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剣しか勝たんVRMMO  作者: 雉里ほろろ
第二章:土竜と竜と遺跡と宝石、世界は星のみに非ず

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第三十六話:星剣の巡礼者


「どうすんだこれ」


 足を地面から離した緑竜が、滞空したまま俺を見下ろす。

 俺の剣のリーチよりも遙かに高い位置だ。こちらの攻撃はどう頑張っても届きそうにない。

 居合刀のチャージ時間が稼ぎやすいと思えばプラスだが、どうしたものか。

 そうして空飛ぶ緑竜カマリを観察していると、奴は大きく口を開けて息を吸い――。


「ゴアァ!」


 空中から風ブレスを撃ってきた。すぐ近くにブレスが着弾し、巻き上げるような風圧に足を取られる。


「くっ!」


 よろめいたところに二発目が飛んでくる。今度は直撃コース!


「こなくそっ!」


 右手をついてハンドスプリングの要領で無理に転がり、どうにか躱すことができた。しかし二発目の風圧に不安定な体勢では耐えられず、地面に倒れてしまう。

 腰を強く打ち付けた。VRゲームなので痛くはないが、それでも転んだ衝撃で僅かに息が詰まる。

 大慌てで立ち上がり、走り出すと背中側にまたブレスが着弾。危ない危ない!


「それズルいだろ!?」


 緑竜はこちらの攻撃が届かない中空から悠々とブレスを撃ってきやがる。

 こっちには剣しかないから遠距離攻撃の手段がないんだぞ!?

 しかもこれまでのブレスと違って、上から撃ちおろすブレスには、着弾と同時に風圧による妨害効果まである。

 四発目、五発目と次々にブレスが飛んでくるので、這う這うの体で逃げ回る。初見で当たらなかったのは奇跡かもしれない。


「降りてきやがれ卑怯者がぁー!」


 俺の罵倒が効いたわけではないだろうが、七度のブレスの後に緑竜は異なるモーションを始めた。

 ぐるりと上空で旋回。そして勢いを付け、地面へと突進してくる。


「グルルルルルァァァァァ!」


 咆哮と共に、鋭い爪が地面を削る。


「どわあぁぁぁぁ!?」


 〈土竜突〉を発動して大きく横方向に移動。滑空突進のコースから飛びのく。竜の巨体が空気を押しのけ、ゴウッ、と嫌な音で通り過ぎていった。

 緑竜カマリはそのまま再び上空へと舞い戻る。


「くっそ……! 降りてこないのか……!」


 こちらからの攻撃は届かない。


「そうなると何かステージギミックでもあるのか?」


 俺は周囲に何か使えそうなものがないか見回す。

 だが戦闘開始から周囲の状況は何も変わらない、ただ広いだけの屋上には何もないのだ。


「バリスタとか対空砲とか、そういうのないの!?」


 もう一度、緑竜が滑空アタックを仕掛けてきたので、大慌てで回避。

 その後も上空からブレスを吐くか、滑空突進、あるいは尻尾でのサマーソルトアタックなどを繰り返し、一向に地面へ降りてくる素振りを見せない。


「全然射程に近づいてこねぇ!」


 こちらからの打つ手無し。

 ならば仕方ない、狙うはカウンターか?


「チャンスがあるとするなら滑空突撃のタイミングだ。あの攻撃だけは高度が下がって、地面ぎりぎりまで降りてくる。そこに攻撃を合わせる」


 ぐっと腰を落として、剣の柄を握る右手に力を込める。

 ただ、無駄な力を込めるのではなく、なるべく自然体に。集中だ。

 緑竜カマリが狙い通り、滑空突進のモーションに入った。

 上空で大きく旋回し、勢いを付けて降りてくる。

 爪を振りかぶり、俺を葬り去ろうと猛進してくる巨体。失敗して直撃を喰らえば、俺の貧弱な防御力では即死するだろう。

 

 恐れるな。眼を逸らすな。

 あんな速度、モグラたちの突進に比べれば止まって見える。


 緑竜の太い腕が、すれ違いざまに俺へと振るわれる。

 極限まで引きつけ、姿勢を低くする。

 緑竜の爪が俺の兜を掠め、左側についていた角飾りをへし折った。折れた角飾りが破損判定を受けて消滅する。

 だが、避けた。限りなく近い距離、まさに紙一重の位置に緑竜の体がある。

 その一瞬をどこまでも引き延ばし、刻んだ時間の中、脳内のトリガーを引くように思考入力でスキルが発動する。

 言葉が出るより先にシステムが起動し、体が動きだす。

 右手に握った剣を鞘から抜いた。俺の土竜刀が、練り上げた気を纏って、斬撃を放つ。



「――〈抜刀〉」



 刀身が胴へ深く吸い込まる。直線をなぞるように鮮やかに、軽やかに。

 音は後から付いてくる。クリティカルヒットが炸裂した効果音。そして、


「グォォォォォァ!?」


 痛烈なカウンターを受け、そのまま墜落する緑竜カマリの悲鳴だ。

 巨体が勢いよく墜落し、衝撃でわずかに地面が揺れる。

 〈納刀〉を発動して振り返れば、地面に横たわり、ダウン状態の緑竜カマリの姿がある。


「これ、他の武器種だったら攻撃チャンスだったんだろうなぁ」


 パーティー戦闘なら、寄ってたかってタコ殴りできただろう。だが俺は居合刀(ヤマトブレード)のチャージを待たなければならない。

 こうも明確な隙を作ったのに、攻撃できないのは少し歯がゆいな。

 そして居合刀のチャージが完了するのと、緑竜がダウン状態から復帰して立ち上がるのはほぼ同時だった。

 再度飛ばれると面倒だ。俺は素早く緑竜の眼前まで駆け寄り、攻撃を誘発させる。空へ飛び上がるよりも先に、獲物が眼前にきたことでカマリが反応した。噛みつきがくる。

 後ろ方向に〈瞬歩〉を発動し、一気に下がることで噛みつきを空振りにさせる。

 そして移動完了と同時のタイミングで地面を蹴り、前に向かって再度スキルを発動。スキルの挙動に身を任せた凶悪な切り返しで、自身を弾丸として打ち出す。


「〈土竜突〉!」


 狂気的な加速で俺は跳躍。噛みつきのために下げた竜の頭を飛び越え。その背中に生えた右翼の付け根を狙う。

 視界が加速し、一瞬で潰れる距離の中、練習してきた神速の居合を実現させる。


「〈抜刀〉!」


 加速を乗せて放った一太刀は強烈なクリティカルを発生させ、翼を半ばまで断ち切った。

 流石に一撃で翼を切り落とすような芸当はできなかったか。でも、大きなダメージだ。

 竜が怯んでいる隙に着地して、〈納刀〉を発動する。

 反撃を警戒して振り返ったが、緑竜カマリはダメージが大きく、俺への追撃ができなかったようだ。


「さぁ、そろそろお前も限界だろ?」


 もはや満身創痍の緑竜カマリ。片目を奪われ、翼を半ばまで断たれた緑竜は苦悶の表情だ。

 闘志こそ尽きていないが、体のあちこちに刻まれた裂傷と、片目を失ったその姿からは最初の猛々しい威厳を感じられない。

 荒く息を吐きながら俺を睨む視線を受けると、首筋がぞわぞわする。これが殺気とは言わないが、何か、そういう類いのプレッシャーを感じる。

 しかしそれは転じて、緑竜の余裕のなさの表れだ。

 そんな視線を正面から睨み返し、俺は挑発的に笑ってみせる。

 やけっぱちに放たれたブレスを避ける。緑竜はその隙に再度上空へ逃げようとしたが、右翼に与えられたダメージの影響か、上手く力が入らない様子だ。

 これは好機。次の一撃で終わらせる。

 前進。緑竜が空へ逃げることを諦め、俺の頭を噛み砕こうと大口を開く。

 だが、あまりにも遅い。


「〈抜刀〉」


 緑竜の頭に斬撃を置いてすれ違う。会心の手ごたえ。

 刀を仰々しく払い、キン、と音を立てて納刀する。

 遅れてやってきたのは、緑竜の巨体が力なく地面に崩れ落ちる音。

 俺の背後で竜は再び緑の光となり、やがて空気に溶けるように消滅した。



『資格はここに示された。星剣の巡礼者よ、試練を巡り天に至れ』



 ――称号『星剣の巡礼者』を獲得しました。



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