第三十八話:テスト勉強
今日もスタブレにログイン……ではなく。
ここはスタブレの世界ラディカルではなく、現実世界の俺の部屋だ。
カリカリとペンを動かす音だけが聞こえる。
一通り問題集を解き終わった後、俺は正面で参考書を読んでいる渚に声をかけた。
「なぁ、渚。質問していいか?」
「うん、どの問題?」
「このページのこれなんだけど」
「あぁ、これはね――」
今日は日曜日、俺と渚は明日から始まる期末テストに備え、約束通りに一緒にテスト勉強をしているのだ。
渚に問題集を差し出して、解けなかった問題の解説をしてもらう。
「分かった?」
「何となく。多分、次は解けると思う」
大まかな解き方の流れを教えてもらい、再度計算すると、きちんと俺でも解けた。
「お、解けた」
「えっと……うん、答えもあってる。良く出来ました」
「渚の教え方が上手いからだな」
「もう、褒めても何もでないよ?」
俺におだてられ、渚は満更でもなさそうな顔だ。
実際、お世辞ではなく渚の教え方は上手い。テスト前にはいつもお世話になっている。
「やっぱり数学は苦手だな。歴史とかなら楽しく覚えられるんだが……」
「数学の方が、計算の理屈が通ると気持ちよくないかい?」
「うへぇ、俺にはその感覚が理解できねぇ」
そんな風に時折雑談を交わしながら、互いに勉強を進める。渚も参考書を読み返したり、英単語を暗記したりしているようだ。
そうして勉強を続け、ふと時計を見ると、午後三時を少し過ぎたころだった。
「なぁ渚。一回休憩しないか?」
「うん? あぁ、そうだね。ちょうど良い時間だ。集中力も切れてきた頃だし、一度休憩しようか」
渚も頷いてくれた。俺はペンを放り出し、凝り固まった肩を回す。渚も背中を逸らして伸びをする。
「んぅー、ずっと座っていると、背中が痛いな」
背中の筋肉をほぐしながら妙に艶めかしい声を上げる渚と目が合う。すると、渚はニヤッとした笑みを浮かべた。手でわざとらしく胸元を隠す。
「何さ、そんな風に僕を見て。いやらしいよ」
「もうちょっと胸盛ってから出直せ」
「おっと、それは戦争の引き金だよ?」
背も胸もない渚の目が剣呑なものになったので、俺は逃げるように立ち上がって飲み物を取りに行くことにした。
紙コップとオレンジジュースのペットボトル、それから適当なお菓子を見繕って部屋に戻る。
「ほい、差し入れだ。今日の授業料」
「ありがとう、剣一」
ジュースとお菓子で一息つき、俺たちは休憩がてら雑談に興じる。
テスト前だというのに、話題はやはりスタブレのことだ。
「そうだ、渚。俺も昨日、第一の星の遺跡をクリアしたぞ」
「そうなんだ、おめでとう。それじゃああのドラゴンは倒せたんだね」
「ああ、遠距離攻撃が厄介だったが、他は苦戦もなく倒せたぜ」
「あのモンスター、一応パーティー戦推奨のボスなんだけど。あれをソロで倒せるなら、随分と戦闘にも慣れてきてるんだね。レベルは今いくつ?」
「レベル21になったぞ」
「……早くない?」
渚は視線の温度を下げ、「勧めた僕が言うのも変だけど、テスト前にあまりゲームばかりしたらダメだよ?」と。
俺は慌てて手を横に振って否定した。
「いや、そんなにやりすぎてはいないはずだぞ。ただ、変なクエストで一気にレベルが6も上がったんだ」
「えっ、嘘、ズルい! それってユニーククエスト?」
「ユニーク……ではないんだが、関連してそうなサブクエストかな」
あのモグラたちとの組み手は本当に参考になった。
ゲーム的な経験値もそうだし、何より俺自身のプレイヤースキルが無理矢理に磨かれた気分だ。
だけど、肝心のユニークそのものはまったく分からない。
「ユニーククエストの攻略の手がかりはまだゼロだよ。俺もどうすればいいのか、さっぱり分かんねぇ」
「まぁ、仕方ないよね」
そういえば、今まであまり深くは気にしてこなかったのだが、もう一つのユニーククエストって、どんな内容なのだろうか。
「……そういえばさ。今見つかっている、もう一つのユニーククエストって、どんなクエストなんだ?」
「あぁ、『雲散無生』? あれもクリア方法が分かっていないんだよね」
渚も上位プレイヤーの嗜みのように、そのユニーククエストを受注しているらしい。だが、クリアの方法は依然、誰にも分からないそうだ。
「クエストの受注そのものは簡単なんだ。カッペルの街にいる子供のNPC、嘘つきジャックに話しかけるだけでクエストが受けられる」
「条件はそれだけなのか、簡単だな」
俺の方は今のところ、発生条件が不明なんだが。
「そのNPC曰く、『街の外の草原に、霧に包まれた場所がある。その霧の中で大きな怪物を見た。けれど大人は誰も信じてくれない。その霧の怪物を見つけてきてほしい』と。そうやってクエストを依頼されるんだ」
「あぁ、だから嘘つきジャック、なんて名前なのか」
大人が信じてくれない怪物、ねぇ。
俺の中で、ますますユニーククエストと星喰獣の関連が強まった。
「有志による検証の結果、二週間に一度、本当にカッペルの外にある西風の平原のとある場所で、霧が発生することが分かっている。けれど、その霧の中に入ろうとすると、霧が消えてしまうんだ」
そのせいで、そこから先にクエストが進行しないらしい。
「何か、霧の中に入るための条件があるんだと思う。けれど、ヒントがなさすぎてその条件がさっぱり分からないんだよ」
「そっちもヒントなし、かぁ」
「そっちも、ということは剣一が受けているユニーククエストも?」
「あぁ。でも、関連しそうなサブクエストがあるんだ。もしかするとそのクエストを進めれば、ユニーククエストにも進展があるかもしれないって考えてる」
モグモグ百匹組手・皆伝編がある。あれをクリアすれば、また何か進展があるかもしれない。
「なるほど。確かに、別のクエストがトリガーになっている可能性は十分にあるね。もしかすると、『雲散無生』も何か別のサブクエストをクリアしないと進行できないのかも」
「単純なサブクエなら、誰かがクリアして条件を満たしていそうなものだけどなぁ」
「そう簡単にいかないから、ユニーククエストなんて大層な名前なんだろうね」
俺と渚は互いに顔を見合わせ、ため息を吐いた。
「だから俺は、次はニール港を目指すかなぁ。メインクエストでも行くように言われたし」
「おお、いよいよだね。そうだ、良かったら一緒にニール港まで行かない? 道中を僕が案内するよ」
「それは助かるな」
渚の提案に感謝した。また案内役を買ってくれるらしい。
「でも、お礼とかできないぞ?」
「いいよ、お礼なんて。同じゲームに誘ったのに、中々一緒に遊べないからね。こういう機会に一緒に遊べるだけでも、僕は嬉しいよ」
「う……早くレベル上げしまーす」
「素材集めとかも、困ったら手伝うよ?」
スタブレのことといい、テスト勉強のことといい、渚には甘えっぱなしだな。本当に頭が上がらない。
「さて、そろそろテスト勉強の続きをしようか」
「そうだな」
飲み物を片付け、再度教科書を広げる。
その後も渚に分からない問題を教えて貰いながら、俺たちは二人でテスト勉強に勤しんだ。
これにて第二章は終了です。第三章をお楽しみに。
ちなみに、
・サブクエスト:モグモグ百匹組手
「クエスト発生条件」
スキル〈土竜突〉発動中のソードディグを連続で10体倒す。
(つまり、突進中のモグラを10体連続でたたき落とす必要アリ)
・ユニーククエスト:封土結界
「クエスト発生条件」
ダンジョン『封土神殿』内の石版・壁画の欠片等のアイテムを、考古学者NPC(実はトレット以外でも良い)に渡す。




