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(9)トラブル




そこまで回想したところで、ドアがノックされ、遅れて妹の声がした。

 「お兄様、そこにおられますか?」

 わずかに不安が聞き取れる声に、ふと時計を確認した。十五分近くたっている。

 鋭く息を吐くだし、ベットから起き上がりつつ答える。

 「ああ、もう少ししたら降りるから。何なら先に朝食をとっていてもかまわないよ」

 「はい」

 これは、先の答えのい対しての相槌であって、優紀乃が兄を置いて先に食べ始めることなど決してしない。そのことは悠斗も百も承知なので、急いで準備した。

 一通り準備を済ませ、リビングへ降りると、案の定優紀乃は、いまだ湯気を立てる食事を並べるテーブルではなく。その隣室、リビングと一続きになっているダイニングのほうで読書をしていた。

 兄が来たことに気が付くや、本から顔を上げ、テーブルへと急いだ。

 悠斗もいすに腰掛け、

 「すまない。待たせてしまったな」

 「いえ、わたくしはかまいませんが、どうかなされたのですか?」

 「・・・少し考え事をしていただけだ」

 一瞬答えに詰まったが、不自然には聞こえないほどにうまく受け流す。普通の人なら気が付くはずも無いが、さすがに妹の目はごまかせなかったらしい。

 が、優紀乃は聡い。詰まった、ということはあまり話したくないことなのだ、それを理解し、それ以上の追求はしてこなかった。それどころか、無為な沈黙を作ることさえしない。

 「今日から、一緒に登校できますね」

 今までの流れを完全に切り替えた。

 「そうだ、お前はあまり三葉・・のことを気にするな。お前がどうしようと親父なんかが口出しすることは出来ないはずだ」

 「いえ、しかしそれではお兄様が・・・」

 文章に突然挟まれた漢字を、兄の意図に違えず変換して、それでも肯定を返すことなど、いや、だからこそ安易に首肯できない。

 「俺は気にしてないから。こうなることは生まれたときから決まっていたことだ。覚悟くらいとうにできている」

 「でも―――」

 「ありがとう。でもこれだけは言っておく。俺が光羽であることと、お前が光羽であることの意味はまったく違うんだ」

 「・・・・・・」

 「お前は俺とちがって聡い子だからな。そのくらいは心得ているだろう」

 「・・・はい」

 「せっかくお前が作ってくれた料理が冷めてはもったいない」

 そういうと悠斗は箸を取り、食べ始めた。優紀乃もそれに習う。

 「そういえば、帰りもお兄様とご一緒していいでしょうか?」

 「それはかまわないが、お前を待たせることにならないか?」

 「いえ、それならお気になさらないでください。三校の図書館に読みたい書物がたくさんありますので」

 「そうか、なら授業が終わり次第図書室に迎えに行くから」 

 「はい」

 

 

   ☆★☆★☆★☆

 

 

 というのが一週間前のこと。ちなみに星羅のことは意識的に避けている。

 その日の朝教室に入ったときには、すでに星羅の周りは女子生徒らで埋め尽くされていて、たいした口実もなしに話しかけられる雰囲気ではなかった。結局それからこの状態が続いている。

 

 

 三校の最寄駅であり、また都心部からはかなり距離があるにもかかわらず有力各線がホームを並べる駅。その駅前広場から伸びる大通りの一角を悠斗は歩いていた。

 時刻は二時半を少し過ぎたところ、この時刻でしかも平日ではさすがに人影は少ない。

 ではなぜ悠斗はこんな場所にいるのか、別にサボりなどといった類のものではない。単に学校が午後の一時限をもって終了しただけだ。

 毎月、第三水曜日は職員会議に当てられているため、午後の授業は一時間だけなのだ。

 普通の生徒なら、長い放課後を活用し部活動にいそしむところだが、あいにく悠斗は帰宅部である。(三校は文武両道を目指しているから、ほとんどの生徒が運動部系に入部している)

 その横に肩を並べる優紀乃は今週の初めに生徒会役員へ呼び出し、勧誘をされ、その日のうちに前年度卒業生の空き枠に入れられた。優紀乃は首席入学者である、あるいみ予想済みな出来事ではあったが、本来なら書紀にでもなるところを、テストの成績が考慮され、会計担当となった。

 なかなか忙しい仕事らしいが、今日はかなり貴重なオフをいただいている。

  

 

 「優紀乃、今日はどこに―――」

 行きたい、と続けようとしたとき、男の怒鳴り声が当たりに響いた。

 前方に目を向けると、数本先の街路樹の下に柄の悪い男が群がっている。よく見ると彼らはの中心に少女がいた。

 一秒にも満たない観察の中で、状況を掴む。

 (恐喝か)

 三校生には資産家の子供が多く含まれている。生徒たりともかなりの金額を所持している。

 悠斗にわずか遅れて状況を察した優紀乃の次の行動を予測し、手をかざすことで牽制する。前に出ようとした動きを止められ、いささか不機嫌そうな気配が伝わってきたが、あえて無視する。

 かばんから携帯電話を取り出しすばやく連絡を入れた。場所は二つ、警察と学校。双方から了解の返答をもらい、携帯電話をかばんにしまいながら次の行動に考えをめぐらす。

 その時、男たちの背後にあるコンビにから大袋を抱えた客が出てきた。それと数歩後ろに下がった一人の男がぶつかり、男の方がふらついた。

 「てめぇ、前を良く見て歩け!」

 「ぶつかってきたのはあなた」

 そこで気がついた。客が星羅であったことに。

 静かながら、明らかに不機嫌な口調と、一週間前のできごとを思い出して、悠斗は頭の中でため息をついた。 

   







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