23話 答えの要求/Demand Answers
ついにこの時が⋯⋯!
ちょっと難しいお話かもしれませんがご容赦を。
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──異世界と日本の往復について──
①放課後や休日の学校生活の合間を使い、異世界に転移。ペースは各人の体調やスケジュール等を織り込んで取り決める。
②異世界滞在時の主な活動方針は、異世界や魔剣に関わる『謎の女性』の情報収集を主軸とし、異世界の独自のルール、文化、生態、資源といった見識を広めていく。
③転移は四人の全会一致時のみ(四人で魔剣を使わなければ行くことも戻ることもできないため)。
④万が一を考慮し、異世界での活動は安全を第一に確保する
⑤日本での日常生活時、魔剣や異世界に関する情報は秘匿厳守(異世界側での現地人に対する情報出しはケースバイケース)。
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「ん⋯⋯まずは、こんなものかな?」
「フユ、なにやってんだ? こっちじゃほとんどのネット繋ぐ系のアプリは使えねえんだろ?」
異形の怪鳥の戦闘の折、奪われたフユのリュックが飛ばされた方向へと四人が深い森を移動する中、アキは最後尾を歩くフユに話しかける。
フユは自身の荷物の行方を気にしつつも、スマートフォンを素早い手付きでタップしながら三人に付いて行っていた。
「ん⋯⋯ただのメモ機能だよ。一応、自衛のための、『防衛マニュアル』⋯⋯かな? こっちにいるときは、送信できないから⋯⋯日本に帰ったら、みんなに送信するね」
「ふーん、なんか特殊部隊みてえだな。どれどれ⋯⋯。いや、なんつーか、分かりきってるっつーか⋯⋯今さら感あるぜ」
画面を覗き込んだアキは、熱心にスマホ画面をタップしていた理由に呆れ気味に言うが、フユの表情はどこまでも真剣だった。
「でも大事なことだから⋯⋯。特に一番最後⋯⋯魔剣とか異世界の情報と、私たちがそれに関わりがあることを⋯⋯不特定多数の人間に『認知』されることだけは、絶対に避けなきゃ⋯⋯」
フユがそう言うと、前方を歩いていたナツとハルも歩く速度を落とし会話に参加する。
「まあ、異世界とか、モンスターとか、魔剣で戦うシーンとかを誰かに見られでもしたら、なんて言い訳すればいいかわかんないもんねー。写真とか動画とかだったら、よくできたCGとか、生成AIだっけ? みたいな感じで誤魔化せるかもだけど」
「問題はその先の話だな。それが世界クラスの国際政治の関心事にまで発展すれば、魔剣使いの俺たちが『個人で運用可能な戦略兵器』であり、なおかつ『異世界を繋ぐ鍵』という認識になった上での最悪のケースになりかねないってことだ」
「あ、一気に話のレベルが跳ね上がっちゃったね⋯⋯。あたし付いていけるかな? 『最悪』っていうと、どんな感じ?」
「表向きは未成年者の保護と安全保障。裏では神秘の産物の魔剣や異世界の分析と解析の対象として、俺たちは国に隔離される。魔剣の持つ力は想像を絶するし、『異世界』という概念も実在するものとして認知されるんだ。アメリカや中国やロシアといった大国からも、情報提供と身柄の引き渡しを要求され、断れば方々から裏工作を仕掛けられ、自由は奪われる。24時間体制の監視付きでな」
「うげ、マジかよ⋯⋯陰謀論みてえな話になってきたな⋯⋯」
「想定できうる最悪のケースって話だ。ネットでバズる程度ならまだいい。異世界由来の病原菌の有無の懸念、『生きた戦略兵器』の徹底的な監視と管理、研究対象としての身柄確保、異世界の領土や資源のリソースを狙う組織。⋯⋯軽いものでも、異世界や魔剣に興味を持つ野次馬やマスコミの押し掛け、自分も異世界に連れて行ってくれと接触してくる馬鹿⋯⋯。面倒事から死活問題まで、俺たちにとって『都合の悪い展開』は腐るほどある」
「うん⋯⋯。想像の域とはいえ⋯⋯そういうの、腹立つよね。私たちだって、異世界へのワクワクはあるけど⋯⋯どんな事情を抱えてるかも知らずに、振り回されるの⋯⋯」
「そこまでいくとなんかもう、完全にあたしたちの人権とか無視だよね」
眉をひそめるナツに対し、フユは「当然⋯⋯」と真剣な表情で頷いた。
「バレた時点で⋯⋯法的な意味での人権なんて、なくなるよ? 日本国憲法って、基本的人権が、保障されてるものだけど、『公共の福祉』⋯⋯大勢の命とか、社会の安寧を脅かすとか⋯⋯そんなレベルになれば、制限されるパターンがあるの」
「別にオレら社会ぶっ壊そうなんてしてねえけどな」
「それが個人の意思ひとつで『可能かどうか』⋯⋯なの。気まぐれとか、精神的乱れとかで、都市壊害レベルの惨事が発生し得る場合⋯⋯『国家および国民の生存権』を守る名目で、個人の人権⋯⋯えっと、移動の自由、職業選択の自由、財産権とかの、色々な人権侵害が正当化されるとか⋯⋯かな?」
論理的に思考や想像力を働かせるハルはもちろんのこと、フユもまた、漫画やゲームにありがちな、異世界、魔法、超常現象といった『フィクション的概念』が本当に現実として存在し、しかも自分たちが当事者であるならば、社会的にどうなるのか──知識オタクの知識量と発想でリアルかつシビアにシミュレートし、口下手とは思えない弁舌ですらすらと答える。
「異世界とか、魔剣とかの非現実概念への対処⋯⋯。でも犯罪者じゃない私たちを⋯⋯既存の法体系で対処はできない⋯⋯。だから、国会で超法規的な『特別措置法』が、すぐ可決されるかも。こうなると、裁判所の令状なしで⋯⋯身柄の拘束とか監視が、法律上可能になるかもね⋯⋯」
「むちゃくちゃムズいしエグい話だな。『異世界ファンタジー』ってやつをリアルに落とし込むとそんなことになんのかよ⋯⋯」
「フユペディアの知識量とハールック・ホームズの推理力ハンパないねー。⋯⋯あたしまだ、どんな感じで最悪なことになるのかが、いまいちふんわりとしてるけど」
「なら具体例を挙げてみるか。まずは行動と居住の自由の剥奪。軍事基地や極秘研究施設内への居住強制。海外渡航禁止措置⋯⋯つまりパスポートの強制失効。最重要危険分子の戸籍情報の改竄措置。体内のGPSチップの埋め込みによる心拍、脳波の常時モニタリング。家族や友人関係を含むすべての通信の監視および遮断。実験動物レベルの生体研究。精神的安定を維持するための強制的精神鑑定や薬物投与。国家への服従を担保するため隔離環境での強い心理的アプローチによる教育。魔剣の『個人所有権』の否定と、国家の安全保障上の重要資産としての指定。諸外国からの極秘の拉致計画やスパイの干渉。異世界からの持ち込み物の強制接収。⋯⋯パッと思いつくだけでこれだけあるな。あとは──」
「だぁーっ! もういいもういい! なんでパッと思いついたらそんだけ『最悪』が出てくんだよ! お前らのアタマどうなってんだ!? それ魔剣パワーの超人化カンケーねえだろ!? てか今、別に魔剣出してもいねーし!」
「あたし最初の二行で投げた⋯⋯。つまり、ぜったいぜったい、ぜぇぇったいに、バレちゃダメってことっ!! だよねっ!!」
頭脳派二人の唱えるロジックに頭が痛くなるアキとナツだが、自分たちの日常と尊厳を守るために、徹底的な秘密厳守が必須な点だけは嫌というほど理解できた。
「そういうことだ。要するに、『魔剣を人前で出し入れしない』『異世界転移を他人に目撃されない』『他人に異世界関連を一切口外しない』⋯⋯この三つさえ守ればひとまず問題はないだろう」
「誰にも『見せない!』『見られない!』『言わない!』の三つのルールね! オッケー! あたしたちの日常、守り抜こう!」
「おうっ。いくらオレらが社会にとっての危険分子だからって、んなもん知るかボケってな。オレらはオレらの人生を自由に生きる権利があんだからよ。お国に人生捧げて当然なんて冗談じゃねえっての。なあ?」
「うん⋯⋯っ! 自分の人生を優先することを、『自分勝手』とか、『独占』だなんて、言わせないよ⋯⋯っ!」
漫画やゲームのようなフィクション的概念の実在と、それに伴う自分たち関係者に対する社会的扱い。もちろん実際に何がどうなるかは、「その時」になってみないと分からない。
だがこの話で重要なのは、自分達に都合のいいパターンで考えず、逆に都合の悪いパターンを考察した上で「その時」が来ないよう徹底してリスクヘッジを立てることだ。
今ハルが挙げた三点を徹底すれば、少なくとも外部には漏れることはない。
そしてアキは、冗談交じりで昼にハルの家に集まった際の話にあった出来事を蒸し返す。
「てかナツ、お前マジで気をつけろよー? ヘタしたら井戸端のおばちゃんより口軽いからなお前」
「私の『やらかし』⋯⋯ナイショにしてって、お願いしたのに、速攻で、ハルたちにバラしちゃったし⋯⋯」
笑いながらからかうアキと、恨めしく愚痴るフユの二人の視線が、ナツの顔に突き刺さる。
「あ、フユが部屋でうっかり魔剣出して家族にバレかけた件? ゴメンゴメン。⋯⋯でもそっか。口滑らせるだけじゃなくてさ、なにかの拍子でポーン、って魔剣出さないか心配だよね」
「いやお前、そんなクシャミとか屁ぇこくみてえなレベルで魔剣発動すんなよ⋯⋯」
「しないからっ! 例えだよ例えっ!」
「──っと、一旦ストップだ。距離的にこの辺りのはずだ」
先頭を往くハルは目指していた大まかな地点に当たりをつけ、足を止めた。
ついつい長々と話し込むにあたり、いつのまにか四人揃って歩みが遅くなっていたが、大体の目星をつけていた地点はこの近辺だ。
「あーっと⋯⋯あのトリ公が首ブンブンさせて放り投げたんだよな。ケツに魔剣カンチョーはやりすぎたか。てかハルの予想だとこの辺に落ちたってことか?」
「地理も東西南北もわからないから、あまりアテにはするなよ。俺たちがいた地点からの大体の進行方向と、リュックが飛んでいった方角と飛距離を目測で照らし合わせて、おおよそこの辺りというだけだ」
「広い森みたいだから、方向感覚はカンタンにブレちゃいそうだよね。スマホも異世界の冒険には役に立たなそうだし、せめて異世界用のマップとかコンパスとかが欲しいよねー」
やむを得ない即興手段でしかなく、地図も方位手段もないまま未知の世界の森を練り歩くなど無謀もいいところだ。
そんな時、フユが声を上げた。
「あっ⋯⋯! そういえばアキ。さっき、鳥のモンスターを二段ジャンプで倒したとき⋯⋯すごい高いとこまで⋯⋯行ったよね? そのときの、空からの景色って⋯⋯どうだったの?」
当初、より高所への跳躍を皆で提案し合った本来の理由は、この森を起点とした空からの地理関係の確認だった。
直後に例の怪鳥モンスター達の襲撃にあったことで有耶無耶になりはしたが、荷物を盗んで空高く逃亡した生き残り一体を追撃するため、ぶっつけ本番で連携二段ジャンプ自体は成功した。
先程の魔剣士バリスタによる空中戦の一件をフユは持ち出して尋ねるも、アキはバツの悪そうに首筋を掻きながら答える。
「いや悪い、あん時のオレ、鳥野郎ぶっちめんのに無我夢中でよ。んで、魔剣消してパニくっちまって落っこちたもんだから、あんまりそれどころじゃ⋯⋯」
「まあ、あの状況じゃ無理はない。ただ真っ逆さまに落ちる時、視界に緑一色が広がる感じだったか? 何となくでいい」
「あー⋯⋯言われてみりゃ、確かにそんな感じかもな。遠くはわかんねえけど、ずーっと緑が続いてる⋯⋯みてえだったかも」
「錯乱状態のうろ覚えでもそこまで分かれば上出来だ。空から下は緑が広がってるってことは、それは一面に樹木が茂る光景⋯⋯つまりこの森は相当大規模な森林や樹海って線が強くなった。最初から察しはついてたことだが」
ハルは自身の観察と予測と想像、そこにアキからの情報を照らし合わせてそう結論づけた。
「うーん⋯⋯でも結局、進んでた方向が合ってるのかもわからな⋯⋯え? あぁーっ! ねえねえみんな! ほら、フユの荷物あれじゃない!?」
ナツは興奮気味で前方の十メートル先あたりを指差す。すると確かに見覚えのある、パンパンに膨れた灰色の物体が見え、四人は揃って駆け出した。
すると──。
「──え?」
「お、おおおお⋯⋯マジかっ」
「⋯⋯! いたんだ。やっぱり、こっちの世界にも⋯⋯っ!」
「ああ⋯⋯。『異世界人』がな⋯⋯」
四人が駆け寄った、フユの荷物が無造作に転がっていたその傍らに──まだ年端もいかないであろう『少女』が、なぜか眠るように横たわっていた。
「ん⋯⋯んんっ⋯⋯」
気を失っているのか、眠っているだけなのか、少女の口から掠れるような呻く声が漏れる。死体が転がっているというオチではないようだ。
鬱蒼とした自然豊かな森。昨日のワニ頭のクマの怪物。先程のズル賢い怪鳥──たったそれだけしか異世界を知らない四人にとって、今まで確定していなかった事柄。
それはこの異世界が、一般的に想像されるファンタジー的世界とは違い、『人間』をはじめとした知的生命体がおらず、未知の野生生物のみ生息する原初的な世界ではないのかという可能性だ。
そしてその可能性は今この瞬間に完全に否定され、初めて現地の異世界人を目の当たりにした瞬間だった。
※読み飛ばしOKのおまけ
タイトル名《答えの要求》は、唱える際の追加コストとして、手札を1枚捨てるかアーティファクトを生け贄にして2枚ドローする、赤の2マナのインスタントカード。
青のドローはフレーバー的に「知識の獲得」を意味し、赤のドローは「突発的、衝動的行動、偶然的な発見」などを表す。
フユの荷物を追ってきたら思わぬ「発見」をしたこと、あるいは異世界や超常現象がリアルに存在し、それに春夏秋冬カルテットが関わっていると社会的に認知された場合、世間、社会、国はどうするのか?というリアルな「答え」を示すという、カード名、カード効果、ストーリーシチュエーションの符合。




