
「あと、ナギにもプレゼントがあるの」
「僕に?」
ミーニャは、今度は真っ赤な宝石を使ったペンダントを取りだし、ナギに手渡した。
……って、あの赤い宝石は。
「これ、リョーダンが報酬代わりに渡した宝石じゃないか」
「そうよ。だから私が貰った宝石を使って、個人的にアクセサリを作ったの。それをナギにプレゼントするだけよ」
「も、貰えないよ」
「遠慮しなくて良いって。これはナギのために作ったんだから。私の日頃の感謝の気持ちってやつよ」
遠慮するナギにペンダントを押しつけたミーニャは、ナギの耳元で何かを呟いた。
「……ちなみにこれ、リョーダンくんのとお揃いになるように作ってあるんだけど」
「…………!?」
何を言ったのかまでは聞き取れなかったが、ナギは素直にミーニャからペンダントを受け取っていた。
真っ赤な宝石をベースに、二本の剣を翼のように広げる鳥のモチーフが施されたペンダントだ。確かに、二刀流のナギにぴったりのアクセサリだな。
「こっちの名前は『深紅比翼』。効果もナギちゃんのレベル帯で十分に使える強いものになっているから、遠慮無く使って」
「……ありがとう、ミーニャ!」
互いに手を取り合ってはしゃいでいる二人にちょっとだけ疎外感を覚えつつ、俺は受け取ったアクセサリを早速装備するのだった。




