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剣しか勝たんVRMMO  作者: 雉里ほろろ
第二章:土竜と竜と遺跡と宝石、世界は星のみに非ず
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第二十七話:トレットに相談だ


 気が付くと地上に転送された俺。ちなみに、地上に転送された位置は封土神殿が地下にあった山の麓だった。

 もう一度調査のために封土神殿に行っても良いのだが、武器の耐久が残っていない上に無くしたくないレアアイテムも所持しているので、歩いてカラム村へ帰って一度ログアウト。




 そして翌日。俺はカラム村から西風の平原を抜け、カッペルの街まで戻ってきた。

 カッペルの街まで戻ってきたのは、地下に眠っていた謎の遺跡『封土神殿』のことを有識者に相談するためだ。

 ここでいう有識者とは、ストーリーダンジョンの森の神殿について教えてくれた考古学者のNPC、トレットのこと。

 地下神殿に光る宝石、謎の壁画と石板、柱の文字など尋ねたいことは山ほどある。


「何かが出土したら持ってこい、とか言っていたからな」


 森の神殿ではなく封土神殿で手に入ったものだが、まぁ大丈夫だろう。もしかしたら何かイベントが起きるかもしれないし。

 メインクエストからは外れているが、今更だ。

 封土神殿で手に入った謎の石板を持って、図書館を訪れる。


「お、いたいた。トレットさーん」


 トレットは変わらず図書館の受付で本を読んでいた。


「おお? なんじゃ冒険者殿か。何用かね?」

「実は遺跡で珍しいものを見つけて、トレットさんに見てもらいたいんだ」

「ふむ、なるほど。どれどれ、一体どんなものを見つけたのじゃ?」


 俺はインベントリを開いて石板を取り出し、トレットに手渡した。


「この石板だ。何か文字が書いてあるんだが、読めなくて」


 俺から石板を受け取ったトレットは「どれどれ……」と石板の文字を確かめ――突然表情を変えた。


「……お主、これをどこで?」

「山の下に埋まっていた地下遺跡」


 正直に伝えると、トレットは周囲を見回して声を潜めた。


「……この石板について詳しい話がしたい。奥の部屋まで来てくれぬか」


 おっと、重要イベントの予感。






 トレットに案内され図書館の奥の部屋に通される。どうやらトレットの私室らしく、小難しそうな本が沢山詰まった本棚が並んでいた。

 ソファを勧められたので座ると、トレットがお茶を入れてくれた。ありがたく頂こう。


「さて、詳しい話を聞きたいのじゃが」


 ちゃんと美味しいVR紅茶の味に驚いていると、俺の向かいに座ったトレットが真剣な表情で口を開いた。


「この石板を君はどこで手に入れた?」

「山の地下にあった謎の遺跡」

「念のために確認するが、これは君が捏造のために作ったものではないな?」

「そんな手の込んだことしねぇよ」

「そうじゃろうな。石板の劣化には長い年月特有のものがある。よほど腕の良い細工師でもないかぎり、考古学者の儂の目は欺けぬ」


 分かっていたのならわざわざ確認するなよ。


「何だ、わざわざ部屋を変えて内緒話だなんて、そんなに凄いことがその石板に書いてあったのか?」


 俺がそう尋ねると、トレットは表情を険しくした。

 本当にただ事ではなさそうだが。


「そうではないが……君の持ってきた石板は、とんでもない代物じゃな」

「そう勿体ぶられると、ますます興味が湧くよ。どんな内容が書かれていたんだ?」

「読めぬ」


 ……は?


「おい、何だって?」

「儂にはこの石板の文字が読めぬ、と言ったのじゃ」


 おいおい、何だそれ。


「じゃあ何の意味もなくないか?」

「いいや、読めないことに意味がある」

「新しい発見は学者として喜ばしい、みたいな話だったら不要だぞ?」


 俺が目を細めて睨むと、トレットは手を振って否定した。


「そうではない。そもそも、君は古代文字についてどれほど知っておる?」

「古代文字? 悪い、さっぱりだ」


 石板の文字がさっぱり読めないのはゲーム内のオリジナル言語だからだと思っていたが、そういうわけではないのか?


「大雑把に分別すれば、儂らが日常的に使っている言葉が現代文字、そしてかつて使われていた言葉が古代文字じゃ。古い遺跡から出土する文献などは、たいていが古代文字で書かれている。じゃがの、古代文字はあくまでも古い時代に使われていた言葉じゃ。年月の中で多くの文字が崩れたり置き換わったりして、言葉の形や意味が変化しておるが、それでも現代文字と共通する意味の言葉もあるし、時代によって文字の崩れかたの傾向もある。そしてその傾向に則り文字を読み替えることで、儂らは古文書などを解読しておる」

「話が見えないけど、何が言いたいんだ?」

「断言しよう。君が持ってきたこの石板に書かれておる文字は、古代文字ではない。全く別の言語じゃ」

「つまり?」

「これが子供のいたずらでないのなら、儂ら星の子以外に文字を理解する存在が、この世界に存在する、ということじゃよ」


 ――条件を達成し、世界ランクが進行しました。

 ――一部のクエストが開放されました。

 ――称号「星の裏側の発見者」を獲得しました。

 ――『ユニーククエスト:封土結界』が発生しました。


 突然、目の前にシステムウィンドウが浮かび上がった。

 そのうち、前二つのメッセージカテゴリは、運営からの全体アナウンスだった。

 すなわち今のアナウンスは俺だけではなく、他のプレイヤーにも送られたということ。

 そして手に入った謎の称号と、発生したユニーククエスト。


 ……あっ、何かヤバめのトリガーを引いた気がするぞぉ!?


 VRゲームでは発生しない冷や汗を精神的にかいているのを他所に、トレットは真剣な表情で話を続ける。


「この石板以外に、何か手がかりになりそうなものはあったかね?」


 情報量に殴られて一瞬の放心状態にあった俺は、トレットから話を向けられて慌てて答える。


「……あっ、あー、うん。遺跡の柱に文字が書いてあったよ。あとは壁画かな」

「ほう、文字と壁画。どのような壁画じゃった?」

「解釈が違っているかもしれないんだが、モグラが星を相手に戦っている壁画だった」

「モグラ?」

「ソードディグって言うモンスターだよ」

「モンスターが……文字と壁画、それに地下の建造物。文明足り得る知性があるとみて間違いなさそうじゃが……文字はこの石板のものと同じじゃったか?」

「いや、似た文字もあったと思うけど、一部は俺にも読めたんだ」

「……君にも読める文字があった? 遺跡の柱に現代文字が混じっておるじゃと? 誰か既に人間が手を加えた可能性……?」


 おっと、トレットさんが思考の沼に入ってしまった。

 俺も動揺した心を落ち着かせるために紅茶をもう一口。クッキーも食べよう。

 しばらく唸っているトレットさんを眺めていると、思考の沼から帰ってきた。


「いやしかし……おお、すまない、思考が逸れてしまったようじゃ。質問の続きを。その柱にはどのような文字が書いてあったのじゃ?」

「文章としては読めない部分が多かったから、単語だけになるけれど、多かったのは『封土』『獣』『星』『決壊』とかだな」

「『決壊』……とな?」


 お、トレットはそこに食いつくのか。


「『決壊』って言葉に、何か心当たりが?」


 俺が問うと、トレットは立ち上がり、近くの本棚から一冊の本を持ってきた。随分と古そうな本だ。


「心当たり、というには馬鹿げた仮説なのじゃが……『決壊』という言葉と君が見てきたという神殿。この言葉に繋がりがあるとすれば、これくらいしか儂には心当たりがない」


 本のページをめくりながら、トレットが語る。


「『星喰獣の伝説』を知っておるか?」


 また知らない単語が出てきた。知らないよ、ちゃんと公式ホームページに書いておいてくれないと。

 星喰獣。言葉の響きからして強そうだけど。


「悪い、知らないな」

「まぁ、これは知らずとも無理はない。儂もこの逸話を伝説と呼ぶのには証拠が少なすぎて抵抗があるのでな。では、『予言者メタ』の話は知っておるか?」

「そっちも知らない。教えてくれ」

「予言者メタは今から500年ほど前にいたと言われる人物じゃ。彼の者を称える伝承がいくつも残っておる」

「昔の偉人ってことか?」

「そうじゃ。予言者メタは過去や未来を見通す眼を持っていたと言われる。メタはその類い稀なる力によって数々の困難を乗り越え、ついには大星に認められて天に昇ったそうじゃ」

「うぇ、じゃあそのメタって人は星の遺跡を見つけて攻略したってことなのか?」

「そう言い伝えられておる。各地を旅して試練を乗り越えた、と」


 てっきりプレイヤーだけの話かと思っていたのだが、NPCキャラでも星の遺跡に挑戦してクリアした人物がいるんだな。


「そんな予言者メタには関連した逸話がいくつも残っておるのじゃが、その一つにこのようなものがある。予言者メタが最後に残した予言の言葉に関する逸話じゃ」


 トレットは本のページを開き、重々しい声で読み上げる。



「『世界は滅ぶ、七体の獣によって。獄炎、流水、決壊、霧消、暴風、凍結、雷鳴。この名を冠する獣、やがて星を喰らう。これ、星喰獣』」



「滅ぶ、とはまた物騒な……」

「荒唐無稽な終末論と言ってしまえばそれまでのもの。現に、今日まで世界は滅んでおらぬしの。この逸話以外に、星喰獣の証拠となり得る手がかりは何も見つかっていない。故に、後世の人間がメタの逸話を補強するために付け加えた創作という説が主流じゃ。じゃが、君が見てきた遺跡と、そこに刻まれていた『決壊』という言葉と壁画。共通項を見出さずにはいられない」

「その肝心の『決壊』ってのは、具体的には何なんだ?」

「分からぬ。じゃが、逸話の通りであるならば、世界を滅ぼすほどの強大な怪物のことを示唆しておるのやもしれぬ。遺跡をさらに調査するのであれば、心して覚えておいてほしい」

「わ、わかった」






 トレットが言うには、「混乱を起こさないためにも、一度この話は秘密にしたい」とのことだ。

 俺はただ頷くしかなく、もし『封土神殿』で何か新しいことが分かったらすぐに知らせてほしい、とだけ言われて見送られた。


「絶対にやばいトリガー引いたよなぁ」


 メニュー画面を開き、現在発生中のクエストの項目を確認する。

 『メインクエスト:森の神殿を調査せよ』と『サブクエスト:モグモグ百匹組手・皆伝編』に並ぶ、『ユニーククエスト:封土結界』の文字。


「見間違いじゃないんだよなぁ……」


 何度見てもユニーククエストの文字に間違いはない。

 そして俺の頭の中に嫌な仮説が立っている。


「『決壊』と『結界』ねぇ……」


 言葉遊びだ。これ、どう考えても星喰獣と関係してるよな。

 確か、もう一つ発見されている未解決ユニーククエストのクエスト名が『ユニーククエスト:雲散無生』だったはず。

 普通に熟語で書くなら雲散霧消になる。そしてトレットが言っていた七体の星喰獣のうちの一つ、『霧消』。

 ユニーククエストというのは、運営の発表によると、『特定のモンスターに関係するクエスト』だという。


「これ、絶対に星喰獣と関連するクエストだよなぁ」


 どう考えてもボスエネミーです、本当にありがとうございました。

 ウィンドウをタップして、クエスト目標の項目を確認してみる。


「『封土神殿の深淵の結界を解放する』……アバウトすぎないか?」


 ユニーククエストと名乗るだけあって、クリアのためのヒントがない。

 深淵とか言われても、封土神殿をサラッと見て回った時にはそんな場所はなかった。強いて言えば、脱出するときの謎の装置が怪しいくらい。結界にも見覚えがないし、具体的な解除方法も知らない。

 他に何か進展があるとするなら、可能性としては『モグモグ百匹組手・皆伝編』をクリアすることだろうか。他には貴重なアイテムやクエストのトリガーになるイベントがあるとか?


「ううん、分からん。とりあえず、一度忘れてメインストーリーを進めようかな……」


 現実逃避と言うことなかれ、次に始まる夏イベント前に第二の街であるニール港へ行くと渚に約束しているんだ。

 それにモグラ百匹を倒したことにより大きくレベルがあがり、メインクエストで本来向かうべきだった『森の神殿』の適正レベルは大きく超えてしまっているのだ。

 クリアできるダンジョンは早めにクリアしに行こう。


「とはいえ、今日は一度ログアウトしておくかぁ」


 何だかんだでカラム村からの移動とトレットとの長話で、時間が経っている。

 続きはまた明日以降だな。


重要なクエストが発生した模様

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