第三十七話:新たな遺跡を探して
森の神殿のボスモンスター、緑竜カマリを撃破した。
しかし不満が一つある。
「ドロップアイテムが出ないのは納得いかない」
竜の素材がドロップするのではないかと期待したが、緑の光になって消滅してしまった竜からは一切の素材がドロップしなかった。
竜の鱗とか出たら絶対に鎧を作っていたというのに。
代わりに手に入れたのは、おそらくストーリー上で手に入るタイプの称号のみ。
だが、今の戦闘でレベルが21に上がり、さらには居合刀系統のスキル経験値が手に入ったようで、新しいスキルを習得していた。
それも、待ちに待ったとびきり有用なスキルだ。
・居合刀系統アクティブスキル:〈錬気〉
STを消費し、居合刀の練気量を20%回復する。
そう、待ちに待ったチャージ時間の短縮スキルを手に入れた。
厳密にはST消費によってチャージ量を回復するスキルなのだが、どちらにせよ攻撃間隔がさらに短く出来る。つまり大幅な戦闘能力アップだ。
STの消費がかなり重い上に二割しかチャージが増えないのだが、これは今後も積極的に使い込んでいけば改善するかもしれない。攻め手が増えるのは良い事だ。
その分STの消費と回復速度の兼ね合いを管理する必要があるので、戦闘中に少し気を配る必要が出てきた。
「もっとSTRにポイントを振ればSTの余裕も増すんだろうけどなぁ」
しかしここまでくるとAGIとDEX重視の速度クリティカル戦士路線を外れる予定はない。STRとVITにも多少はポイントを振り、極振り化は避けるけど。
元々、居合刀はSTとは別でこの練気のチャージ時間があるので、攻撃スキルのクールタイムやST消費はさほど意識しなくても良い武器なのだ。
他の武器種に比べると攻撃スキルを乱発しない居合刀では、チャージを待つ間にSTがある程度回復するので、その分のSTを〈瞬歩〉などの移動スキルに使っている。
防御力についてはAGIを上げて、「当たらなければどうということはない」スタイルで行こう。
範囲攻撃にめっぽう弱くなるが、その時はその時だ。どうしても詰んだら課金してステータスを振りなおそう。
さて、戦闘後に武器の耐久値回復も終えた俺は、メニューを開いてメインクエストの項目を確認した。
メインクエストの進行状況は『トレットに森の神殿の調査報告をしよう』に変化している。
緑光を断った俺は、無事に資格を示せた、ということらしい。
激闘を終えたばかりの最上階は静けさを取り戻しており、剣の石像は変わらずそこにある。
もう一度『ウッディガーディアンのコア』をぶつけたら再戦可能なのか気になるが、今はいいや。流石に連戦は疲れる。
試練を乗り越えたことを、トレットに伝えに行こう。
カッペルの街に戻ってきた俺は、早速トレットを訪ねて図書館に向かう。
大きな図書館の中はいつも人が多い。NPCが大勢だがが、プレイヤーでも読書に勤しんでいる人だっているのだ。
トレットは変わらず受付にいたので、声をかける。
「こんにちは、トレットさん」
「おお、冒険者殿か。何か用かね?」
「森の神殿の調査を終えたんだ」
俺がそう話を切り出すと、トレットは瞳に興味の色を浮かべた。
「ほう、それはそれは。わざわざ儂の元へ来たということは、何か新しいことが分かったのかね?」
「一番奥の剣にアイテムぶつけたら、ドラゴンと戦うことになってさ。倒してきた」
端的な物言いでもトレットには伝わったらしい。彼は驚いて目を見開いた。
「なんと、では君は星剣伝説の試練に挑み、乗り越えたというのかね?」
「そういうことになるのかな」
変な称号以外に得られたものがないので実感は薄い。もっと試練突破のご褒美がほしいところだ。
「何か自分の体に変化は?」
「特に何も感じないな」
おじいちゃんが俺の顔や体をペタペタと触ろうとしてくるので、やんわりと押し戻して遠ざける。
やめろ、ジジイに体を触られても嬉しくねぇ。やるならアリアちゃんを連れてこい。
と、そんな風に思っていたからなのだろうか。
「トレットさーん、ご依頼の品をお届けに来ました!」
噂をすれば影。我らがNPC冒険者のアリアちゃんがやってきた。
彼女は大きな包みを持っている。これをトレットまで届けにきたそうだ。
「トレットさん、これは?」
「これは儂が依頼しておった骨董品じゃよ。あぁ、星の遺跡とは無関係じゃから、気にするでない」
トレットは包みを懐にしまいこんだ。なんだ、次のメインクエストに関連したアイテムかと期待したんだが。
「リョーダンさんとはお久しぶりですね。トレットさんとお話していたんですか?」
「ああ、星の遺跡の調査を依頼されてたから」
「信じられるかね、アリア君。彼は星の遺跡の試練を乗り越えたのだ」
「ええっ!?」
トレットが事情を伝えると、アリアは目を見開いて驚いた。
「あの伝説って本当だったんですか?」
「儂も試練を乗り越えた者をこの目で見たのは初めてじゃ。じゃが、彼がその伝説の生き証人となった」
二人して俺の顔を見てくる。トレットの仰々しい物言いもあって、何だかこそばゆい気分だ。
そんなトレットが真剣な表情で話を切り出した。
「……伝承によれば、星の試練を受けられるのは大星に選ばれし者のみじゃと言われておる。君は大星に選ばれたのじゃろう」
「ああ、そんな風なことを言われたような」
星剣の巡礼者だったか? 星の試練を巡れ、と言われた。
つまり他の星の遺跡の試練も突破してね、ということだろう。
その話を二人に伝える。
「馬鹿な、大星の声を聞いたのかね?」
「いや、大星かどうかは分かんないけど」
「しかし、その場で声を聞いたのじゃろう? あぁ、なんと言うことだ。君は本当に、新たに星剣伝説を成し遂げる存在やもしれぬのか」
トレットは興奮し、鼻息を荒くする。
すると、アリアちゃんが小さく手を上げて提案してきた。
「あの……でしたら次はニール港に向かわれてはどうでしょうか? 私は依頼で度々ニール港へ行くのですが、あの街の周辺にも星の遺跡があるという噂を聞いたことがあります」
「なんと。アリア君、それは本当かね?」
「はい。あ、でもあくまで噂ですよ? 遺跡がどこにあるのかまでは、私も知らないんです」
「ふむ……」
トレットが自分の顎に手をあてて、しばらく考え込む。そして俺の顔を見た。
「冒険者殿、ニール港周辺にあるという星の遺跡を探してみてはくれぬか。儂もそのような噂は聞いたことがなかった。君は星の遺跡の試練に挑むことができるようじゃ。もしかすると、また未知の発見があるかもしれぬ」
――『メインクエスト:森の神殿を調査せよ』をクリアしました。
――『メインクエスト:第二の星の遺跡を探せ』が発生しました。
新しいメインクエストの発生だ。
俺はトレットの顔を見て大きく頷く。
「ああ、分かった。ニール港の星の遺跡を探せばいいんだな?」
「そうじゃ。君なら星の遺跡について、色々と調べられるじゃろう。その先に待ち受けるであろう試練も、きっと乗り越えられる。星剣伝説の最後に何が待ち受けているのか、君の力で確かめておくれ」
「私も興味があります。きっと、リョーダンさんなら伝説の星剣を手に入れることだってできますよ!」
二人にそう期待されると、何だかまんざらでもない気分になる。
よし、メインストーリーも頑張って進めるぞ。
「まずはニール港にある冒険者組合に行くと良いと思います。あそこなら沢山の依頼と人が集まりますから、星の遺跡について詳しい手がかりが得られるかも」
「ああ、分かったよ」
アリアちゃんのアドバイスに俺は大きく頷く。次の目的地が決まった。




