第三十五話:最奥にて資格を示せ
『BOSS ENEMY ENCOUNT!』
『VS 緑竜カマリ』
緑の鱗に覆われた翼で空気を叩きながら、竜は着陸した。その余波で突風が吹く。
顔を庇い、倒れそうになるところをどうにか踏ん張った。
「はは……ドラゴンか」
これまで出会ったボスエネミーは二体。大型犬と剣士ゴブリンだったのだが、ここにきて急に脅威度レベルあがったな。
太い二足と長い尻尾、そして大きな翼。頭はトカゲに似た形をしている西洋式のオーソドックスなドラゴンだ。
緑竜カマリと名乗るボスドラゴンは獰猛に牙を鳴らし、星の試練の挑戦者にむけて威嚇する。
俺もまた、腰の愛刀に手を添えて身構え、竜に対峙した。
「いいぞ、ゲームといえばドラゴンスレイだ。相手にとって不足なし!」
兜の内側で笑みがこぼれる。大きなモンスターを前に竦みそうな足を叱責して、ゲームなのだから楽しめと自分に喝を入れる。テンション上げていこう。
緑竜が首を大きく持ち上げた。直感で悟る。ブレスモーション!
「〈瞬歩〉っ!」
横へ跳躍。同時に、俺がいた位置を猛烈な突風が吹き抜け、地面に裂傷を刻み付けていった。
「風ブレスかよ!」
火の玉が飛んでくると思ったんだが、予想が外れた。本当の意味で息吹とは。
柄に触れれば、居合刀のチャージは満タン。まずは開戦一撃目、重たい一発をくれてやる。
地面を蹴り、前へ。
竜が体を大きく回転させ、尻尾で俺を薙ぎ払おうとする。
だがそんな大振りモーションに当たると思うなよ。
「向こうから来てくれるのなら、好都合!」
スイングされる尻尾にタイミングを合わせてスライディング。頭上をかすめる尻尾を回避して、そのすれ違いざまに〈抜刀〉。
鋭く抜き放った切っ先が竜の鱗を砕き、尻尾に切り傷を負わせた。
スライディングの勢いそのまま、回転中の竜の無防備な胴へ〈連閃〉で追撃を与え、股下を潜り抜ける。
ゴロンと地面を転がり、起き上がったら〈納刀〉。
強烈なフルチャージは十分な有効打になったようで、竜が忌々し気に俺を睨む。
「はは、デカいだけで動きは遅いな!」
挑発を飛ばし、俺は立ち位置を固定することなく走り回る。
モグラとの組手で大幅にレベルアップをした俺だが、そこで得たポイントはほとんどをAGIとDEXにつぎ込んでいる。
あとは少しSTRに振り分け、VITには触れていない。
つまり高機動高火力紙装甲がより顕著になったというわけだ。
直撃が当たればHPが尽きるであろう爪の攻撃を躱し、噛みつきを避け、風ブレスの射線から飛び退く。チャージのための時間を稼ぎながら、冷静にボスのモーションを観察する。
近くにいるときは爪や噛みつき、離れればブレスってところか。
割と分かりやすい攻撃ルーチンだな。
爪の攻撃は出が速い。代わりにブレスはモーションが大きく、チャージ時間を稼ぎやすい。
時間稼ぎのために距離を取ってブレスを誘発。俺のAGIがあれば、走って射線から離れられる。
居合刀のチャージが溜まった。今度は一気に距離を詰める。
引っかき攻撃に対して急ブレーキと〈瞬歩〉を組み合わせ、最小限の動きで回避。その突き出した前足首を斬り払うようにして〈抜刀〉で攻撃する。
だが、硬い鱗の感触だ。十分なダメージになっていると思うが、クリティカルヒットではない。もっとスピードを乗せれば威力があがるか。もしくは、
「有効部位を探す必要がありそうだな」
鱗の上からでもダメージは出ているが、狙うならばより柔らかそうな部位の方がいい。王道で行くなら顔の周辺や関節部分かな。
ヒットアンドアウェイの意識を高め、再度距離を取る。すると緑竜は今度はブレスではなく、翼を広げての突進攻撃に移った。
ドシンドシンと地面を揺らし、巨体が迫ってくる。
牙を剥きだしで突進してくる迫力は、どんなアトラクションでも味わえないだろう。
最高だ、笑みがこぼれる。
横に移動して突進のルートから外れる。次の瞬間、
「グルルルァ!」
「マジかっ!?」
上手くすれ違えると思ったタイミングで竜が急に立ち止まり、その場で旋回。尻尾を振り回して薙ぎ払いを繰り出してきた。
これは避けきれないっ!
仕方なしに居合刀を抜いて、刀身でガード。踏ん張ることはせず、自分から後ろに跳んで衝撃を和らげる。
「ぐっ!?」
それでも尻尾による衝撃は重く、HPが七割ほど削られた。衝撃に手がしびれ、口からは思わず呻き声が漏れる。
吹き飛ばされ、高く宙に舞う俺の体。天地が一回ひっくり返った。
そのひっくり返った視界でブレスモーションを確認する。
着地狩りが来る!
「賢いAIしてやがるなぁっ!」
ブレスに当たれば死は避けられない。風ブレスはガードもできないだろう。
スキルの発動を間に合わせるしかない! 一か八かだ!
俺の足が地面につく直前に、竜の口から暴風の塊が打ち出される。
そして俺のつま先が地面につく、その瞬間。
「〈土竜突〉!」
スキルの恩恵を受け、着地と同時に加速して再度吹き飛ぶ俺の体。体をかすめるようにブレスが吹き抜け、ギリギリで回避に成功する。
視界がひっくり返ったり、急加速したり。ジェットコースターか。
急加速で転んでは良い隙でしかないので、足を踏ん張って減速し、そのまま流れるような動作で走り出す。背中に追撃のブレスの余波を感じる。
「あの体勢から回避できるんだからマジでこのスキル強ぇ!」
突進からの尻尾薙ぎ払い、覚えた。次はちゃんと対処できるはずだ。
ガードの上からでも半分以上持っていかれたHPをポーションで回復し、無駄になったチャージ分を再度貯めるべく足で時間を稼ぐ。
フルチャージまでの約三十秒を稼ぐために緑竜の周りをぐるぐると走り続け、チャージ完了と同時に駆け寄って攻撃。その繰り返しだ。
竜は吠え、挑戦者を退けようと爪を振るう。だが、それを踏み越え、剣を届かせる。
焦りはない。相手の攻撃を見切り、その隙を狙うだけだ。
空振りを誘発させ、俺は常に走り回る。
居合刀の刃が緑竜の鱗に傷をつけ、一太刀が大きなダメージとなる。
そうして繰り返すこと十度。次のチャージも完了した。
「ふっ!」
もう相手の攻撃の速度にも目が慣れた。良い集中の中にあることを自覚できている。
近づいてくる俺の頭をかみ砕こうと、緑竜が大きく口を開いた。
ギラりと並んだ鋭い牙を見てから、左へ一歩分体を逸らす。
右腕ギリギリの何もない空間を緑竜が噛み、横目で俺を睨む竜の瞳と目があった。
足を踏ん張り、腰を捻り、柄を握りしめて剣を抜く。
狙うはその瞳だ。
「〈抜刀〉!」
腰の鞘から神速の太刀筋が奔り、竜の瞳を切り裂いた。
「グオォォォォ!?」
右目に大きく刻まれる裂傷。緑竜が初めて悲鳴をあげる。
硬い鱗を斬りつけたときとは異なる、確かな手応え。クリティカルの発生したダメージエフェクトを飛び散らせる。
しかし決して気を抜かず、すぐさま大きく後ろにステップ移動。破れかぶれの爪撃が、直前までいた場所で空を切った。
十分な距離を取った後、キン、と高く音を立てて納刀し、挑発的に笑ってみせる。
「どうよ、今のは効いたんじゃねぇの?」
右目から激しいダメージエフェクトを散らす緑竜は忌々しそうに俺を睨んだ。
深手を与えた。優位に戦いを進められている。
すると次の瞬間、緑竜がこれまで見たことのない動きを始めた。
全身に力を籠め、大きく翼をはためかせると、その巨体がゆっくりと地面から離れていく。
「おいおいおい……!」
いや、分かってはいた。登場したときもそうだったし、確かにあれだけ立派な翼があるんだ。
だけど、その滞空位置はちょっと反則じゃないか?
緑竜カマリは俺の剣が届かないはるか上空へと飛び立つと、片側だけになった鋭い眼で俺を見下ろした。




