第三十一話:宝石の用途
森の神殿の攻略を中断し、俺はカッペルの街まで戻ってきた。
ログアウト前に宝飾屋に立ち寄って、アクセサリを作ってもらうのだ。
封土神殿で手に入れた『翡翠の地脈樹片』や『深紅の地脈樹片』は採掘に苦労した分、きっと凄いアクセサリになることだろう。
ということでカッペルの街の表通りに面した位置にある、宝飾屋を訪ねる。ここに来るのは一番初めのチュートリアルお使いクエストで一度来て以来だな。
無骨な男の職場、という印象を受けた鍛冶屋や防具屋とは違い、お洒落な宝飾屋の店内には、市販品のアクセサリがいくつも展示されてあった。
今回はオーダーメイドの依頼なので、それらは買わずに店主に声をかける。鍛冶屋と防具屋の店主は顔がそっくりな兄弟だったが、宝飾屋の店主は柔和な女性NPCだ。
「はい、何か御用でしょうか?」
「宝石を使ってアクセサリを作ってほしいんだが、頼めるか?」
「オーダーメイドのアクセサリですね、承りました。どのような宝石を加工するのですか?」
「これをアクセサリに加工してほしいんだ」
インベントリから『翡翠の地脈樹片』を取り出して店主に渡した。
すると、店主の顔が曇る。
「これは……見たことのない宝石ですね」
店主は受け取った地脈樹片を光にかざしたり、角度を変えて観察したり、しばらく触っていたのだが、申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ありませんが、この宝石は私では加工できません」
「うぇ、マジで?」
「非常に強力な力が秘められた宝石のようです。お恥ずかしながら、この宝石は私の技術では十分な加工ができません。もっと腕の良い宝飾職人なら可能かもしれませんが……」
なんと、まさかのお手上げ宣言だ。カッペルの街の宝飾屋では加工ができない代物だとのこと。
もっと先の街にある宝飾屋で依頼しないとダメなのか?
「この宝石を加工できそうな知り合いとかはいない?」
「これほど珍しく強力な力を持った宝石は見たことがありません。これを加工するとなると、非常に優れた技術を持つ職人でなければ不可能でしょう。私の伝手では心当たりがありません」
ダメ元で店主に聞いてみるが、首を横に振られた。
どうしたものかと途方に暮れていると、「ただし」と店主が続ける。
「冒険者の中には鍛冶や裁縫、宝飾などの高い技術を持つ人物がいるとお聞きします。そういった方であれば、この宝石も加工できるかもしれません」
つまりNPCの職人では不可能だが、高レベルな生産プレイヤーなら加工できるかもしれないってことか。
「そう言われてもなぁ……」
俺に生産職プレイヤーの知り合いなどいない。ましてや高レベルな人物など。
これまでほとんどソロプレイでスタブレを遊んできた弊害が……。
だが、ここで俺は一つの閃きを得た。
「ナギならそういう知り合いがいるか……?」
ナギはスタブレをやりこんでいる高レベルプレイヤーだ。お願いすれば、高いスキルを持った生産職のプレイヤーへ顔を繋いでもらえないだろうか。
お礼として『翡翠の地脈樹片』と共に手に入った『深紅の地脈樹片』をプレゼントしてもいい。どうせ追加で必要になれば刀を折って採掘しなおせばいいんだから。剣の欠片を大量消費することになるので費用はとんでもなく嵩むが。
そんな風に頭のなかで計画を立てておく。
ともあれ、この宝石をすぐに加工できないのなら仕方がない。
代わりについ先ほど森の神殿の爆走ロボからドロップした『ウッディガーディアンのコア』を渡してみる。手のひらサイズの大きな緑の宝石を差し出すと。
「それなら、こっちの宝石は加工できるか?」
「あぁ、これはアクセサリには向かないですね」
店主に一蹴された。何故。
「この宝石は持ち込まれる冒険者の方が多いのですが、非常に脆く、簡単に割れてしまうのです。アクセサリとして加工することはできません」
期待していた宝石がどちらもNGをくらってしまったよ。
翡翠の地脈樹片のほうはともかく、それならこのウッディガーディアンのコアは何に使うんだ。既に砕けて破片になったドロップ品もあるんだが。
雑貨屋で売れば多少のお金にはなるか?
アクセサリは既製品を買うのも微妙だったので、店主に礼を言って店を出た。
「当てが外れたなぁ」
だが、加工さえできれば強力なアクセサリになることは間違いなさそうだ。高まる期待と共に、俺はログアウトした。
そして俺は翌日、一緒に登校している最中に渚へと相談を持ち掛けた。
「なぁ渚。ちょっと頼みたいことがあるんだが」
「何かな? テスト勉強のこと?」
「いや、スタブレの話。この前に話してた、ユニーククエスト絡み」
「おや、早速何か困りごとが?」
話題を振ると、渚は嬉しそうに食いついた。
「ユニーク絡みで珍しい宝石を手に入れたんだけどさ、カッペルの街の宝飾屋でアクセサリの製作を頼もうとしたら、無理だと断られたんだ。それで高レベルな生産職プレイヤーの知り合いがいれば、紹介してもらえないかなと思ってさ」
「カッペルのNPCが扱えないレベルの素材? 随分と品質の良いアイテムを手に入れたんだね」
渚は小さく驚いたあと、「それなら」と手を叩いた。
「僕が今使っている防具の製作をお願いしたプレイヤーに聞いてみようか? 僕のフレンドなんだけれど、腕は確かだよ」
渚が着ていた防具って確か、あの白いドレスみたいな防具か。
珍しいデザインだと思っていたが、どうやらあれはプレイヤーメイドの防具だったらしい。
だとするとその人、服飾デザインのセンスあるなぁ。
「俺から頼んでおいてあれだが、良いのか?」
「うん、大丈夫だよ」
あまりにも安請け合いをするので確認をとるが、渚は「もともとそのうち顔合わせする機会もあっただろうから」と言う。
「スタブレを始めてできた友達なんだ、その子。剣一のこともそのうちに紹介しようと思っていたから、丁度いい機会だよ」
「そうか、それなら頼むよ」
「うん、任せて」
渚は笑って頷いた。
その日の夜に、渚からメールが届いた。
内容はお願いしていた防具職人の件で、渚は早速相手に連絡を取ってくれたらしい。
すると、今週末の土曜日の昼からならば時間の都合がつく、とのこと。
そこで土曜日の昼にスタブレにログインして、カッペルの街で渚を含めて三人で顔合わせをすることとなった。
「渚の友達か。あいつもネットで友達とか作ってたんだな」
これまで渚の友達と言えば、大抵は幼馴染の俺も顔くらい知っている相手だったのだが、オンラインゲームでの友達となると全く顔を知らない相手だ。会うのが楽しみだな。
リョーダンくん、フレンド少なくない?




