22話 鳥撃/Fowl Strike
飛行モンスター襲来!
ここが未知の異世界である以上、地球上の既存の種とは全く異なる固有種の生物がいることに何の不思議もない。
それは昨日、『ワニ頭のクマ』という異形の怪物を目の当たりにするばかりか、どちらが滅亡するかの生存を賭けた戦いを経たことで、事実として重々承知している──そのつもりだった。
それでもやはり『未知との遭遇』というイベントは、いつだってそれを体験する者に衝撃を与えるのものだ。
「GYASYAAAAA!!」
「な、なに!? なんなの!?」
「なんだよこいつら⋯⋯!? 鳥のバケモンか!?」
四人は空からの襲来者に、戸惑いの色を見せた。
突如として天空より飛来した複数の飛行生物は、四人の頭上を取り囲むようにぐるぐると旋回しながら徐々に地上へと近づいてきた。
それは鳥のような、異形の怪物。腕代わりに大きく広げたコウモリのような翼に、胴体から伸びた長い首。頭部は小さく、クチバシのように鋭く尖った口元。足は猛禽類のような鋭く曲がった鉤爪。だが鳥に近い特徴をもちつつも鳥類特有の羽毛は見当たらない。
「⋯⋯ワイバーン⋯⋯なの? でも鳥⋯⋯?」
空を見上げながら、フユがぽつりと呟く。
それは鳥類のようであり、遥か太古に生息していたと言われるプテラノドンのようでもあり、そして心なしかファンタジーでお馴染みの『ドラゴン』のようでもあった。
架空のドラゴンはともあれ、地球上でも鳥類と恐竜は、生物学的にほぼ同種と言われている。彼らの場合は、鳥と翼竜の独自の特徴を合わせ持った、異形の『怪鳥』といったところか。
その数──五体。
「PIIIIIィィ!!」
群れが木々の葉が生い茂る高度まで降りつつぐるぐると遊泳していた時、その内の一体が突如、旋回の輪から外れ、戦闘機を思わせる動きで急降下を始めた。
先走ったか。あるいは先鋒のつもりか。
──だが。
「シッ──!」
空から流星の如く高速で降ってきた飛行生物の伸ばされた長い首は、その速度をも上回るハルの魔刃による一閃によりあっさり刎ね飛ばされた。
ドスゥン! と激しい音と土埃を立て、首無しの肉塊が地面に勢いよく激突し、数拍置いて淡い光の粒子と共に消滅した。
死骸が光になって消える現象──昨日のワニ頭の怪物と同様のものだ。
「礼儀知らずな鳥だな⋯⋯」
ハルはにべもなく鼻を鳴らし、吐き捨てるように言った。
空から速さ頼みで降ってきただけの物体など、理外の超越者として刃を振るう魔剣士にとっては格好の的だった。
そしてその一体が狙ったのは、よりにもよっていち早く魔剣を構えて迎撃態勢をとったハルだった。いや、ハルの敵意に敏感に反応したからなのかも知れない。
結果、怪鳥自身も魔剣の恐ろしさをまともに認識しないまま、その首と生命を失った。
「お前ら! こいつらは『モンスター』だ!」
上空の襲撃者たちに、魔剣の切っ先を向けて叫ぶハル。その声に三人もまた心構えのスイッチを切り替えた。
「だったら、やること⋯⋯決まってるよねっ⋯⋯!」
「うんっ! 敵対するなら斬る!」
「へっ、そういやハルはまだ見たことなかったよな! オレらが魔剣で戦うとこ。行くぜオラァ!」
魔剣を携えたフユ、ナツ、アキは、化物すら恐れる魔剣士へとスイッチを切り替え、凶悪な笑みと共に残る四体の群れに向かって高速で跳躍した。続けてハルも跳び上がる。
魔剣が放つ恐ろしい力。魔剣使いが放つ異様なまでの気配。ハルに攻撃を仕掛けてきたところを見るに、この怪鳥たちは好奇心でそれに惹きつけられ、あわよくば喰らってみようと四人の元に訪れたのだろう。
空を飛べるという絶大なアドバンテージを持つ身である以上、恐れを成したのなら、襲う素振りなど見せずにそのまま撤退するはずだ。
しかし無常にして無情。狩る者と狩られる者、襲う側と襲われる側の立場は、完全に入れ替わっていた。
四人が先程試した最大跳躍限界値の高さ十五メートル──大樹の冠葉付近──その高度まで、彼らは迂闊にも来てしまっていたのだ。
「そうらぁっ!」
「てぇやあっ!」
「消えてッ!」
「二匹目!」
「!? ギィ──!?」
魔剣士と怪鳥の決着は、あっという間だった。
一瞬で空高くハイジャンプし、怪物の眼前まで到達した四人の魔剣士たち。地を這う下等生物の人間離れした芸当に驚愕する間もなく、群れ達の命運は決した。
アキの魔剣、《繁栄と衰微の剣》が──。
ナツの魔剣、《福音と呪詛の剣》が──。
フユの魔剣、《真実と欺瞞の剣》が──。
ハルの魔剣、《楽園と冥府の剣》が──。
翠、橙、蒼、紫のそれぞれのオーラが描く死の軌跡。跳び上がったと同時に振り抜かれた魔剣。細首を通過する刃の冷たさすら感じぬまま頭部を斬り飛ばされた四体の怪鳥たちは、何が起こったのか理解しきれず空中で絶命し、光となって消えた。
襲撃から僅か三十秒足らず。「戦闘」と呼ぶには作業も同然の決着だ。
斯くして空からの襲撃者は、開幕早々あっけなく全滅──かと思われた。
「──何!?」
飛行モンスターの撃墜を難なく成し遂げ、空から地上へと落下する最中の四人の視界に映ったもの──それは他の誰よりも早く地上に降り立っていた、いないはずの『六体目』だった。
怪鳥の群れが四人の頭上で行っていた、獲物に対する威嚇や挑発を意味するであろう空を旋回する円舞曲。
仲間外れか遅れて到着したかは定かではないが、その集団行動に参加せず死角からチャンスを窺っていた唯一の個体だった。
そして──。
「! わ、私の⋯⋯!」
「あんにゃろ! フユの荷物を!」
先程、超人化による最大跳躍力を試す際、地面に無造作に置いた四人の荷物。その中でもとりわけ大きくパンパンに中身が詰まった、『フユの登山用リュック』の肩にかける輪状のショルダーハーネス部分に、器用にクチバシに引っ掛けると、翼を広げ離陸を開始する。
一瞬、落下中の四人と逃亡を図る怪鳥の目が合う。その猛禽類のような眼差しは、「こいつは頂いていくぜ」といった底意地の悪い笑みに見えた。
「あぁーっ! コラぁー! 持ってくなあああ!!」
落ちながらナツは窃盗を働いた怪鳥へと叫ぶ。
いかに魔剣で超人化していても、ただ重力に従って自由落下に身を任せるしかない四人。お互い上下にすれ違う形で、唯一隠密行動によって生き残った怪鳥は、悠々と上空へと飛び立ってゆく。
「クッソがぁ! 取り返すぞっ!」
四人はようやく落下を終えて着地するなり再び地を蹴り、去りゆく怪鳥に向かって、ドォンッ! と地を爆ぜさせて高く跳び上がる。
だが既に標的は、四人の最大可能到達点の大樹の冠葉よりも高い位置まで辿り着いており、全力で跳躍を試みるも、もはや魔剣の必殺の刃も届かない。
「ま、待って⋯⋯っ! 返して⋯⋯っ!」
「あーん! もうドロボー鳥ぃ! 待てぇえ!」
「クソっ! ダメだっ! やっぱ届きゃしね──!」
「アキッッ!」
三人にワンテンポ遅れてハルも三人がいる空中に辿り着くと、自身に最も近いアキに向かって檄を飛ばした。
ぶっつけ本番もいいところであり、上手くいく保証もない。しかし実戦で実践するならば、ここでやらない手はない。
「さっきの『二段ジャンプ』だ! こいつの『ここ』に乗れ!」
叫びながらハルは両手で《楽園と冥府の剣》をアキの足元に添える。一瞬ギョッとなるアキだが、仲間を斬るわけがないとすぐ思い直す。
ハルから差し出されているのは、刃渡りの長い両刃を真横にした、広い平地部分だ。
「! なるほどな! おっしゃ!」
トン、とアキは足元に添えられた《楽園と冥府の剣》の漆黒の刃の平地にカタパルトのように足をつける。同時に膝を曲げ、足裏に意識を集中させた。
「「いっけええええ!!」」
「「おおおおおおお!!」」
空中でのナツとフユの鼓舞声援、空中でのハルの打ち上げ、そしてアキの空中二段ジャンプ。
ハルが用意した空中の足場を蹴り、アキはさらなる高空へと跳び上がった。
しかも戦闘前に話していた、ジャンプ役と踏み台役というだけではない。ハルが足場にした魔剣を思い切り上方へと掬い上げ、アキも同じタイミングで足場を蹴っての超高速&高空跳躍。両者とも常人の枠を外れているが故に可能な絶技だった。
「アキッ! ぶちかませぇ!」
足場の役割を終えたハルは下に落ちながら、遥か上空に向かってエールを送る。
ハルという発射台。アキという発射物。それは単なる連携による二段ジャンプを超えた、二人の魔剣士が織り成す魔剣士バリスタ。
魔剣を獲物へと突きだしたままアキは高く速く飛翔し、一瞬にして怪鳥の尻部分まで肉薄した。
「〝座薬〟の時間だコラァ!!」
ドスゥッッ! と超高速の勢いのまま、《繁栄と衰微の剣》の鋭い魔刃を、柄の根元あたりまで深々と臀部の中央に突き刺した。
「アッーAAAAAAAAAAAAァァー!?!?!?」
ケツにブチ込まれたえげつない突撃に、盗みを働いた不届き者の空が割れんばかりの叫喚が大空に響き渡った。
魔剣による必滅の刺突と、超人化の踏み切りと打ち出しが生み出す爆発的推進力を加えた、地獄の浣腸攻撃だ。
「っるぁあああああ!!」
ダメ押しに気合いを込めながら、肛門に深く突き刺さった魔剣を下腹部に向けて一気に斬り裂く。もがき苦しむ怪鳥は首を激しく振り回し、クチバシに咥えていたフユのリュックを首振りの勢いのまま放り出した。
そうして尻から腹まで掻っ捌かれ、声にならない悲鳴を上げて墜落した最後の個体は、落下中に鮮血と光を撒き散らしつつ消えた。
「いやっったぜえええっておわあああああ!?!?」
本来たどり着ける標高よりも遥かに高い高所。敵を討つという目的を達成した後に来る状況把握。それによりにアキの右手から、《繁栄と衰微の剣》は緑色の光と共に霧散してしまう。
達成感と恐怖、感情と精神の激しい揺らぎによる超人化解除。物理的にも精神的にも、絶頂からの転落だった。
常人なら死を免れないという生理的反応に半ばパニックを起こしてしまい、そのままアキも頭から真っ逆さまに墜落していく。
四十メートル、三十メートル、二十メートルと、ぐんぐん地上が近づき──
「ナイスジャンプ、よくやったなアキ」
「グッジョブ! カッコよかったよアキー!」
「ありがと、アキ⋯⋯! 落ち着いて魔剣を⋯⋯っ!」
「!! お、おおっ! Bhelstyleg!」
三たび跳躍して空へとやってきたハル、ナツ、フユの労いの声かけと、体勢を直しつつ落下の慣性を抑え込まれたアキは、落ち着きを取り戻して再び魔剣を召喚する。空まで迎えに来た仲間と共に、鮮烈な空中殺法を演じた魔剣士は地上へと凱旋した。
四人の幼馴染による、初の四人揃っての異世界でのバトル。
強力な魔剣をただ悪戯に振り回すだけではない。連携、発想、そして勇気──それぞれを駆使しての勝利だった。
「ふぅ⋯⋯歴史に残る大ジャンプだったな〜。サンキューなお前ら! オレの魔剣ちゃんもよくやってくれたぜ。愛してるぜ〜」
地面に降りたアキは、騎士の誓いのように仰々しく両手で魔剣を掲げると、その刃の付け根と柄の間にチュッと口付けしてみせた。
今回の戦いでは、アキはまさに文句のつけどころのないフィニッシャーぶりだった──のだが。
「⋯⋯カッコつけてるところ悪いがアキ、それ、あの鳥のケツにブッ刺したこと忘れてないか?」
「おわっ!? ペッ! ペッ! なあお前ら、オレの魔剣、変なのこびり付いてたりしてねえよな!? ニオイは!?」
「ちょっと! もうバカっ! こっち向けないでよ!」
「ばっちい⋯⋯」
「おい、それより急いでフユの荷物を回収しに行くぞ。方向がわからなくなったら面倒だ」
ハルは自分の荷物を拾って肩に背負うと、フユのリュックが放り出された方向に駆け出し、残りの三人も同じように後に続いた。
「なあフユ、確か水いっぱい持ってきてんだよな。オレの魔剣、それで洗っても──」
「絶対ダメ⋯⋯っ! 貴重な飲み水なんだよ? やるなら、川でやってっ⋯⋯!」
「いや川どこにあんのかわかんねえっつーの!」
どんなに強く、どんなに勇ましく、どんなに格好よく決めてみせても、やはり彼はいつもの「和泉秋大」のままだった。
※読み飛ばしOKのおまけ
タイトル名《鳥撃》は、飛行を持つクリーチャー1体を破壊する緑の2マナインスタントカード。更に鼓舞2(クリーチャーに+1+1カウンターを2個乗せる)があり、飛行を持たない相手でも死に札にならない。
「格闘」以外でクリーチャーの除去を苦手とする緑だが、唯一、飛行クリーチャー限定で破壊が得意。
アキの魔剣、《繁栄と衰微の剣》は緑色のオーラなので、飛行する魔物を超人化能力&アイデア&仲間のサポートで撃墜。そして文字通り「鳥の襲撃」いうカード名とカード効果、プロットの組み合わせ。




