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(3)その前に

本作は、実際の名前、地名その他の固有名詞とは一切関係ありません。

つまるところフィクションです。

会場に着くと、保護者席はすでにだいぶ埋まっていた。

 (もう少し速く来るべきだったか?)

 とも思ったが、連れがいないことが幸いして、それなりにいい場所を見つけることが出来た。

 式が始まってしばらくして「新入生代表の言葉」が始まった。不覚にも、台上に上がった妹に思わず見とれてしまった。

 別に、悠斗がシスコンというわけではない。その証拠に悠斗以外の人も優紀乃に見とれている。


 優紀乃は神に愛されすぎている。と時々思うことがある。容姿端麗、冷静沈着、頭脳明晰、おまけに性格も良いと来てる。いったいこれ以上何を望むというのだろうか。(兄から言わせてもらえば、もう少し自己保身術を高めてほしいところだが)

 今の、堂々としていながらも、気品を感じさせる立ち姿だって、文句の付けようのないものだ。――その気品の出所を知っているものはいないだろうし、それを思い出して気分を害したのも恐らく悠斗だけだろう――

 そんなことを考えていたから、

 「―――――――っ!」

 思わず叫びそうになったのを、ギリギリのところで押しとどめた。思わず力のこもった手の中に硬い感触がして、録画しようとしていたこと(当然優紀乃には内緒で)を思い出したのだ。声には出さずとも心の中では目いっぱい叫んではいたが。

 (しまった!準備まではしてたのに、肝心なところでこれじゃ…)

 自虐的になりかけたところで、何とか思考に停止命令を出す。

 (いいんだ、俺がちゃんと見てたんだから)

 降壇する優紀乃を、見つめながらそう思うことにした。



 ☆★☆★☆★☆



 講堂を出ると、広場には既に数十名に新入生がいた。ざっと目を通したが、優紀乃の影は見当たらない。なおも昇降口から出てくる生徒に目を凝らすが、優紀乃が現れる様子はなかった。

 講堂前広場にあふれていた人だかりもだいぶ引いた頃、自分に向かって走ってくる人影を認め、体ごと振り返った。

 「お兄様、お待たせして申し訳ありません」

 「かまわないよ。それより『新入生の言葉』よく出来ていたよ」

 「そんな、すごく緊張してしまって・・・」

 「嘘だろう、お前に限ってそんなことはないさ」

 言いながら、優紀乃の肩に舞い降りた桜の花弁を払ってやる。

 言葉にか、行為にか、恥ずかしげにうつむく妹をみて、なにか顔を赤くするようなことを言ったかな、と思いつつも話題を変える。

 「ところで、今までどこにいたんだい?ずいぶんかかっていたようだけれど」

 「あ、その話がまだでした。式が終わった後職員室で明日の対面式についての話をしていたんです。それで新入生代表として原稿の依頼を受けたのですが・・・」

 目で問いかけてくる妹に、苦笑を交えつつ、

 「そんなことまで俺に聞く必要はないよ」

 「・・・はい」

 返答にわずかな時間を要したが、そこについてはふれない。あくまで優しく、諭すように告げる。

 「お前ももう高校生なんだ。・・・それに、公の場であんまりそういうこと・・・・・・を表に出すのはよくない」

 ぼかしすぎたか、とも思ったが聡い妹はそれだけで理解してくれたようだ。今度は間を空けずに同意してくれた。

 「じゃあ、行っておいで。俺はこの広場のどこかにいるから」

 うなずきで返すと、再び校舎へ駆けていった。



   ☆★☆★☆★☆



 最寄の駅からは若干離れている三校だが、登下校時刻は五分おきにスクールバスが出ているので問題ない。

 とはいえ、普段は利用者の無いお昼ごろのバスはさすがにその限りではない。

 だいぶバス停で待たされたが、代わりに兄妹以外誰もいないバスの中で、二人は思いのほかくつろぐ事が出来た。

 「お昼はどこがいい?」

 「わたくしは、どこでもかまいませんよ?」

 「今日は特別だ。お前が決めてくれ」

 レストランに制服姿で入るのには若干抵抗を感じていたが、一旦家に帰る時間的余裕はなかったため、迷う必要はない。それに、妹のために今日は何かご馳走するつもりでいたのだ。

 「そう、ですか・・・ではお言葉に甘えて。駅の近くに最近出来たレストランがあるんです。そこでよろしいですか?」

 「ああ、ただ俺は場所を知らないからお前が案内してくれるかい?」

 「ええ」

 花が咲くように微笑む妹に、これが妹でなければ迷わず恋人にしていただろうな。などと考える悠斗だった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆



 平日の割りに込み合った、席の中に蓮の姿を見つけたのはウエイトレスが注文をとりに来てからしばらくしたときだった。

 「よお」

 ほとんど同じタイミングで向こうも悠斗に気がついたらしい。悠斗が声をかけるより先に挨拶してきた。かるく手を挙げてかえす。

 「あれ、始業式は午後からだよな」

 「そうだが?」

 「それにしちゃ早くないか?」

 お前はどうなるんだ、と聞き返そうとしたとき妙に泳ぎがちな蓮の視線の先に、優紀乃がいることに気がついて言わんとしていることの大体のいみを取ることが出来た。

 笑いをこらえるように言う。

 「すまんな、俺の読みが間違ってなければお前の想像は間違ってるよ」

 「え、じゃあ彼女じゃないのか?」

 やっぱりそうなってるのか。

 「俺の妹だよ。今年三校に入学する。優紀乃、こいつは去年同じクラスだった相田蓮だ」

 「はじめまして。光羽みつば優紀乃です、よろしくおねがいします」

 「お、ああ。よろしく」

 優紀乃の美貌と、改まった挨拶にたじろぐ蓮の顔は心なしか赤みがかっている。

 自分の笑顔がどれほど異性に影響を及ぼすかを、いまいち分かっていない妹の危うさを感じて、蓮に釘をさす。(あくまで優紀乃ではなく蓮に)

 「お前には高嶺の花だ」

 「はあ!な、なんだよ。いくらなんでも本人の前で言うのはないだろ!」

面白いように反応してくれた蓮を、手で牽制して蓮の席に料理が来たことを教えてやると、そそくさと戻っていった。


 




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