第二十八話:騒動の予兆
ある程度の予想はできていたのでここは、やはり、というべきなのだろう。
「おはよう、剣一。昨日のスタブレの告知、知ってるかい?」
朝の登校中に合流した渚は、開口一番でそう尋ねてきた。その顔からはわずかな寝不足と、それ以上の興奮がありありと伝わってくる。
……ひょっとして渚のやつ、夜中ずっとスタブレにログインしていたのか?
「あー……どんな告知?」
そういえば、夏休みイベントの正式告知が昨日の夜にされていたはずだったっけ?
「夏イベントの詳細だっけ?」
「イベント告知もそうなんだけれどね。もしかして知らない? スタブレの世界ランクが進行した告知がゲーム内で全体アナウンスされたんだ。昨日から攻略勢を含めて、いろんなプレイヤーが一晩中大盛り上がりさ」
ああ、そっちは心当たりがありすぎる。
俺は気まずさから視線を逸らし、知らないふりをする。
「し、知らなかったな。そもそも、世界ランクとか初めて聞いたし」
「あぁ、それもそうか。剣一はつい最近に始めたばかりだもんね」
すっかり忘れていた、と手を打つ渚。
こういう風に話を振ってやると、説明したがり屋なところがある渚は分かりやすく食いついてくれる。
「世界ランクっていうのは……まぁ、スターブレード・ファンタジーのゲーム全体の進行度みたいなものだと言われているんだ。これまでに二度進行したことがあって、どちらもプレイヤーが初めて星の遺跡の試練をクリアしたときにアナウンスされたんだよ。この世界ランクが進行したことによって沢山のサブクエストや新しいダンジョンが開放されるから、みんな大盛り上がりなんだ」
「へ、へぇ……」
進行した条件が俺が知っている条件と違うなぁ……。
まさか奇跡的に、俺がトレットと重要な話をしている真っ最中に、匿名さんが攻略最前線のダンジョンを突破した、なんて可能性もゼロではないが、ゼロではないと正しいはイコールじゃないんだ。
「だから今回、三回目のアナウンスも新しく追加されたヤマト島で星の遺跡が見つかってクリアされたんだと思ったんだけど、どうやら攻略最前線の人達はまだヤマト島の星の遺跡を見つけられていないんだ。一体誰が世界ランクを進行させたんだろうって、掲示板で噂になっているよ」
「おぉう……」
「誰か分からないけど、自慢してくれてもいいのにね」
「そ、そうだよなー」
渚の話に適当な相槌を打ちながら、俺は内心で冷や汗をかいていた。だが、そんな挙動不審な様子が悪かったらしい。
「……ねぇ、剣一」
「な、何だ?」
「……僕に隠し事してない?」
くるりと俺の前に回り込み、下から顔を見上げてくる。ジト目の丸い瞳が俺を見透かそうとしてきて、俺は思わず目を逸らしてしまった。
「か、隠し事ってなんだよ」
「それは分からないけれど。でも剣一、何か隠し事ややましい事があるとき、いつも僕から目を逸らすよね」
「そんな風に見られたら、目を逸らすくらい普通だろ」
「と、言いながら右耳を触るのも癖だよね」
…………よく見てるなぁ、コイツ。
「幼馴染の僕に隠し事はナシだよ。ほら、キリキリ話して」
「分かった、分かったよ」
詰問体勢の渚に白旗をあげる。降参だ。
「で、何を隠しているんだい?」
「その世界ランク、多分俺が進めました」
とたん、渚の目が大きく見開かれる。
「冗談?」
「いや、ガチ。何か変なクエストで遺跡を見つけてさ。その延長でイベント進めていたら、タイミングよくそんなお知らせが来て」
「たまたまじゃなくて?」
「ヤバそうな称号も貰ったから、多分俺がトリガー。あと、ユニーククエストが発生した」
「ユニーククエスト!?」
大声を出して頭を抱えると、渚はいやいやと首を振った。
「新しいユニーククエスト……あぁ、剣一ってば何をやっているんだ」
「俺に言われても困るが」
「や、無理に聞いてゴメン。まさかスタブレの話題だと思わなくてさ」
「謝るようなことじゃないけど。むしろ俺が何を隠していると思ったんだよ」
「分からないけど、普段みたいに下らないことだと思ったんだよ」
弱ったような渚の様子に首を傾げる。そんなに困られても、俺が逆に気おくれするんだが。
そう伝えると、渚は分かりやすく呆れた。
「あのね、剣一。こういうゲームでの新しい情報って、剣一が思っている以上に重要視する人が多いんだよ」
「そうなのか?」
「他人より先んじたい、というのは自然な心理さ。そのための情報を軽んじる人より、重んじる人の方が多い。所詮はゲームと思うかもしれないけれど、人気あるゲームの攻略に関する貴重な情報はそれそのものが価値だ。現実のお金でリーク情報を買う人だっているくらいさ。特にスタブレのユニーククエストなんて、プレイヤーなら誰もが気になる情報だよ」
渚にそう強く言われると、大事なのかもしれないと思わされるな。
「僕も深くは聞かないけれど、詳しいことはあまり大っぴらにはしないほうが良いと思うな」
「渚は気にならないのか? 俺は別に教えてやっても良いが」
「……………………大丈夫」
すげー葛藤があったな。渚の表情がここまで百面相するところを見られるなんて、珍しいこともあったものだ。
「気にならないと言えば嘘になるけれどね。けど多分、ユニーククエストのことを聞いても、今すぐにどうにかできるものじゃないと思うから」
「おお、正解だ。俺もよく分からないから一回忘れて、先にメインクエスト進めようと思ってる」
「だって、初めて見つかったユニーククエストが未だに攻略の糸口も見つかっていない状態だからね」
そういえば、攻略サイトにもそんなことが書いてあったな。現状で未解決のユニーククエストがあって、攻略が全然前に進んでいないとか。
「もし何か手が必要なら頼ってよ。そのときには僕も一口噛ませて」
「ああ、俺の手に負えないと思ったら遠慮なく頼らせてもらうよ」
頼りがいのある幼馴染みで何よりだよ。
渚ちゃんは他人から頼られると嬉しくなるタイプ




