第四十一話: ニール港を目指して
ミーニャからアクセサリを受け取り、早速装備をした後。俺たち三人はパーティーを組み、ニール港を目指すための準備を整える。
「回復アイテムは足りているかい?」
「あぁ、最低限は持ってきたぞ」
最低限しか持っていないのは、お金を貯めるためだったりする。
冒険者組合で採掘系や討伐系のサブクエストを受けてお金を稼いではいるのだが、まだまだ稼ぎ足りないのだ。
「まぁ、足りないなら私が分けてあげるよ」
「マジ? 助かるよ、ミーニャ」
「それじゃあ、早速出発しよう」
ナギの号令で、歩き出す。三人で連れ立って、カッペルの街を出発した。
カッペルから目的地であるニール港までの道のりは、それはもう順調なものだった。
何せ現状ではトップ層のプレイヤーレベルを誇るナギと、生産メインとはいえ十分に高レベルのプレイヤーであるミーニャがパーティーメンバーなのだ。
この辺りのモンスターでは文字通りレベルが違うので相手にならない。
勿論、俺だって戦闘をサボっていたわけではない。道中出てきたモンスターを斬り捨て、経験値や素材をちゃんとゲットしている。
しかし一人で冒険よりも格段に早く、そして多くのモンスターを倒すことができている。
今もまた、襲いかかってきた野犬型モンスターの群れをナギが二刀流の竜巻のようなスキルで壊滅させたところだ。
ポンポンポーンと成すすべもなく吹き飛ばされていくイヌの群れは、どこかコミカルですらあった。
俺はそんなナギを横目で見ながら、ミーニャに声をかける。
「お疲れー」
「うん、リョーダンくんもお疲れ様」
俺が一体倒すころには、ナギもミーニャも俺の倍の数、モンスターをなぎ払っているのだから頼りになる。
「ナギが強いのは知っていたけど、ミーニャも強いな」
「いやいや、流石にレベルが違うからね。これくらいは普通よ」
褒めると、ミーニャは謙遜した。照れ隠しなのか、自分の髪を弄っている。
そんな彼女の手には、鋭く頑丈そうな手甲がはめられていた。
「それにしても、ミーニャが武器を装備していないから不思議に思っていたけど、まさか格闘戦をするとは……」
そう。彼女の手にはめられた手甲は防具のカテゴリではなく、立派な武器カテゴリである。
俺が装備しているY:居合刀と同時期に実装された、Z:無手刀だ。
ミーニャはその手甲をはめた両手で、襲い来るモンスターを殴り倒す過激な戦闘スタイルを取っている。
「もともと私は刺突剣を使っていたんだけど、乗り換えてみたの。私、護身術を習っているから意外と動けるのよ?」
「このゲーム、武器は剣だけじゃないのかよ」
「手刀って実質剣だから」
えい、やっ、と可愛らしい掛け声とともに繰り出される貫手は、掛け声の緩さに不釣りあいなほど鋭い。
先ほどもこの貫手で、モンスターの心臓を貫いていた。
「両手を使うから実質二刀流でもあるよね」
「そうね、ナギちゃん。実質お揃いよね」
「ナギ、ミーニャ。俺はたまにこのゲームに馴染んでいるお前たちが怖いよ」
「割とリョーダンも手遅れだと思うけどなぁ」
戦闘を終えたナギが、剣を収めながら近寄ってきた。
「そういうリョーダンも、気が付けばヤマトブレードの扱いに随分と慣れているじゃないか」
ナギは俺の剣に興味を持ったらしい。てくてくと近寄ってきたと思えば、腰に差した土竜刀を観察し始めた。
「ああ、これからはヤマトブレードをメインで使っていくつもりだ。格好良いんだ、これが」
「へぇ。リョーダンも、お気に入りの剣が見つかったんだね」
ナギの笑みに、深く頷き返す。
以前、ナギは言っていた。お気に入りの剣が見つかれば、プレイヤーはきっと強くなれるのだと。
あの時は実感が薄かったが、今ならナギの言葉の意味が少し分かる。
俺自身が信じたこの剣が、強いのだと証明するために、俺はこの剣に見合うだけの強さを身につける必要がある。
だから、俺は強くなれる。
「ああ、そうだ。相棒を見つけたぜ」
「でも、居合刀ってDPS的にはどうなんだい?」
「……おっ、何だ効率厨、戦争か?」
「煽るつもりはないけど……。僕は居合刀のことを詳しく知らないからさ。リョーダンは実際に使ってみて、どうなのかなと疑問に思ってね」
うん、まぁ、ナギの言うことは理解出来る。
チャージ動作を必要とするヤマトブレードは、操作の癖が強い。
一撃の威力はそれこそ、STR系の高火力武器筆頭である巨大な長剣にだって劣らないし、フルチャージに高倍率のクリティカルが絡んだ時の瞬間火力は爆発的だ。雑魚どころか、同レベル帯のモンスターでも一撃で倒せることすらある。
ただし、一撃の威力が高いということは、攻撃を外せばダメージ効率のマイナスが大きいということ。さらにクリティカルヒットはDEXと攻撃のスピードや角度、攻撃位置で確率を高められるものの、確定発生ではない。
どうしてもDEX戦士はダメージの振れ幅が大きく、特に居合刀は爆発力があっても安定感に欠ける。
そしてチャージ動作を求められる都合上、一対多に弱い。
「正直、癖は強いな。けど、使っていて楽しいぞ」
「VR初心者だから、もっと取り回しが簡単な武器を選ぶと思っていたのに。使っているスキルも変だよねぇ。よく〈瞬歩〉を使って攻撃を当てられるよ。全く、どういう反射神経しているんだか」
ナギは呆れたようにつぶやいた。その反応を見て、俺も疑問に思う。
「……そういえば、ナギが〈瞬歩〉を使っているところを見たことがないな?」
俺が加速用のスキルとして攻防ともに多用している歩行系統のスキル、〈瞬歩〉。このスキルはAGIに重点的にポイントを振っていれば、俺くらいのレベルでも習得できる初歩的なスキルだ。同じくAGIにポイントを多く振っているナギも習得しているはずだが、彼女がこのスキルを使っているところを見たことがない。
しかしそれには理由があるようで。
「だって、急に体が加速するんだよ? 目測が狂うじゃないか。剣っていうのは、ただ当てれば良いわけじゃない。相手との距離を合わせて、振り切る必要がある。なのに〈瞬歩〉みたいな急加速するスキルを使ったら、タイミングが狂って剣を振り遅れるでしょ」
「あー……」
「体が勝手に急加速する感覚に慣れず、VR酔いする人もいるからね。〈瞬歩〉を積極的に使う人は、突き攻撃がメインになる刺突剣使いの一部くらいだよ」
刺突剣と聞いて、俺はミーニャに視線を向ける。彼女は苦笑いで応えた。
「私はちょくちょく使っているよ? 無手刀に乗り換えた今も、パンチとか貫手なら当てやすいし。でも、剣を振って当てる自信はないなぁ……」
「覚えたてのころに使ってみて、バランス取れずに転んで封印するところまでがお約束だよね」
「あ、分かる。私も最初のころは封印してた」
二人が言うには、スタブレあるあるトークの一つらしい。
ナギやミーニャの言い分は俺もよく分かる。
何せ、ついこの前、俺が初めて〈土竜突〉を使った時と同じ現象だからだ。
急加速して距離を詰めながら相手に剣を当てる、というのは難易度が非常に高い。慣れないと、剣を思いっきり振り遅れる。
俗な言い方で例えるなら、手元でノーツが急加速する音ゲーを想像してほしい。
……うん、難易度高いわ。そりゃ、タイミング合わせづらいよ。
そんなわけで、〈瞬歩〉に代表されるような高速ステップ移動系のスキルは、突きの速度を上げられるため相性が良い刺突剣使いなどが使用するくらいらしい。
回避目的でステップ系スキルを使う人もいるが、咄嗟の状況でスキルを使って転んでしまう人も多いので、そちらも人口は少ないとのこと。
そんなスキルでSTを消費するくらいなら、しっかりと防御して、もう一回攻撃系のスキルを使う方が主流だそうだ。その方がダメージが出るし。
いやまぁ、主流じゃないだけで、全くいないわけじゃないらしいけど。
「俺の場合は居合刀の仕様の都合で、攻撃スキルを乱打することはないからなぁ……。振り遅れだって、タイミングを合わせるようにちゃんと練習すれば、当たるようになったぞ」
「そうかもしれないけれど、他に練習するところがあったんじゃないかなぁ……?」
「いやいや、結構便利だぞ、このスキル。回避に使えるのは勿論、攻撃に使えばダメージも増えるし」
俺は自分なりの加速スキル有用論を唱えてみる。
というのも、このスターブレード・ファンタジーというゲーム、どうもダメージ計算のシステムにはきちんと物理法則が働いているらしく、同じ能力値でも素早く殴ったほうがダメージが高くなる。
詳しい倍率の検証とかはしていないので具体的な計算式は不明だが、攻撃ダメージの計算式に、速度の項目が含まれているようだ。
まぁ、STRが滅茶苦茶高いプレイヤーが優しく肩に触れただけでモンスターが死ぬ、なんていうのはあまりに現実的ではないからな。
勿論STRを高めた方がダメージ上昇の効率は良いのだが、高いAGIによって勢いよく攻撃することでもダメージが上がる。
STRに最低限しかステータスを振っていない俺が、少しでも高いダメージを出すための、苦肉の策とも言える。
「そんなわけで、剣に加速を乗せるのは有効なんだよ。特に俺は別の加速スキルも手に入れちゃったからな。積極的に使っていかないともったいない」
「別の加速スキル……?」
「そう。サブクエをクリアしたら、EXスキルが習得出来てさ。……あれ、これは言ってなかったんだっけ?」
「初めて聞いたね」
「何々、そんな凄いこと隠してたの?」
ナギとミーニャがジトッとした目で俺を睨んできた。あれ、言ってなかったか? もう教えたつもりでいたんだが。
「EXスキルが手に入る、ユニーク関連のサブクエストかぁ。また荒れそうな爆弾を抱えたね……」
「お、どんなスキルか見たい? 次にモンスターが出てきたら、見せてやるぞ?」
「おおー、それじゃあ楽しみにしておこうかなぁ」
そんな風に三人でワイワイと会話しながら、俺たちはニール港を目指して草原を進んでいった。




