37話 明日への探索/Search for Tomorrow
日曜日の午前十時。
三度目、あるいは意志ある選択としては二度目となる、異世界への挑戦。
夜永春斗、牧夏海、和泉秋大、小山内冬華の、特別な魔剣に選ばれし四人。そして昨日、やむを得ず異世界から四人と異世界転移によって日本に帯同したフレン。
五人は朝食や準備もそこそこに、例の廃工場跡の空き地にやってきていた。
「ここから、イセカイにいくの?」
フユから貰ったお下がりの服に、こちらの世界でナチュラルな緑髪で外に出ては目立つからと、これまたフユが持参した茶色の丸いベレー帽を頭にかぶったフレンが、重要な土地である更地をきょろきょろ見回す。
昨日異世界からこちらに転移した際、フレンは意識がない状態だったため今日がそれの初見だった。
「ああ。と言っても、俺たちも異世界に行くのはこれで三回目だ。まだまだわからないことばかりだけどな」
「なんだかんだでもう三回目かー、ってな感じだぜオレは。⋯⋯あ、そういやよ」
ハルにそう言うと、アキはふと思いついた疑問を口にする。
「異世界転移、よくよく考えてみりゃ、『ここ』でやる必要ってあんのか? あくまで四人の意志と魔剣の力のシンクロだろ? 転移に必要なのって」
「それについては未検証だな。いつでもどこでもそれが問題なく可能だった場合、異世界に行く度にわざわざここに足を運ぶ必要はない。誰にも知られずにって意味なら、それこそ一人暮らしの俺の家でやるのがベストだ。ただそれは──」
「うん⋯⋯やめたほうが、いいかも」
リスクを懸念するハルの説明を、隣のフユが引き継いだ。
「ほら、あの作業着の女の人からの⋯⋯『手紙』だよ。異世界に行く時は⋯⋯ここを、使いなさいって⋯⋯書かれてた。あれが、アドバイスなのか、そうしないと、都合が悪いからかは⋯⋯わからないけど」
「そういうことだ。昨日も話したが、この空き地は見た目にはわからない外部との認識が遮断された空間らしい。魔法的な処置か何かでな。それがこっちの世界と異世界を安定して行き来できる仕組みを担ってるパターンも考えられる」
「ま、わざわざメッセージに書き残してるくらいだしな。あんなホラーじみた脅しに従わないといけねえってトコは気に食わねえけど、そこはしゃーないか」
「⋯⋯あれ? そのメッセージで思い出したんだけどさ」
ナツが空き地の隅に置かれていた看板を指差し、最初に見つけた時と状況が変わっていることを指摘した。
「あの手紙、なくなってるよね。ほら、空き地の真ん中に落ちてた看板に貼り付けられてたはずなのに」
「オレたちが異世界に行ってる間にでも、作業着女が回収したんじゃね? もうオレたちに読ませたし」
「あ⋯⋯まだ、そのこと⋯⋯二人に、言ってなかったっけ」
「そうだったな。あの手紙を回収したのは俺だ」
「へ?」
ナツとアキはまたしても『作業着の女』の仕業を疑ったが、それに関してはそうではないことをハルとフユは答えた。
「昨日異世界に行く前、準備してからもう一度ここに集まろうと解散しただろ? あの時、アキとナツはダッシュで帰ったが、俺とフユはしばらく残ったんだ。『手紙』をどうするかの話でな」
「⋯⋯手紙と、それを貼ってた、セロテープ。黒幕に繋がる、手がかりになるかな⋯⋯って。筆跡とか、指紋とかね?」
「あーなるほど。文字のパターンやらセロテープの指紋やら調べんのか。警察の鑑識みてえだな。で、なんかわかったのか?」
「いや、流石にこんなことで足がつく手がかりを残すほどマヌケじゃないらしい。指紋なんかは特に見られなかったし、筆跡もそれだけじゃ誰が書いたかなんて判別しようがない」
「素人じゃ⋯⋯限界あるから。一応⋯⋯証拠品として、保管しとこうって⋯⋯ハルに、持って帰ってもらったの」
「そっかあ⋯⋯。確かに今のとこあの女の人に繋がるものって、この空き地と、あの手紙くらいだもんねー」
「それも手がかりとしちゃ弱過ぎるわな。結局んとこ、これからも地道に異世界探索を続けて追っかけるしかねえってこった」
四人が異世界に行くことになった、もしくは行かなければならない理由である『謎の作業着の女性』の追跡。
なぜか四人が異世界から手を引くことを決して許さない脅迫と執着を書き記されたメッセージにより、日常と非日常を行き来することになった。
しかし、脅されて嫌々だからではない。自らの意思と意志で、異世界を存分に謳歌し、黒幕を追うと四人は誓ったのだ。
そんな意気込みを抱いたはいいが、黒幕に関連する情報は皆無に等しい。
判明していることは、せいぜい人々の認識を改竄できるほどの巨大な力を有している──それもあくまで推測だが──ことくらいで、正体、目的、自分達との関係、その他一切が不明だ。
「──ねえねえ、みんながイセカイに行くのって、だれかを探すためなの?」
自分達の置かれている状況や一番の本命について再認識するそんな中、この件に蚊帳の外であるフレンが四人に質問した。
「あっ、ごめんごめん。またフレンを置き去りにしたまま話しちゃったね。うん、そうなんだ。あたしたちね、今話してた人を探すために異世界に通ってるの」
「へー、どんな人なの?」
「えーっと、多分女の人⋯⋯だよね?」
「なんでそこ疑問形なんだよ⋯⋯。オレらが工場で会った時は女だったろうが」
「あ⋯⋯でも、存在しない工場を、『ある』と認識させてた⋯⋯っていうことを考えると⋯⋯そうとも限らない⋯⋯かも?」
「げっ!? そこまで認識改変とやらでなんでもアリにされちゃマジでどうしようもねえぞ」
「そうだな。それでも実際に会った時は推定二十代の女性だったことと、手紙に『お姉さん』と書かれてたことを考えるなら、女だっていう前提で追うしかない。それと──」
せっかくだから、とハルは余談ついでに今の話題について以前の発言について振り返ってみることに。
「この話が出たついでだ。昨日フレンを一か八かで連れて日本に帰ってきた時、フレンと言語が通じてることの話をしただろ?」
「ハルの家で話したことだよね。詳しい仕組みはわかんないけど魔剣にそういう翻訳機能があるかもって」
「エオルギスと戦って⋯⋯無事に帰ってこれた直後にも、一度したよ⋯⋯あっ! ハル、もしかして⋯⋯」
その時のやり取りを思い出したフユは、話の流れでハルが何を言おうとしているのかの察しが付いた。
「その時も⋯⋯魔剣の力のおかげって、理由にはなったけど、確か⋯⋯『もうひとつ心当たりがある』って、言ってたね⋯⋯」
「ああ。なぜ『異世界人と言語が通じるか?』の、もうひとつの可能性⋯⋯それが今まさに話してた『認識改変』によるものかもしれないってことだ」
昨日ハルが言いかけていた、もうひとつの可能性については、予想がついたフユ以外の二人を大変驚かせるものだった。
特殊な力を主にもたらす四本の魔剣。魔剣士としての理外の超越化や異世界転移を行う鍵の役割など、もはや現代科学では説明のつけようがない代物。自動翻訳機能もそれの一環だろうと安易に結論付けていたのだが──。
「⋯⋯ってことは、これもあの女の仕業っつーことか!? 幽霊が出る工場の認識やらウワサに飽き足らず」
「あ、でも言われてみればそっちもあるかも⋯⋯!」
納得がいく理由に強く頷きながら、ナツは言葉を続ける。
「だってあの人、どういう事情なのかはわかんないけど、あたしたちに異世界に来させることにやたら固執してたじゃん! 脅迫みたいなメッセージでさ!」
「うん⋯⋯。だから異世界での活動に、支障が出ないように⋯⋯そういうことをやってても、おかしくないよね⋯⋯」
「そうだ。学校の生徒たちが噂していた『幽霊が出る工場』だって、本来なら知るはずがない情報だ。そして俺たちもまんまと術中に嵌っていたクチだ。そういう要領で『異世界人とやり取りできる』って認知も植え込まれていたとしてもおかしくないんじゃないか⋯⋯って思ったんだよ。──フレン」
「ほぇ?」
またしても何の話かまるでついて行けずにいたフレンは、突然ハルに名指しされて呆けた生返事を漏らした。
「フレンにとってはちんぷんかんぷんな話ばかりですまないな。さっき言った俺たちが探してる誰かっていうのは、今話してた女のことなんだ」
「えっと⋯⋯なんとなく、そんな気はしてたよ」
「まずないと思うんだが、一応聞いておきたいんだ。ここ最近、怪しい女を見たりしなかったか?」
昨夜の『デート』で、フレンは記憶が曖昧で、なぜか時折様子がおかしくなることなど、自分で自分がよくわからないとハルに話してくれた。
その記憶障害めいた不調について、『作業着の女』の認識改変が関わっている可能性自体は極めて低い。
なぜならフレンは、偶然の行きずりで出会っただけの現地人に過ぎず、流石にそこまであの女のコントロールが介在しているとは考え辛いし考えたくもない。
仮に関わっていたとしても、その記憶を残しておくわけがない上、そもそも不特定多数の認識改変に関わっているということは、それをするために直接相手と接触する必要もないはずなのだ。
つまりこの質問は確認と言いつつほぼ意味のないものであり、案の定、フレンは身に覚えがない様子でふるふると首を振る。
「ぜんぜん知らない。さいきん新しく知り合ったのって、ハルとナツとアキとフユだけだもん」
「そうか。それならいいんだ」
結局のところ昨日皆で話した通り、なぜ異世界人と言語が通じるかはどうでもいい。魔剣に自動翻訳機能があるのか、作業着の女による認識改変なのか。それを解き明かすことに大した意味はない。
いつまでもここでダラダラと話し続けても仕方ないと、アキが提案する。
「そりゃいきなしビンゴにゃならねえだろ。つーかいい加減そろそろ異世界行かね? フレンの『村』を探すんだろ」
「あの大っきい霊晶石を『ブックマーク』にして、そこに飛ぶんだよね! 上手くいくかドキドキだね!」
「あの時は⋯⋯全然気づかなかったけど、その近くに、フレンの村が⋯⋯ある⋯⋯!」
「ああ、今日中に見つけないとな、行こう。フレンもいいな?」
「⋯⋯。うん」
昨日の夜中、ハルにフレンが話してくれたことについては、今朝の朝食の際に皆と共有した。二人きりで夜の散歩をしていた部分だけナツとフユには内緒し、少しばかり訝しがられたが、二人が寝た後にフレンが起きてきて少しだけ話したとアキが神フォローしたことで自然に収めることができた。
フユが念のための確認として、スマートフォンで撮影した霊晶石の画像を表示し、より確実に脳内でイメージできるように全員に見せる。
そして──。
「Elvandhar──!!」
「Manastherious──!!」
「Bhelstyleg──!!」
「Trinsrayme──!!」
ハル、ナツ、アキ、フユの四人は、今や愛剣を召喚するお馴染みとなった専用コードを叫び、眩い四色の極光と共に魔剣を顕現させた。
異世界ファンタジー物ですが、バトルよりもディスカッションの比重が高いですね。
ちなみに頭脳担当のハルとフユは、
・ハルが推理力に長けている。
・フユは幅広い知識に精通している。
といった役割で(一応)分けております。




