第三十四話:緑光を断ち
いよいよボス戦です
ナギとミーニャの二人と別れた俺は、その足で今日も森の神殿を訪れていた。
できることなら今日中に攻略を終わらせてしまいたい。何故なら、流石にテスト期間中にスタブレをやるつもりはないからだ。ナギにせっつかれたというのもある。
上手くいけばそのままボス戦になることを想定し、多めに回復ポーションを持ってきた。モグラ戦ではお世話になった強壮ポーションもお守り代わりに持ってきている。
おかげで所持金が本当に底をついた。不要品を売ってポーションに変えたので、マジで金銭面が苦しい。なにか金策をせねば……。
「かなり終わりの方まで来ているはずなんだよな」
ここ数日で森の神殿にも通いなれた俺は、迷うことなく森の神殿の上層階を目指す。
ただ、気がかりな点が一つある。ダンジョンそのものの攻略は極めて順調なのだが、肝心の謎解き要素がまだ分からない。
トレットが解読した石板が、試練に挑むための鍵になる重要なヒントらしいのだが、怪しいものは見つかっていないのだ。
神殿内は十字の通路と何もないがらんどうな部屋ばかり。モンスターは刃物をブンブン振り回しながら追いかけてくる木造ロボットだけ。
新しいヒントになりそうな暗号もなければ、怪しげなオブジェの一つも見つかっていない。
「強いて言えば、壁に刻まれたマークか?」
古い遺跡の通路の壁には、ところどころに壁画のようにマークが刻まれている。
剣のマークだったり、グルグルと吹く風のモチーフだったり、色々なマークが刻まれてあった。
「でもマークの近くを調べても、特に何も見つからなかったんだよなぁ」
それに封土神殿とは違い、分かりやすい壁画や文字の類いもなかった
隠し通路の一つや二つが出てくるのでは、と期待して壁を調べてみたのだが、見つからなかった。
「まぁ最奥に行けば、何かあるだろ」
情報の取りこぼしは否定できないが、流石に第一のダンジョンからそんな際どい情報提供の仕方をしてこないだろうというメタ的思考の元に、どんどん先へ進んでいる。
ここ数日で見慣れた爆走ロボを斬り伏せ、先へ進むと、新たな上層階への階段を見つけた。
「これで三フロアは攻略完了、と」
何階まであるのか不明だが、そろそろ終わりも近いのではないだろうか。
そう思って階段を上り、古い木の扉を押し開けると。
「……おお、外にでた」
ドアの先には広々とした屋上が広がっていた。薄暗いダンジョンの中から明るい青空の下に出たため、僅かに視界がくらむ。
何度か瞬きをして明るさに慣れたあと、俺は周囲を見回した。
豆腐のように四角い建物の最上階はただただ広く、端には手すりもない。見通しがとっても良い。
だからこそ、遠目でもそれに気が付くことができた。
「あっちに何かあるな」
目印のように天に向かって伸びているそれに近づく。
近くまで寄ると、その正体が分かる。俺の背丈を大きく超える、巨大な石像だ。
天に向かって伸びる剣のオブジェが、そこにあった。
森の神殿の屋上に唯一生えている謎のオブジェ。そしてこれ以上先に進めそうなところはない。
「これ見よがしなチェックポイントだなぁ」
おそらく、ここが森の神殿の最奥になるのだろう。
俺はトレットが解読した、石板の文言を思い返す。
「鍵は剣。緑光を断ち、最奥にて資格を示せ……だったか」
この言葉が森の神殿を攻略し、『星の息吹』と呼ばれる試練を受けるためのヒントだ。
目の前には石で作られた剣のオブジェ。これが『鍵は剣』を示しているのだろうか。ちゃんと武器を持ってこいよ、的な意味ではなかったのか。
とりあえず、怪しい剣のオブジェを調べてみる。
「うーん、変わったところは見当たらないな……」
鍵がどうのというが、怪しいところは見当たらない。例えば鍵穴だったり、何かが嵌まりそうな窪みがあったり、そういう類いではなさそうだ。
ただ単に大きく立派な剣の形をした石像にしか見えない。
他に床にマークが刻んであるのでは、と思って周囲の地面を探してみたが、それらしいものは見つからなかった。
「回ったり抜けたりは……しないか」
力をかけてみても、石像は動かない。そもそもよくある『切っ先が地面に埋まっている』勇者の剣方式ではなく、持ち手側が地面に埋まっていて切っ先は天空に突き付けられているのだ。これを引き抜くことはないのかも。
「となると別の条件が必要になるパターンか」
トレットが言っていた暗号も、まだ不明なところがある。
「鍵は剣。それは多分、この剣の石像のことだ。緑光を断ち……緑光ってなんだ?」
緑の光。そんなもの、あったか?
森の神殿の中で緑色に光るものなんて……あっ。
まさかと思い、俺はインベントリを開く。
メニューを操作してオブジェクト化したのは、この森の神殿を守っていた爆走ロボからドロップした『ウッディガーディアンのコア』だ。
爆走ロボの頭部パーツにはまっていた緑色に光る宝石は、ドロップアイテムになった今もぼんやりと緑に光っている。
そして、これを一度カッペルの街の宝飾屋に持って行ったときのことを思いだす。この宝石は砕けやすい性質があり、アクセサリへの加工はできない、と。
「ダンジョンエネミーからのドロップ。アクセサリに使えない用途不明の宝石。脆くて砕けやすい特徴」
緑光を断ち。つまり……。
「こいつを砕けば……!」
ガーディアンのコアを振りかぶり――石像の剣の刃にめがけて投げつけた。
脆い宝石は石像の剣にぶつかることで簡単に砕け――否、斬れた。
半分に斬れた宝石から緑色の淡い光が漏れ出し、石像に吸い込まれた。すると光は強さを増して、切っ先から天空へ向けて一条の筋となって放たれる。
VR空間であるこの世界で、そんなはずはないのだが、空気が変わったことを肌で感じた。周囲の空気がピリピリと張り詰めていくような緊張感だ。
「さぁ、イベント発生だ」
警戒し、光が昇っていた空を見上げる。
すると、ぼんやりと緑色に光る大きな玉が、ゆっくりと空から降りてきた。俺の身長より大きい光の玉は目の前、剣のオブジェの先端付近で停止して、淡く揺らいでいる。
『鍵は剣』
突然、俺の耳に声が響いた。聞き覚えの無い、透明感のある声。
いや違う。一度だけ聞いた。それは俺がこのゲームに降り立った初日、チュートリアルのとき。
大星の声は静かに、そして高らかに宣言する。
『緑光を断ち、最奥にて資格を示せ』
空から降りてきた緑光の玉が姿を変える。より巨大に、より強く、戦いに適した姿へ。
おぼろげな光が実像を結び、牙を鳴らし、翼を広げる。
空想の中に生きる人類の天敵が、科学の力で再現されたこの仮想世界に召喚された。
数多の英雄譚で、立ち塞がる障害として人を試す、力の象徴。
人はその姿を、竜と呼ぶ。
『BOSS ENEMY ENCOUNT!』
『VS 緑竜カマリ』
――さぁ、戦闘開始だ。




