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ディア・フォー・シーズンズ 〜魔剣のマスターに選ばれし春夏秋冬カルテットが往く、異世界剣聞録(見聞録)〜  作者: 鹿島ジュン
第二章︰You Must Be Made of Something Wonderful

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30話 点と点を繋ぐ/Connecting the Dots

前話(29話)とセットでどうぞ。




 牧夏海と小山内冬華の二人は、今日宿泊する夜永春斗のマンションに特別な「客人」を皆で連れて帰ったすぐ後、小山内家に足を運ぶことに。

 その理由は二つ。

 フユが異世界に持っていくために用意した過剰な荷物を持ち帰ることと、異世界からやむを得ず連れてきてしまった年端のいかない少女が着られる服を取りに帰ることだ。

 異世界の森でなぜか眠った状態で発見された少女。敷物もなく土草の地面で雑に寝転がっていたせいか衣服は汚れが目立ち、そのままでは忍びないとナツが言い出し、それなら丁度昔の服が残っているとフユが言った。


 フユの自宅である一軒家は、ハルのマンションから比較的近いお陰で、早歩きで十分もかからない内に到着した。

 フユは慣れた手つきで鍵を差し込み、ドアを開く。


「ただいま⋯⋯。きょうは今の時間、誰もいないけど⋯⋯一時間くらいで、帰ってくるかも。早めに、済ませよ⋯⋯?」


「おっけー、お邪魔しまーす」


 フユとナツは玄関を通り、そのまま階段を上がってフユの自室に直行する。

 今は幸いにも両親は不在だが、見つかったら「ハルの家に泊まるのでは?」と要らぬ追及を受けても説明が面倒なので、帰宅するまでに家を出たいところだ。


 フユの部屋は難しい専門書や啓蒙本、文庫サイズの小説や漫画に至るまで、とにかくジャンルを問わず本が多い。それだけではなく、デスクトップ型のPCとノートPCの置かれたデスクに、ゲームソフトが詰めこまれた棚など、散らかってはいないが雑多なインドア派の部屋といった様相だ。


 この部屋にはそこそこの頻度で来るナツは、今更部屋に対して気にすることなく、フユの目を見た。


「昔の服って、自分の部屋に仕舞ってるの?」


「ううん⋯⋯。こっちだよ。行こ」


 ドサリ、と大型リュックを自室の床に降ろすと、フユとナツは自室の向かいの空き部屋に入った。

 こちらにも大量の本類を始め、分解した機械の部品やエクササイズ道具など、明らかに「不要な物」「飽きた物」を放りこむ用途の部屋であることが見て取れる。ナツも昔、ここにかくれんぼで足を踏み入れたことがあった。


「うんと⋯⋯あ、あった⋯⋯」


 フユはクローゼットを開け放つと、ローラーの付いたプラケースをゴロゴロと引っ張り出し、中身を取り出す。


「たぶん背丈は⋯⋯小五くらいの私と、一緒くらいだから⋯⋯これで、いけると思う」


「おー、いいね。新品みたいに綺麗。⋯⋯あれ? あたしフユがこれ着てるの見たことないかも。もしかしてホントに新品?」


「これね⋯⋯親戚に、プレゼントしてもらったんだけど⋯⋯一度試しに、袖通ししただけで、全然着なくて⋯⋯」


「気に入らなかった?」


「ううん⋯⋯逆。むしろ汚れたり、しわくちゃになるのが嫌で、それで勿体ぶってたら、サイズ⋯⋯合わなくなっちゃった」


 昔を思い出し苦笑しながらフユは、今朝の登山用リュックではなく手軽な旅行バッグにそれを詰める。

 そうして再びフユの自室に戻ると、床に放り出したままの登山用リュックの中身を選定する作業に入った。


「無事に取り返せてよかったよねー。アキとハルが頑張ってくれたお陰だよ。まさかの『座薬の時間だコラァ!』でブッスリ行くのは笑っちゃった」


「うん⋯⋯特にアキは、空中戦、すごかったね。オチはアキらしいけど⋯⋯」


「あはは! だってアキだもん! ハルみたくカッコよくは決まらないよー」


 フユの荷物を奪った怪鳥を撃墜した一幕を振り返る二人。

 本人に聞かれたら「やかましいわっ!」と声を荒げるであろう談笑をしながら、二人で荷物を整理する。

 備えあれば憂いなしとはいえ、二つの世界を能動的な意志で行き来できる立場であることを考えると、大量の大荷物はアドバンテージ的に適さないという理由だ。そしてそれは今日、モンスターに目を付けられて奪われるという形で裏目に出てしまった。


「でもビックリだよねー」


 物資をがちゃがちゃと弄り回しながら、ナツは続ける。


「あの森ってすっごい広いんでしょ? あのドロボー鳥がテキトーにこのリュック放った先に『あの子』がいたんだよ。これも災い転じて⋯⋯っていうやつなのかな」


 ナツの言葉を受け止めたフユは、作業の手を止める。


「⋯⋯。そう、だね。偶然⋯⋯うん⋯⋯偶然だよね」


「フユ?」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


「おーい、フーユーちゃーん」


「⋯⋯ナツ」


 虚空を見つめながら急に黙り込んだフユは、揺れる眼差しを再びナツの顔に向けた。


「偶然と言えば⋯⋯間違いなく、そう。でも⋯⋯もし、偶然じゃない必然が、あるとしたら⋯⋯どれが、どこまでなのか⋯⋯」


「えーっと⋯⋯よくわかんないけど、偶然じゃない必然っていうのは、『あの子』との出会いのこと?」


 コクン、と頷くフユ。


「んー、でもさ、出会いが偶然じゃないっていうの、少なくともあたしたちの異世界での行動を考えたら、あり得なくない?」


 しかしナツとて、フユやハルほどの頭脳派に比べるのは流石に酷ではあるものの、感覚派というだけで考えるという行為が大の苦手というわけでもない。

 ナツは今日の異世界活動について事細かく振り返る。


「ほら、今日異世界に転移してから、そんな経ってないタイミングで、あの鳥モンスターが集団で襲ってきたよね」


「みんなで、ハイジャンプを⋯⋯試してた、時だね」


「そうそう。それをみんなで倒して、隠れて生き残った一匹が、フユのリュック盗んで空に逃げて。それを撃ち落として、リュックが落ちた先を目指したら『あの子』がいたんだよ? むしろ、偶然じゃなきゃおかしいって感じるけど」


「うん⋯⋯。そこは、間違いなく⋯⋯偶然だよ。私たちが取った行動と⋯⋯その結果、あの子に辿り着いたことは、関係ない⋯⋯と、思う⋯⋯」


「? えっと、じゃあフユが言ってるのって?」


 フユが何に対して引っ掛かっているのか、ナツが改めて尋ねると、フユはじっと瞳を見つめる。


「⋯⋯ナツは、覚えてる? あの大きな白いオオカミ⋯⋯エオルギスって言う⋯⋯らしいけど」


「もちろん。ていうか、異世界から帰った直後にその話したじゃん。⋯⋯そう言えはあの子と日本語が通じてた理由も、まだわかんないままだね」


「そうだけど、今はそれはいいかな⋯⋯。私が言いたいのは⋯⋯あの子、『固有名詞』として、エオルギスっていう、単語を出したこと⋯⋯」


「エオルギスって名前が出た理由が、個人的に知ってたからなのか、あの世界のみんなが知ってるレベルで超有名だからなのか、わかんないってこと?」


「そうだね。それに、エオルギス⋯⋯なぜか、何度もあの子に、向かっていこうとした⋯⋯」


 あの戦闘では、エオルギスが眠る少女に飛び掛かろうとし、その度にそれを四人がかりで阻止していた。あんな神獣めいた超常存在が、年端もいかない幼い少女に何の用があるというのか。両者の繋がりがわからない以上、素通りを許すわけにもいかなかった。


「あれって、あの子を襲おうとしてたんじゃなく、『別の理由』があったってことなのかな? んーでも⋯⋯」


「⋯⋯ごめん。私も、自分から言い出して、何だけど⋯⋯考えが上手くまとまらない⋯⋯。不自然な点は、まだいくつもあるし。ハルとアキも交えて、話すべき⋯⋯だね」


 フユは頭を横に揺らし、気を取り直して作業を再開した。

 荷物を簡易的に纏め上げると、なるべく家族が帰宅するより前に小山内家を出たいこともあって、二人は入り口に向かう。

 ハルのマンションに向かう途中、コンビニに立ち寄り、冷凍食品、お菓子、デザートなどを適当に購入し、マンションへ。


「──ねえフユ、さっきの続きなんだけど」


 エレベーターで9階のボタンを押し、ナツは隣のフユに視線を流す。


「まだどういう子かも、どういう事情を抱えてるかも、何もわかんないけどさ、少なくとも『こっち』で匿ってる間は、不安がらせてあげないようにしてあげよ?」


 ナツは裏表のない優しい表情で微笑んだ。


「ほら、昨日のあたしたちと同じような立場だよ。起きたら未知の異世界にいました⋯⋯っていうね。きっとわけわかんなくて、怖くて、不安だと思うんだ」


 ナツの少女に対する思い遣りのある言葉を受けて一瞬目を丸くするも、フユも同感だと微笑み返して頷いた。


「⋯⋯うん。気になる点はあるけど、それはそれ⋯⋯だね」


「でしょ? たとえ成り行きでもさ、『あたしたちの意志』で動いて、関わったんだもん。エオルギスと戦ったのも、日本(こっち)に連れてきたのも。だからさ⋯⋯」


「最後まで、責任⋯⋯負わなきゃね」


 ナツとフユは互いに顔を見合わせ、気高き魔剣に選ばれし者としての高潔な覚悟を改めて認識する。

 エレベーターから降り、ナツはハルの家のドアノブに手をかけた。


「チッチッチッチッ⋯⋯ほら、出てこい。ツナ缶あるぞ」


「だからネコかっつーの!」


 男子二人が異世界人という名の迷い猫を気の抜けるおふざけで対応していた時、玄関のドアが開かれた。


「ただいまー! あの子あれからどう⋯⋯なにしてんの?」

「⋯⋯あれ? あの子は⋯⋯?」


 手提げカバンやビニール袋を手にして戻ってきたナツとフユが、ソファーを取り囲むようにして立つ男二人に怪訝な視線を送った。




ラストで表と裏、男子サイドと女子サイド二つの視点が合流する構成でした。

29話と30話のザッピング、上手くできたかな?

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― 新着の感想 ―
前話のラストと今回のラストが繋がってるのね 女子サイドと男子サイドが最後にキレイに繋がって「おー」ってなったよ
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