第二十九話:森の神殿で交通事故
スタブレにレッツログイン。とはいえ今日はテストが近い時期ということもあって、長時間は遊ばない予定。
「……でも、テスト前にもログインしてるあたり、俺もハマったなぁ」
日曜日には渚とテスト勉強の予定が入っている。ゲームにかまけて赤点、夏休みに補習、なんてことにはならないようにしないとな。
さて、今日からは森の神殿の攻略に取り掛かり、メインクエストを進めていく予定だ。
森の神殿――というより、星の遺跡と呼ばれているストーリーダンジョンに共通することらしいのだが――の攻略には謎解きの要素が含まれているらしい。
一応、森の神殿は攻略済みのダンジョンなので、攻略方法もネットを調べれば出てくる。だがそこは流石に楽しみが削がれるので調べていない。
トレットから以前に貰った地図を見れば、森の神殿は恵みの森を抜けたすぐのところにあるらしい。
ということで早速出発。
カッペルの街を出て恵みの森へ。もう相手にならないフォレストドッグを雑に倒し、ボスエリアは避けて進むと、すぐに目的の建物は見つかった。
「これが森の神殿か」
森の神殿は四角い箱のような外見をした建物だった。豆腐建築と言えば、伝わる人には伝わるだろうか。
サイズは野球球場くらいの大きさだろう。苔むした岩と古い丸太が奇妙に組み合わさって作られていて、確かに不思議な建物だ。
何というか、建築様式みたいなものを丸っと無視したようなサイズ感とフォルムで目立っている。
正面にはこれ見よがしに入り口があった。ゴブリンの洞窟は一本道だったし、封土神殿はモンスターが出るようなダンジョンではなかった。ということはこれが初めての本格的なダンジョンアタックになるわけだ。
「さて、初のダンジョンに挑んでみますか」
意気揚々と、俺は森の神殿に足を踏み入れた。
遺跡の中は薄暗いが、明かりが必要になるほどではなかった。以前の反省も踏まえて松明を持ってきたが、この分だと必要なさそうだな。
通路も広くて剣を振るうのに苦はない。
ただ、この森の神殿。十字の通路をいくつもつなげた迷路のような造りになっていて、方向感覚がバグりそう。あ、こっちの道は行き止まりなのか。
封土神殿はもっと見通しが良かったのだが、森の神殿は迷いそうだ。曲がり角が多いのに目印になりそうなものがない。
迷わないように気を付けながら進んでいく。
「モンスターはいないのか?」
と、俺が呟いた途端、その言葉を否定するかの如く、近くでプレイヤーの悲鳴が聞こえた。
「……え、何事?」
モンスターにでも襲われたのだろうか。
確かめようと角を曲がると、さらに奥の曲がり角から勢いよくモンスターが飛び出してきた。
「ギギ……」
「……ロボ?」
現れたのは木で作られた人形だった。両腕がそのまま刃物になっていて、足は木製の車輪だ。全身から木が軋む不気味な音が鳴っている。
首のパーツがぐるぐると三回転したあと、遺跡の警備ロボの顔にはめ込まれた緑の宝石がきらりと妖しく光った。
「ギギギ……!」
両腕を振り回し、足の車輪で俺にめがけて爆走してくる。
「いや、こっわ!?」
道幅の半分ほどの大きさのロボが両腕の刃物を振り回して、俺を切り刻もうとする。なんだこのキリングマシーン!?
ええい、恐れるな!
「新スキルの試し斬りにしてやる!」
ギリギリまで引き付けて横に跳ぶ。突進を回避すれば、刃物ブンブン爆走ロボは一旦停止して、その場で車輪を逆に回して旋回する。
よし、この隙だ。旋回中の警備ロボへ体を向け、スキルを発動。
新スキル、お披露目!
「〈土竜突〉!」
瞬間、地面を蹴った俺の体が前に向かってすさまじい速度で加速した。
モンスターとの間にあった距離を一秒にも満たない時間で踏みつぶし、音も景色も置き去りにして、ただ前へと突撃する。
あまりの速度に俺が驚くほどだ。慌てて腰の居合刀を握り、
「〈抜――」
完全に振り遅れた。鞘から刀を抜くより先に俺の体がロボに体当たり。当然、攻撃判定のないただの体当たりはダメージがなく。
「――と」
無防備な隙を晒した俺の体は警備ロボによって八つ裂きにされた。
「いや、死んだが?」
むくり、とカッペルの街にある冒険者組合の宿で体を起こす。
リスポーンした。死因は交通事故だ。
「いやいやいや……〈土竜突〉、速すぎない?」
速すぎて完全に攻撃タイミングを外した。決して気を抜いていたわけではないのだが、反応速度が追いつかなかった。
あと、発動の瞬間に加速する感覚に勢いがありすぎて気持ち悪い。加速によって大きく視界がブレるうえに、静動の差が激しすぎるので、下手な絶叫マシンよりも酔いそうだ。
「正直、〈瞬歩〉の方も扱いが難しいが……」
同じような効果でステップ移動を行う〈瞬歩〉も急に加速する感覚は似ているのだが、加速のスピードが違うとタイミングを合わせる難易度が跳ね上がる。
「……これは練習が必要だなぁ」
強すぎる力は我が身を滅ぼす、なんて格好つけたいわけじゃないが、制御できなければ強いスキルも無駄だ。俺の反応が追いついていないのに、無闇に使わないほうが良い。
「予定は変更だ。訓練所に立ち寄って練習しなきゃ、このスキルは使い物にならねぇ」
俺はそのままの足で訓練所へ向かい、練習用人形に何度も体当たりをした。
……体当たりにダメージが発生しなくてよかったよ。そうでなきゃ、訓練所の中で何回か死んでいたぞ。




