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(5)予期せぬ来訪者-2-

これは実際の個人、団体、地名その他の固有名詞とは一切関係まりません。

つまるところフィクションです。





 チャイムの音とともに教室の騒々しさが一変、がたがたと椅子を引く音や、机が床をこする音が教室を満たす。

 それが鳴り止まぬうちに前のドアが開き、今年の担任と思わしき人物が入ってくる。一通り自分の自己紹介を終えると、一度扉の向こうに消え、再び戻ってきた。同行者を伴って・・・・・・・

 教室中にざわめきが走った。

 「静かに。今日から新たに本高の生徒として一緒に勉強する、篠枝さんだ」

 ざわめきかその意味あいと大きさを変える。

 「それじゃあ、篠枝さん。簡単に自己紹介してくれるかい」

 転校生の少女がはい、と軽く答えて一歩前に出ると教室は一度に静かになった。

 「イギリスから来ました、篠枝星羅しのえせいらです。分からないことも多いと思いますがこれからよろしくお願いします」

 そこでようやく気がついたのだが、少女の身長はせいぜい150cmを軽く超える程度だ。小柄と称して問題ない。ではなぜ今になってようやく気が付いたのか。

 それはそんな体躯を存在感が打ち消していたからだ。

 どう表現すべきか、とにかくその存在感は常識の範囲からは明らかに遺脱していた。

 腰まで届こうかという下ろした髪は、墨を流したような深い黒。サイドを長く伸ばした前髪が縁取る顔はかなり大人びていて落ち着いた雰囲気があり、微笑むとそれがより引き立つ。

 アンバランスさがあるがそれさえも美と表現させてしまう何かがある。

 (・・・・)

 わずかな違和感を感じる。

 (どこかであったような・・・)

 「それじゃあ篠枝さん、光羽の隣の席が空いてるから、当面はそこに座りなさい」

 クラス中の、男女からそれぞれ意味合いの異なる視線を受けたが、それはあえて無視する。

 席に付いた星羅が、

 「朝はありがとう、おかげで助かったわ」

 といったことで、ようやく思いいたる。

 (あ、朝の!)

 今は背中にたゆたう黒髪は、朝一つにまとめられていたのだ。そのせいで気が付くのが遅れたらしい。それにしても、髪型一つでここまで印象が変わるのか、と疑問を持たずにはいられない。

 ただ、その思考を声に乗せなかったことについては、意識せず悠斗に幸いしていた。

 もしこれ以上の関係が(というほどのものではないが、他から視れば関係の程度などどうでもいい)両者の間に存在することが分かれば男子から送られてくる視線がただの羨望でなくなることは明らかだ。

 「これからよろしくね」

 星羅のほうもそれを感じてか、小さな声で挨拶する。


 小さいが、よく響く声で。


 (――――――――っ!)

 なぜか、衝撃が悠斗をつらぬいた。いや、理由は分かる。感じたのだ、この響きを知っていると。

 さっき会ったから、というのは理由にならない。もっと昔かから、それこそ生まれたときから知っているような、非常に不自然な、知識とも呼べない、記憶の残滓。そこに何かが触れたような、そんな感じだった。

 外から見れば、星羅美貌に悠斗が絶句している、という構図に見えなくも無いので、男子からの視線は鋭いものに変わっていく。

 しかし、悠斗も星羅もそのことにはまるで気がつかない。悠斗はともかく、星羅のほうも、悠斗の反応にかなり驚いていたのだ。

 もちろん、悠斗も含めてそのわずかな表情の変化に気がついたものはいなかった。

 「どうしかした?篠枝さん」

 担任―――吉岡というらしい―――の声で、ようやく教室の時間が動き出す。

 星羅が席に着いたのを確認すると、吉岡は連絡事項を述べていく。が、それが悠斗の意識に届くことは無かった。



   ☆★☆★☆★☆



 「・・・い、おい。おいってば!」

 はっとして顔を上げると、他生徒はすでに一時限目の準備を始めている。

 「悠斗、大丈夫か?」

 珍しく軽さのあまり無い口調で問われ、自分の状況を改めて把握する。

 あの後、自分の中に生まれた矛盾を正当化しようと、記憶の中を探っていたのが、そのうち意識のほうが思考の渦に飲み込まれてしまったようだ。

 そこまで集中して考えていたような記憶は無いが、状況からみてそういうことなのだろう。

 まあ、当然といえばそうだ、知らないはずなのに、知っている。不自然だが、普通に考えれば、何かの勘違いか、またはとっさに思い出せなかっただけ、と納得することが出来なくは無い。

 しかし今回の悠斗の場合そうは行かなかった。記憶力にはそれなりの自信があったし、第一こんな珍しい名前を間違えるはずはない。

 ただし、再び考えても堂々巡りを繰り返すだけなのだ。何かの勘違いだろう、と思い直し、

 「すまない、大丈夫だ」

 いつもと変わらない口調で答えると、連も表情を変えた。周りの生徒はすでに準備を終えて席についている者が大半だ。

 今日は変則授業だから、一応確認を入れる。

 「一時限目は国語か?」

 「そうだ、確か小テストがあったな。春季休業中の課題の中から出るはずだが」

 「・・・なぜそれを早く言わない?」

 「お前のことだから、言わなくても別に準備くらい出来てるだろう、と・・・」

 尻すぼみに消えていく言葉と反比例して、驚きと焦りの表情が際立っていく連に、生ぬるい視線を向ける。(普通ならここは笑って馬鹿に出来るような場面ではあるが、この学校はそうは行かない。小テストとはいえ、赤点を取れば夏休み明けには、さらに下のクラスに配属されることになるのだ。)

 そうすることも数秒、チャイムが鳴った。

 ため息をつき、その場の空気を緩める。それで、金縛りでも解けたかのように、二人は同時にロッカーへ駆け出した。



   ☆★☆★☆★☆



 競うようにロッカーへ教科書類を取りにい行った二人が、滑り込みで席に着くのと同時に教科担任が入ってくる。ギリギリ間に合ったらしい。

 ふと気になって、左へ目線だけを流すと、星羅はどこか思案げな表情で顔をうつむけている。

 どうしたのだろう、と考える暇も無く号令がかかったから深く考えることは出来なかったが、悠斗がもう少し落ち着いて観察していたなら、星羅の視線がほんの一瞬だけ自分を捕らえたことに気が付いただろう。

 国語科教師が、小テストのプリントを配り始めている。補助教材にざっと目を通して机の中にしまうのと同時にプリントが回って来た。時間は長めに取る代わりに、もらったらすぐ初めていいことになっている。今脳に刻んだことが薄れないうちに、と急いで回答に取り掛かった。


 テスト対策はまったくしていなかったが、幸運にも春季休業中に予習しておいたところがメインで出題されていたので、赤点は免れることが出来そうだ。

 一つ気になったのが、テストの存在すら教えられていなかった星羅の筆が、まったく淀むことなく、回答を記していたことだ。

 実際に見たわけではなく、シャーシンが机を叩く音だけから判断したものだが、おそらく事実と相違ないように思える。

 やはり転入できるだけの実力はあるようだ。

 だがここで再び疑念が湧き上がる。

 (なんでEクラスなんだ?)

 やはり謎の多い少女である。という評価に間違いは無いようだ。




 やっと出てきてくれましたよ星羅ちゃん。

 今回はやや長い話でした。たいへんだった;;

 更新何とかやっておりますが、結構厳しいです。これからもこのペースでいけるか・・・ただ、なんとかめどが立ってきておりますので、それまでは、二日に一回更新よりペースを落とさないようにがんばりたいとおもいます!

 

 これからもよろしくお願いいたします。

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