38話 身震いする発見/Thrilling Discovery
広大で奇妙な森に突如巻き起こる、これまた奇怪な光。
紫、橙、翠、蒼から成る四色の極光の出現は、こことは違う場所からの異邦人の訪れを意味する。
行き来する手段を持つ者にとっては近所のコンビニに行く感覚であり、持たざる者にとってはある意味、宇宙の果てよりも行くことが困難であろう彼方の場所である、異世界。
渦巻く光が収束すると共に、四人の少年少女と一人の幼い少女が姿を現した。
「────。みんな見てみろ、無事成功したようだぞ」
夜永春斗はうっすら目を空け、眼前の光景を見て口を開いた。
その視線の先には、見覚えのある鈍い藍色の巨大な石──霊晶石が鎮座している。
「やった⋯⋯! これで異世界探索の幅が広がるよね!」
牧夏海も右手の魔剣を握りしめ、笑顔を浮かべる。
異世界転移の際、狙った場所にリスポーン地点として出られるかどうかの検証は上手くいった。
昨日の転移時は、この森を漠然とイメージすることで見知らぬ地点とはいえ転移自体はできたので、より明確な目印を四人全員で共有することで任意の地点に出られるという蓋然性が高い試みではあった。
「ある意味、ここがオレらの『はじまりの場所』だよなー。まだ一昨日だってのに、なんかもう懐かしいわ」
「それだけ⋯⋯濃い時間だった⋯⋯って、ことだよね」
和泉秋大と小山内冬華も、どこか感慨深い気持ちでワニ頭のクマのボスが遺した大霊晶石や、気を失ったハルを避難させた巨木の太枝に視線を動かした。
ハルは魔剣を持った手と反対側の腰元にぎゅっとしがみついている少女に首を落とす。
「フレン、体は大丈夫か? もし辛いなら無理するなよ」
「うん⋯⋯へいき、あっ」
気怠げにハルから身を離したフレンはよろめくと、すかさず動いたハルに身体を支えられる。
「えへ〜、ありがとうハル」
支えられた腕を掴みながら、フレン頬をうっすらと染めて嬉しそうに微笑む。そんな二人の様子を、ナツとフユは怪訝な顔を見やっていた。
「ねえフユ。朝も思ってたんだけどさ、ハルとフレンってなんかすっごい仲良くなってる気しない⋯⋯?」
「気のせいじゃ⋯⋯ない、と思う。心が縮まってる⋯⋯。夜に何か、あったのかな?」
「あたしたちが寝たあと色々話してたんでしょ? でもそれにしたってねえ⋯⋯」
「フレン、明らかに⋯⋯ハルのこと、好きっぽいよね。小さい女の子だから⋯⋯歳上男子に憧れるの⋯⋯わかるけど」
「ハルもフレンにはすっごい優しいし。うー、昨日の夜ホントは二人でなにしてたの? って聞きたいよー」
「ハル⋯⋯なんか、複雑⋯⋯」
「あー、そうそう! そういえばよっ!」
ヒソヒソと話す女子二人の隣で、妙な空気にならないようアキがわざとらしく声を張り上げた。
「ほら、フレンって昨日オレらと日本に一緒に転移した時、起きたばっかなのにまた気を失ってたよな。でも今日はちゃんと起きてられてたみたいだぜ!」
「ああ。ただ、かろうじて気を失ってないだけで、その影響はあるらしい」
女子がハルにヘソを曲げないよう気を逸らすアキの発言だったが、それでも重要な気付きでもあり、ナツとフユもそれに同調した。
「やっぱり⋯⋯転移って、すごく負担が、かかるのかも⋯⋯」
「あたしたちはそこまででもないのにね? 魔剣のエネルギーを使った感じがするぐらいで」
「でもオレらだって、一番最初の転移ん時はみんな気を失ったぜ。慣れもあんじゃね?」
「それもあるかもな。俺たちは魔剣のお陰で、転移の負荷に耐えられてるのは確かだろう⋯⋯それより」
ハルはゆっくりとフレンを地面に立たせると、右手に持った《楽園と冥府の剣》を逆手に持ち替え、その長く黒い魔刃を地面にざっくり突き立てた。額を柄にぴたりと当て、目を瞑り意識を剣に集中する。
「ハル? どうしたの?」
「シッ⋯⋯何かがこっちに近付いてきてる⋯⋯そんな気がしたんだ。魔獣か? 人か?」
「まさか⋯⋯エオルギス⋯⋯?」
「でも、あのすっごいプレッシャーみたいなのは感じないよ?」
「つーかハル、お前いつの間にそんなセンサー感知みてえなことできるようになったん?」
「不思議とできる気がした。魔剣使いとしてレベルアップしたのかもな。⋯⋯やっぱり気のせいじゃない。何か来るぞ」
ハルは魔剣の先端を引き抜くと、フレンを庇うように前に出て構える。それに倣い、ナツ、アキ、フユもフレンを取り囲むように四方に警戒を向けた。
「同じ森でもここは昨日とは離れたエリアだ。気配的にエオルギスの可能性は低いとはいえ、油断するなよ」
「へっ、上等だ。普通のモンスターならむしろ絶好の経験値チャンスじゃねえか。叩っ斬ってやろうぜ」
「ハルって何気に一番多く魔剣使ってるよね。じゃああたしたちも経験積んでレベルアップしたら、色んなことできるようになるのかな?」
「うん⋯⋯。前にハルが撃った、黒い衝撃波みたいな⋯⋯特殊な技とかだね⋯⋯。《真実と欺瞞の剣》で、できること⋯⋯か」
「⋯⋯あれ、まってみんな」
「え? ちょ、ちょっとフレン!?」
四人で周囲の警戒を敷く中、囲まれたフレンはハルとナツが立つ間をするりと抜けると、前方の木々を凝視した。
するとその先から──。
「ふ、フレン!? フレンじゃないか! 無事だったんだな!」
フレンの視線の先。そこから、二人組の男性が姿を現した。
ここに来てようやく、フレン以外の異世界人との邂逅だった。




