第三十九話:夏だ、海だ、BBQだ!
第三章です、どうぞよろしく。
ギラギラと輝く夏の太陽。雲一つ無い青空と、同じくらいに綺麗な青い海。VRの中では直射日光による熱中症も日焼けの心配もないので、思う存分に日差しの下を走り回ることができる。
砂浜では時間を持て余してか、ビーチボールに興じるプレイヤーの姿があった。
「楽しそうだなぁ、俺も後で混ぜて貰おうかな」
「うん? じゃあ僕も一緒に行こうかな」
隣のナギと二人、俺は海の家で一休みをしていた。
ナギに誘われてこのビーチにやってきているわけなのだが、コイツは何かと俺の横に来たがる。たまに周りのプレイヤーからの視線が刺さって、微妙に居心地が悪かったりする。
「はーい、できましたよ!」
すぐ近くのグリルで調理を終えたアーちゃんが声を張り上げると、焼き上がった海鮮串焼きを求めて多くのプレイヤーが海の家に集まってきた。
「はい、リョーダンさんとナギさんも!」
「ありがと、アーちゃん」
「助かるよ、アサガオさん」
アーちゃんからの串焼きを受け取る。エビとホタテとイカの串だ。
バーベキューグリルを使って作られた熱々の串焼きは、醤油ベースのおいしそうな匂いを漂わせている。そのまま豪快に齧り付いた。
一定時間、攻撃力が上昇するバフがついたみたいだ。
「うん、美味い!」
「えへへ、料理スキルも上達してきましたから!」
おかげでこういった串焼きなどの簡単な料理なら、美味しく作れるようになったとのこと。
「ナギは料理スキル取ってないんだっけ?」
「僕は戦闘専門だからね」
小さな口で串焼きを頬張っているナギがそんなことを言うので、思わず苦笑い。
するとそのとき、海辺にいたプレイヤーの誰かが大声を張り上げた。
「おおーい! レイドボスが来たぞぉ! 今度はカニだぁ!」
『当たりキタァ!』
次の瞬間、周りのプレイヤー達が目の色を変えて一斉に立ち上がり、砂浜へ向かって走り出した。ビーチボールで遊んでいたプレイヤー達も同じく、武器を取り出し砂浜へ。
ナギは残りの串焼きを口の中に詰め込んで立ち上がった。
「僕たちも行こう、リョーダン! カニだよ!」
「ああ、行くか!」
「待ってください、私も行きます!」
俺も串焼きの残りを口に押し込んで、砂浜に出た。
三十人以上のプレイヤーが砂浜へ集まっていた。全員がイベント素材で作成した水着姿である。
ちなみに俺もナギもアーちゃんも、全員水着姿だ。可憐な女性プレイヤーという事もあって、ナギやアーちゃんにチラチラと視線を送っている男性プレイヤーもいるが、大半は自分の剣を握りしめ、ギラギラとした目つきでじっと獲物が現れる海面を見ている。
俺も腰の居合刀に手を添えて、柄の感触を確かめる。
すると水面が大きく揺らぎ、見上げるほどに大きなボスが姿を現した。
『BOSS ENEMY ENCOUNT!』
『VS ハンマークラブレッド』
海水を持ち上げて現れたのは巨大なハサミを振り回す、真っ赤なカニのモンスター、ハンマークラブレッド。
推奨レベル50以上、推奨人数二十人以上の大型レイドボスだ。
取り巻きである小型の青いカニモンスター、ハンマークラブブルーも多数現れ、一斉に砂浜に上陸してくる。
「タンク、前に出るぞ!」
「アタッカーは左右に展開しろ!」
「死にたくなかったら爪の前に立つなよ! 足の関節を狙え!」
矢継ぎ早に指示が飛び交い、戦闘が始まる。
「一番槍は貰ったよ!」
ナギが素早さを活かして駆け出し、ハンマークラブレッドの懐に潜り込んだ。二刀が翻り、スキルが発動。
「〈ツインストライク〉!」
重たい二連撃を喰らい、ハンマークラブレッドがよろめいた。その隙を逃さず、多くのプレイヤーが追撃を行う。
「オラ、こっち見ろ! 〈挑発〉!」「〈ソニックエッジ〉」「〈オーガチェスト〉!」
高レベルなプレイヤー達による強力なスキルが炸裂し、ド派手なエフェクトが無数に飛び散る。
「俺も負けられないな!」
俺も居合刀を握りしめ、ナギの後に続くように大きく前に飛び出した。
とはいえまだまだレベルが足りない俺は、取り巻きの排除を担当している。砂を蹴り、大きく右側へ回り込んで、上陸してきたハンマークラブブルーのうちの一体に接近する。
「〈抜刀〉!」
フルチャージに高倍率のクリティカルが乗った一撃は的確に関節へとヒット、右爪を鮮やかに斬り飛ばした。すぐに〈納刀〉してチャージを再開する。
「攻撃代わります!」
「助かる、アーちゃん!」
アーちゃんが包丁のようなダガーブレードを振りかざし、俺が爪を斬り飛ばしたカニに追撃を放つ。
その間にボスと戦うナギの方へ、ちらりと視線を送った。
硬い甲殻を持つハンマークラブレッドはナギを含むプレイヤー達の攻撃をものともせず、武器である巨大な爪を振りかぶった。
「攻撃来るぞ!」
鈍器のような爪の叩きつけ攻撃。直撃を喰らったプレイヤーはいないが、あまりの衝撃に砂浜の砂が大きく舞い上がり、一時的に視界が潰れる。
「ぐわっ!?」
その中から泡によるブレス攻撃をまき散らし、三人のプレイヤーが大きなダメージを負って吹き飛ばされた。
しかし彼らも手練れ。すぐに後ろに下がって回復を行い、その隙を補うように別のプレイヤーがヘイトを受け持つ。
攻略は順調。かと思われたのだが。
『BOSS ENEMY ENCOUNT!』
『VS ダイオウクラーケン』
『BOSS ENEMY ENCOUNT!』
『VS アローシャーク・キング』
立て続けに響き渡る戦闘開始アナウンス。海中から現れたのは異なる二体のボスエネミーだ。
無数の触手を振り回して攻撃してくる巨大イカと、矢のように鋭い鼻先を持つ巨大なノコギリザメが姿を現す。
「ボスラッシュきたぞ!」
「人手が足りねぇ! 誰か引き離せ!」
三体ものボスを同時に相手にする状況に、現場が騒然となる。あくまでレイドバトルであり、全体を統率指揮する者がいないゆえ、誰が対応するのかで意見が飛び交う。
その時、
「拙者たちがイカを引き受けまするぞ!」
大きな声で名乗り出たのは、日本刀使いのプレイヤー、ノブシゲさんだ。彼が率いるクラン、『戦国同盟』の仲間を引き連れ、ダイオウクラーケンへと苛烈に攻撃を仕掛けてヘイトを奪うと、ハンマークラブレッドとの戦闘区域から引き離す。
ちなみに、イベント装備である海パン姿なのにアイデンティティーの戦国兜は決して外さない彼らは、海で非常に目立っている。
ブオォー、とホラ貝を吹いて周囲にバフを振りまく彼らの活躍に奮起し、他のプレイヤーも一層激しくボスへ攻撃を仕掛ける。
さて、俺もそろそろ仕事をしなくてはいけないな。
居合刀のクリティカル攻撃は威力が高く、ボス相手にも有効だが、しかし俺のレベルはこの場にいる他のプレイヤーに比べてまだまだ低い。
なので取り巻きを倒して戦闘に貢献をしているが、サメが出てきた場合は別の仕事の担当になっている。
アローシャーク・キングは別のボスエネミーが出現中、同時に出現することがある中ボス相当のモンスターであり、推奨レベルこそ低いが厄介な行動ルーチンを持っている。
コイツは砂浜には近寄らず、既に出現したボスを援護するように沖から水流の矢を放ってくるのだ。
プレイヤーによる遠距離攻撃の手段が極めて乏しいスターブレード・ファンタジーにおいて、間違いなく害悪に属するタイプのモンスターである。
だからコイツのヘイトを買うために、沖に出るプレイヤーが必要なのだ。
「サメ担当班、出ます!」
「頼んだぜ!」
応援してくれる声を背中に受け、素早くメニューを操作。空欄であった『武器2』の枠に新しい武器を装備する。
二刀流使いのナギは「こんなものは二刀流と認めない! 運営は許さない!」と不満爆発だったのを思い出し、クスっと小さな笑みが零れた。
装備し、オブジェクトとして現れたのは幅の広い大剣だ。俺の身長よりも大きな剣が、ズサリと砂浜に突き刺さる。
このような大きな剣は、とてもではないが俺の貧弱STRでは持てない。俺のSTRでは長剣カテゴリの武器は装備制限を満たせない。
しかしこの剣は長剣ではない。これはつい先日のアップデートで実装された乗り物枠である武器。
その名も飛行剣だ。
俺と同じく飛行剣を取りだしたプレイヤーが数名、砂浜に並ぶ。
大きな剣に足をかけ、まるでサーフボードのように飛び乗った。
「ゴー! ゴー! ゴー!」
かけ声と共に飛行剣を起動。剣の耐久値パラメーターを燃料代わりに低空飛行ができるこの謎の剣は、水上を移動することだってできるのだ。
俺と他数名は海上を飛び、サメのヘイトを引きつけるために一気に加速する。
波を切り、AGIによる補正を受け、ジェットボードのような速度で海上を滑る俺は、すぐにサメの元へとたどり着いた。
「〈抜刀〉!」
背びれを切り取るようにすれ違いざまに一撃。ぐっと足を踏ん張って海上でターン。波飛沫を巻き上げ、飛行剣をコントロールする。
挑発するように鼻先を滑り、噛みつきを華麗なターンで回避。横を通り過ぎる際に飛行剣による体当たりで胴を斬りつける。
「やっぱこの武器、頭おかしいよなぁ」
運営は一体何を血迷ってこのような剣を作ったのか。便利だけど。
周囲を縦横無尽に飛び回る俺たちを煩わしく思ったサメは大きく体をしならせ、尾びれで水面を叩いた。
「ぐわっ!?」
一人が尾びれに打ち据えられ、吹き飛ばされた。あわやそのまま海中に落ちてしまうかと思われたが、
「くっ、〈エアステップ〉!」
「大丈夫か、一回下がれ!」
「助かる!」
彼は空中ジャンプを使って飛行剣の上に無事に着地した。
そう、沖でヘイトを買うプレイヤーの条件は、敵を翻弄するための高いAGIと空中ジャンプによる復帰が可能であることだ。
例えタンクに相応しい高い防御力を持っていても、不意の一撃で飛行剣から落ちてしまえば海中で無防備になってしまう。そうならず、空中で復帰できるプレイヤーのみがこうして沖に出ている。
そもそも避けタンクじゃない正統派タンクならば砂浜で大ボスのヘイトを受け持つ仕事を担当している。
「ギャギャギャ!」
そうして砂浜に残ったメンバーよりも比較的レベルが低いサメ担当班が奮戦していると、アローシャーク・キングが鳴き声をあげ、大技のモーションに入った。水流の矢を放つ動きだ。
狙いは――俺たちじゃない。陸で戦っているプレイヤーだ!
身をよじり、口から鋭い水の矢を打ち出すアローシャーク・キング。
だが、
「そうはさせるかよぉ!」
飛行剣の上で強く足に力を込め、〈土竜突〉を発動。音すら置き去る神速の踏み込みで、放たれた水矢に後ろから追いつき、
「〈抜刀〉っ!」
空中で撃ち落とす。攻撃が陸で戦っているプレイヤー達に届かないように、矢を防ぐのは俺の役目だ。
水の矢を断ち切り、空中ジャンプのスキル〈エアステップ〉と使い慣れた〈瞬歩〉を発動。反転して位置を調整し、自分の飛行剣の上に着地する。
「よっと!」
さぁ、どんどん来やがれ!
「……なぁ、ナギさん。アンタが友達だって連れてきたリョーダンって奴、普段は何をしてんだ? モンスターの攻撃に後ろから追いついてぶった切るの、何回見ても変態にしか見えないんだが。どういう反射神経とバランス感覚してんだよ。曲芸師の人かなにか?」
「……彼は僕も知らない間にああなっていたんだ。ホント、意味が分からないよね?」




