第十八話:試し切りの時間だぁ!
休日返上でスターブレード・ファンタジーに入り浸っていた俺ではあるが、リアルでの身分はまだ高校生だ。
七月の初旬。今日も朝から日差しが強くて暑い。
もう一か月もしないうちに夏休みだが、それはつまり期末テストの時期も間近ってことだ。具体的には来週。学校をサボるわけにはいかない。
制服に袖を通して学校に向かう。すると登校中に渚と出会った。
「おはよう、渚」
「ああ、おはよう剣一」
隣に並ばれたので、ついつい見下ろしてしまう。綺麗な黒髪とつむじがばっちり見える。
「……何だい、剣一。僕の頭に何かついてる?」
寝ぐせは直したよ、と渚。
「いや、向こうだと銀髪だったからつい、な」
「流石に現実でも銀髪に染めるつもりはないよ」
「染めたらびっくりするな」
渚がグレたと思う。
「まぁ、現実とは違う見た目で遊べるのもVRゲームの良いところだからね」
確かに。渚のことをとやかく言っている俺もアバターの方だと茶髪に染めてみたし。
「流石に身長は弄らせてもらえなかったけどな」
現実と同じように体を動かすフルダイブ式VRでは、アバターの肉体と現実での肉体に大きな差異があると脳が体の動かし方を誤認して、アバターがちゃんと動かせないどころか下手をすると現実でも混乱が生じてしまうらしい。
だからアバターの顔や髪は編集できても、身長や手足の長さの編集は制限されているのだ。これはスターブレード・ファンタジーに限らずどのフルダイブ型VRゲームでも同じ。
「身長が小さいと、リーチが短くて不利なんだよね」
「身長に不満を抱く理由がもう戦闘民族だぞ、それ」
そんな風に会話を交わしていると、突然渚がくすくすと小さく笑いだした。
「どうした?」
「いや、剣一の口からVRゲームの話題が出てくるのが新鮮でね。随分と楽しんでくれているみたいで、勧めた側としても嬉しいよ」
「あー……」
何か、妙に照れくさくなる。
「確かに楽しんでいるよ。土日は二日とも長時間ログインしてたし。しばらくは俺もスタブレにのめりこむかも」
「ふふ、良かった。早くレベルを上げてよ? そうしたら僕と一緒にダンジョン攻略しよう」
「ああ、すぐに追いついてやるよ」
「あ、でも期末テストも気を抜いちゃダメだからね。テストは来週なんだよ?」
「……今回もテスト対策お願いしていいか、渚」
「ふふ、僕に任せて。今週末は一緒に勉強会しようね」
渚のやつ、頭が良いだけじゃなくて教え方も上手いんだよなぁ。テスト前にはよくお世話になっている。
その後も俺たちは学校へ向かいながら、スターブレード・ファンタジーについての雑談を交わした。
さて、今日の学校も終わり、家に帰った俺は早速スターブレード・ファンタジーにログインした。
一日経ったので依頼していた武器や防具が完成しているだろう。
鍛冶屋と防具屋をまわって完成品を受け取りに行く。
「よう、おっちゃん。頼んでた武器を受け取りにきたぜ」
「おう、待ってたぞ――おん? お前さん、随分と厳つい兜を被ってやがるな。昨日はそんなもの被っていなかっただろうに」
「良いだろ? おっちゃんの弟に作ってもらったんだぜ」
フェイスガード付きの鉄兜の面を上にあげ、素顔をおっちゃんに見せる。依頼通りツノの飾りがついた厳ついヘルムだぜ。
「頼んでいた剣は?」
「コイツだ」
おっちゃんから二振りの剣を受け取る。片方は旅立ちの日本刀をそのまま強化した『旅立ちの日本刀・改』だ。
こっちは見た目は変わっていないが、攻撃力と耐久値が少し上昇している。
そしてもう一振りは、
「『土竜刀』だ。お前さんが持ち込んだ金属を使って打ち直したぞ」
モグラのドロップアイテムで作ってもらった新しい武器、居合刀の『土竜刀』だ。
焦茶色の鞘に収まった刀を抜く。
元は刃こぼれしていた剣とは思えないほど綺麗な刀身だ。持ってみると、旅立ちの日本刀よりも少しだけ刀身が薄く、軽い気がする。
元々幅広の西洋剣の形状だったものが何故か刀に生まれ変わっていることには深く突っ込まなくてもいいだろう。ゲームだしな。
「良い剣だ……」
「おっ、わかってくれるかお前さん。鍛冶屋として鼻が高いよ」
刀剣の良し悪しなんて分からないから適当に言っているだけだ、深く気にしないでほしい。
よし、試し斬りに行こう。
ということでやってきたのは昨日も来た西風の平原。
冒険者組合から受けられる、モンスター討伐系のサブクエストをいくつか受けてきた。お金と経験値を稼がなきゃ。
平原を歩いているとカクジカに遭遇した。数は一体、ちょうど良いな。
「いざ初陣!」
腰に佩いた『土竜刀』の初陣。柄に手を添えて構える。
俺に気が付いたカクジカもツノを振り上げて戦闘態勢に入った。
居合刀は鞘に刀を収めている間に所有者の気をチャージして威力を上げる変わった武器だ。
それ故にギリギリまで刀を抜かないことが重要になる。これまで使っていた日本刀とは戦い方のクセが異なる。
カクジカがその立派なツノを振りかぶって突進してくる。
俺も鉄兜のツノ飾りを突き付けるよう、背中を屈めて前傾姿勢。
よく見ろ、動きは真っすぐだ。ツノの動きに気を付ければ――。
「――見切った!」
直前で一歩横に躱し、同時に居合刀系統の初期スキル〈抜刀〉を発動。
鞘から抜かれた刀身がカクジカの胴体を深く切り裂く。
チャージしていた分だけの高威力な一撃。重たい手ごたえ。
刀を振り切り、すぐにもう一つの初期スキル〈納刀〉を発動。
刀を鞘に戻す動作は抜く動作よりも何倍も難しい。ましてや忙しない戦闘中には中々上手くいかない。それを補助してくれるのがこの〈納刀〉だ。
STを消費して半自動で体を動かし剣を鞘に戻してくれる、ありがたいスキルである。
システムアシストを受けながら刀を鞘に戻す。リチャージ開始だ。
痛撃を受けたカクジカは怯みながらも、反転してツノを振り回す。
そこで俺は思わず刀を抜いてガードしてしまったのだが……。
「あ、やべっ!?」
うっかり刀を鞘から抜いてしまったので、チャージがリセットされてしまった。
「あれ、この武器ひょっとしてガードできない!?」
防御のために剣を使うとダメだ、チャージがリセットされてしまうので防御の後の攻撃に転じられない。
つまり、敵の攻撃は全部避けろと。
牽制のつもりでチャージしないまま一撃当ててみたが、手ごたえなし。カクジカは攻撃を気にせずツノでついてくる。
抜刀したままだと全然ダメージ出てないな、これ!
再度〈納刀〉して大きく後ろに下がる。
「チャージに時間がかかるな……」
スキルを強化していけば、このチャージ時間も短縮されるのだろうか?
戦闘の初撃は非戦闘時のチャージ分で大ダメージを与えられるが、次のチャージを待っている間はひたすらに避けるしかない。
次の突進。横に避ける。反転してツノで引っかけようとしてくるので回避。また後ろに下がって距離を取る。
何だか闘牛でもしている気分だ。
そうしてしばらく避けていると……。
「よし、チャージ完了!」
突進をことごとく回避され、興奮状態のカクジカは大きくツノを振り回し突進。
でも今度は避けるだけじゃないぜ。新スキルも使っていく。
歩行系統アクティブスキル〈瞬歩〉を発動。
AGIにボーナス補正を受け、短い距離を素早くステップ移動する、回避にも攻撃にも使えそうな便利スキルだ。
前に向けてスキルの効果で加速。突進と正面衝突する瞬間に――。
「――〈抜刀〉!」
斬撃一閃。突進に合わせ踏み込んだ速度を武器に、斜めにすくいあげるような軌道で喉笛を切り裂く。
弱点部位に当てたことによるクリティカルヒット。
上げたDEXと居合刀の高いクリティカル倍率、そしてフルチャージの絶大な威力、これらが凶悪な係数で掛け合わされた特大ダメージ。
気持ちのいい、会心の手ごたえだ。
カクジカは首を刎ねられ、ポリゴンとなって砕け散った。
「ふっ、斬り捨て御免」
戦闘終了。『土竜刀』の初陣の感想は……。
「クセが凄いな……」
大体、フルチャージまで三十秒くらいか?
ここまで来ると通常攻撃がもはやリキャストタイムつきの攻撃スキルみたいな感覚になる。
「でも良いな、これ……!」
攻撃間隔が長いがその分だけ威力は折り紙付きだ。
絶対に最後の攻撃、オーバーキルだったし。
チャージ攻撃にクリティカルが発生すればとんでもない威力になるな。
日本刀より攻撃間隔が長い分、その一撃をどれだけ高められるかが重要になる。
あとは状況に合わせて半分チャージでも攻撃する、みたいな使い分けが大事だな。むしろ半分チャージ連打でも強いかもしれない。
一対多には向かないかもしれないが、一対一、それもボスみたいな大物相手だとこの高威力攻撃は有用そうな気がする。
そして何より格好いい。クリティカルの手ごたえが気持ちいい。
「……見つけたぜ、俺の相棒」
この剣、格好いい。使う理由はそれだけで十分なのかもしれない。
DEX戦士を志す俺の新たな相棒、居合刀。
これからはこの居合刀をメインで使っていこう。
「とはいえもっと練習が必要だな、これは」
特に攻撃を外すとリチャージが必要になるから、小さい敵や素早い敵にもちゃんと攻撃を当てる練習が必要だ。
小さい敵……素早い敵……。
「……あっ」
モグラだ。
「おーい、モグラやーい」
平原を歩き回りながらモグラどもを探してみる。
あのモグラのロケット突撃は厄介極まりないが、今までに出会った中で最速の攻撃を繰り出してくるモグラは、練習相手としては最適だ。
アレを迎撃できれば他の素早い敵でも応戦できるようになれるはず。
「うーん、いないな……」
アーちゃんが大量に引き連れてきたから、割と簡単に会えると思っていたんだがなぁ。
この広い草原だ。なかなか思ったように出会えない。
まぁいいか。モグラでなくても練習相手にはなる。
道中で出くわしたゴブリンの群れを辻斬りし、同じくレベル上げ中だったプレイヤーに軽く手を振って挨拶しながら草原をどんどん西に進む。
そういえば、前に来た時はここまで遠くには来なかったな。
あの時は目的地がゴブリンの巣穴だったから、そこまで遠出ではなかった。
インベントリから地図を取り出して現在地を確認してみる。
「このまま進むと大きな川に行きつくのか」
水生のモンスターとかいるのかな? 気になるところだ。
地図によると西風の平原を流れる大きな川沿いに一つ、カラムという村があるようだ。とりあえずそこを目指してみるか。
居合……?
ともかく新しい武器を獲得したリョーダンです。
次話は2/13に更新予定です。




