(8)帰還
続けるよう促す気配があってから、星羅が答えた。
「光羽くんのを・・・使わせてもらえば、どうかしら」
「・・・・・・そのようなことを、いや、出来るやも知れぬ」
「やってみるわ。光羽くん、手を貸してもらえるかしら」
すでに傍観者と化していた悠斗は突然話を振られて慌てた。
「あ、ああ。か、かまわないよ」
星羅が軽くうなずいて、悠斗の手をとった。左手に悠斗の手を載せ、さらに右手をかぶせるように置いた。
「じゃあ」
そういうと、ゆっくりと目を伏せた星羅は、包む手に力をこめた。それと同時に、内側から何かを削り足られるような感覚が悠斗を襲った。
「わ!」
思わず身を引いた悠斗に、はっとした星羅が、慌てて声をかけた。
「あ!ごめんなさい・・・」
「ふむ、力を宿しているとはいえ、所詮覚醒前の身。無理はいかん、やりようによってはただではすまなくなることも考えられる」
「そうね、私、なんてことを・・・」
「い、いや俺は大丈夫だから」
冷や汗を流しつつも、場の流れを変える。
しばらくたってから、星羅が立ち上がり、
「もうそろそろ回復したと思う。光羽くん、みてて。なかなかきれいだから」
「きれいなどと・・・そのようなことを言うものではないぞ」
「分かってるって。心配しないで」
軽く笑ってから、おもむろに手を握りこみ、ゆっくりと開いた。そこに現れたのは、またしても瑠璃色の光球。しかし、前の強すぎる輝きではない、包み込むような優しい光だった。
「確認」
口の中にこもるようなつぶやきとともに、光球を掲げる。
数秒後、光が水滴のように揺れた。それを見るや、
「補修」
指示を受けた光球は、いったん凝縮し、はじけるように微小なそれに分解し四方へと散った。
光が触れた場所からビデオの巻き戻しのように修復されていく。何も無かったかのように、すべて元通りに。
それも終わったと見え、
「接合」
言うや天球を仰いだ星羅に習い、悠斗も空を見上げた。
パリン。
乾いた音が聞こえたような気がした。
いや、それは気のせいでしかなかったが、実際、のっぺりとした灰色の空は、ガラスにひびが入ったような亀裂を走らせていた。天頂部分から、徐々に崩壊していく空。
破片となった空の一部は、落下の途中で火の粉と化し、地面へ到達することは無い。
ふと、あたりを見ると、商店街を形作る店々も上部から、火の粉となり消滅していく。
ついに、悠斗の足元までが淡い光を放ちつつ、すべて消えうせた。
「―――っ!」
唐突に放りなげられたかのような感覚がして、次に爆音が耳を劈いた。
やがて耳が慣れてくるとそれが商店街の喧騒であることに気が付いた。
無音の世界に長くいたための反動だ。
異空間(とりあえずそう呼ぶことにした)が消滅したのと同時に、そこに存在が許されなくなり、元の世界に放り出されたらしい。
自分でも驚くほど落ち着いていた。
あれだけの体験をすれば、発狂してもおかしくは無い。少女の言葉が耳の奥によみがえった。
―――覚醒前のフシリアに出会えるなんて・・・こんなことあるのかしら―――
(あれはおそらく俺のことについての話だ。フシリアってなんだ、覚醒だと・・・)
無意識に星羅の姿を探す自分を自覚して、しかしやめなかった。
動き続ける人の波の中に目を凝らしたが、結局その日、星羅と悠斗が顔をあわせることは無かった。
遅くなりました、申し訳ありません。
かなり長くなりましたので二話に分けての投稿といたしました。
本業のほうはあいもかわらず多忙を極めており、暇を縫っての投稿ですが
よろしければお付き合いください。




