15話 奇妙な幕間/Eerie Interlude
やっぱり幼馴染っていいね。
紫、橙、翠、蒼──色とりどりの異様な光彩を放つ魔剣を手に携えたままのハル、ナツ、アキ、フユの四人は、異界の森にてこれから先のことで途方に暮れていた。
「ねえねえ、もう夜の九時だよ。これからどうしよっか?」
ナツはポケットから取り出したスマートフォンの画面を確認しながら口を開く。
魔剣の顕現時はあらゆる困難を断ち切る全能感が身体を充足させていても、人間としての基本的な生活を解決するための即物的な手段にはならなかった。
「この辺りは木の間隔が開けてるから、夜空の光のおかげで比較的明るいのは助かったな。気温もそんなに低くない」
ハルは天を仰ぐと、一息つく。
「⋯⋯ただ、このまま森を闇雲に探索するのは無謀だな。星座が異世界特有のものなら、東西南北の方角を特定すらできない。夜をここで明かすしかなさそうだ」
「この魔剣の光をライト代わりにすればいけそうだけど⋯⋯すぐ時間切れになっちゃうよね」
ナツは右手に持つ魔剣、《福音と呪詛の剣》を森に向ける。刀身を纏うオレンジ色の光が、主の意思で明滅した。
魔剣の制限時間や体力面のリソース面が有限、しかも長続きしないと再確認し合った手前、力の無駄遣いはできない。
それ故に一番厄介な問題を警戒しなければならなかった。
「まだ他のモンスターと遭遇するとも限らない。ここはそういう世界らしいからな。魔剣で戦えるとはいえ、下手に動き回るのはやめた方がいいだろう」
「いざ魔剣が、必要なタイミングで⋯⋯魔剣の力が使えなかったら、アウト⋯⋯だもんね」
フユも左手の《真実と欺瞞の剣》を見つめながら、ハルの意見に同意した。
そうしていると、アキが腹を左手でさすりながらごちる。
「腹減ったよなー。もう九時だし。なんかその辺に食えそうなもんねえかな?」
「キノコとか⋯⋯山菜とか? でも、日本の山じゃないし⋯⋯そもそも異世界の、未知の植物、だよ?」
「うーん、キノコ⋯⋯キノコな。見つけても、毒があるかもわかんねえし⋯⋯あっ! いや待て、オレらなら大丈夫だろ!?」
アキは右手の魔剣、《繁栄と衰微の剣》を誇らしげに振りかざすと、身体中に漲る力をアピールした。
「オレら魔剣パワーで身体が超人化してんじゃん! こん時は毒とかナマモノとか、どんなもん食っても問題ねえんじゃね!? 味のクオリティに目を瞑れば、その辺の雑草でもなんでも!」
「やだっ! いくらお腹壊さないからって、それもうやってること動物じゃん! せめて人の尊厳保ちたいもん!」
「お前らな⋯⋯。魔剣を懐中電灯代わりとか、超人化を利用した腹下し予防とか、いちいちアイデアがショボいんだよ。あとはよく切れる包丁代わりになるとか言うなよ」
「魔剣たちも⋯⋯便利なサバイバルグッズ扱いされたら⋯⋯マスターに、ブチギレそう⋯⋯」
持ち主として認めた者を超常的な魔剣士に覚醒させ、凶獣すら屠り去る恐ろしい力と気高さを持つ魔剣。そんな至極のアイテムの残念な活用方法ばかり出てくることに、ハルとフユは呆れて首を振った。
その時、ナツが「あっ」と沈んだ表情を唐突に明るくした。
「そうだ思い出したっ! ねえ! あたしたちの持ってたカバンは!?」
笑顔のナツはウキウキと声を弾ませながら続ける。
「ほら、あたしたち下校中だったよね! あたし、カバンにお菓子入れてたの!」
「おおっ! そういやオレもパンの残りが入ってた! 目ぇ覚ました場所からそんな距離ないよな! 探そうぜ!」
表情が明るくなったナツとアキに対し、ハルは「無駄だ」と二人に現実を突きつけた。
「二人とも忘れたのか? 荷物は工場に入った時に入り口に置いただろ。スマホとか身につけてた物以外は、『こっち』への転移に巻き込まれてないはずだ」
「はぅ⋯⋯最後の希望が⋯⋯」
「はぁぁー⋯⋯確か今日って金曜だよな。明日休みなのは助かったけどよ⋯⋯これ、土日の二日で戻んの無理じゃね?」
再びがっくり肩を落としたナツとアキは、著しくテンションが急降下していた。
だが気落ちばかりしていても仕方がない。ハルは今日の活動は切り上げることを提案する。
「この森を抜けるにしても、夜が明けてからになるか。さっきのワニ頭みたいなモンスターが現れても厄介だ。みんな、一人ずつ交代で休息を──」
「あ、じゃ、じゃあ⋯⋯っ! ちょっと、いい⋯⋯? 最後に、みんなで、やりたいことが、あるの⋯⋯!」
そんな時、今まで知識と知恵のブレイン面で皆に貢献していたフユが、おずおずと右手を挙げた。
「やりたいこと⋯⋯? あ、なにかいい方法思いついた!? 我が家のフユペディアちゃん!」
「さっすが、一家に一人のフユペディア! 信じてたぜ!」
「あ⋯⋯ご、ごめん⋯⋯そういうのじゃ、ないの⋯⋯」
二人から期待を込めた眼差しを向けられたフユは、申し訳なさそうに首を横に振って目を伏した。
「フユ、やりたいことっていうのは、魔剣を使うことか?」
「そうじゃ、ないんだけど⋯⋯。こんな時に⋯⋯不謹慎かも、しれないけど⋯⋯。ちっちゃい頃を、思い出してね?」
フユは左手の魔剣、《真実と欺瞞の剣》の蒼色に光る魔刃を見つめながら目を細め、幼き日々に思いを馳せる。
「ほら、四人でね⋯⋯木の棒とか、スポンジ棒を剣にして、並んで、勝利のポーズを取って⋯⋯。みんな、覚えてる?」
「あー、なんかやったっけかな。『たたたたーたーたー♪』とか口でBGMつけながらってやつだろ?」
「お前が大阪から引っ越してきて間もない頃だな。泣きべそかいてたあきひろくん」
「はあ!? オレそんなんあったかよ!?」
「あははは! うん、あったあった! 懐かしいねー、確か先生に写真撮ってもらったっけ。四人でポーズ決めたシーンとかさ」
「うん⋯⋯そのときの写真⋯⋯まだ部屋に、飾ってるよ」
「そういや、フユの誕生日にみんなで家に行った時、まだ飾ってあったなあ⋯⋯ん? まさかフユがやりてえことってのは」
アキは魔剣を目の前に掲げる。
「これ使って『あれ』やんのかよ!? え? マジで言ってる? 高校生が異世界に来て⋯⋯さすがにサムくね?」
「お前の胃薬代わりの提案も大概だったろうが。ただフユ、魔剣のタイムリミット的に、そんなことをしてる場合じゃ⋯⋯」
「あ⋯⋯そう、だよね⋯⋯ごめん⋯⋯」
シュンと顔を伏せたフユに、ナツがフォローに入る。
「まあまあ! いいじゃん! なんかあたしも懐かしい気分になっちゃった。フユってば、あたしたちのために頑張ってくれたんだしさ、一回くらいワガママ聞いてあげよ? ねっ?」
「⋯⋯まあ、一回くらいはいいさ。フユはさっきの化物との死闘で、特に俺を守るために頑張ってくれたらしいからな」
「お前もなんだかんだで甘やかすよなー。ま、ちょっとだけ付き合ってやるか! 四人で一列に並ぶんだったな。んで、あれだ。バトルで勝った時のフレーズをみんなで歌うやつな」
「⋯⋯! う、うん⋯⋯っ! ファンタジーで、シリーズおなじみの、あのファンファーレね⋯⋯っ!」
みんな了承してくれたので、フユが表情をぱあっと明るくした。
そして魔剣を携えた四人は、ハル、ナツ、アキ、フユの順番で等間隔に並び立ち、ナツが号令を取ることに。
「じゃあ、勝利のファンファーレとポーズ、みんなで行くよー! せーのっ!」
「ぱぱぱぱーぱぱぱぱーぱぱぱぱっぱっぱっぱぱぱぱー♪」
「ららららーらーらーらんららー♪」
「たたたたーたーたーたったたー♪」
「ぱぱぱぱーぱーぱーぱっぱぱー♪」
⋯⋯⋯⋯。
「⋯⋯え?」
「あれ? ファンタジー系のファンファーレって、あたし一個しか思い浮かばないんだけど。バトルで勝った時のあれだよね?」
「う、うん⋯⋯ハル以外は⋯⋯ちゃんと、あってたよ⋯⋯?」
「てか聞いたことねえファンファーレだな。ハル、お前のやつ、なんのBGMなん?」
「有馬記念G1レース」
異音を紛れ込ませた犯人はそっぽを向きながらしれっと答えると、またしてもフユはプリプリと怒り出した。
「わざとでしょ⋯⋯っ!? ねえハル⋯⋯っ! なんでお馬さんの方なの!? 『ファンタジー』で、『勝利のファンファーレ』って、一個しかないでしょ⋯⋯っ!?」
憤りの足踏みで土草の地面を叩くフユ。魔剣による超常的な身体能力から繰り出される地団駄は、地面をボコボコに陥没させていた。
「もうっ! もうっ! じゃあ次は本番⋯⋯っ! みんな、もう一回並んで⋯⋯っ!」
「まさかのTake2!?」
「あとみんな、発音は『パ』で統一して⋯⋯っ! メロディを、調和させたいの⋯⋯っ! あと、最後の『パー♪』のタイミングで、四人は横一列から、円陣にフォーメーションを、シームレスで切り替えてね⋯⋯っ! その時、四人で魔剣を空に上げて、カッコよくクロス! 四本の魔剣の、カラフルな光が交わるように⋯⋯っ!」
「ディティールのこだわりスゲェなおい」
「うん、撮影現場で熱心に演技指導する監督みたい⋯⋯」
「これはフユが満足するまで永遠に終わらないパターンか。こんなことをしていて、魔剣のタイムリミットで倒れるのもマヌケ過ぎるからな⋯⋯。お前ら一発で決めろよ」
「おうっ! ⋯⋯いや、お前が競馬の音楽でボケるからこうなったんやろがい!?」
「ところでフユ、例のファンファーレ、確かシリーズによっては初めに『ドゥルルル』って短いドラムロールが入ってるパターンもあったよな。それは──」
「いらないっ! ほんとは欲しいけど、どんどん足せばいいってものでもないのっ! 『みんな』で合わせるのが大事なのっ!」
「わかったわかった⋯⋯」
「真面目にやってくれないとっ⋯⋯一週間、口聞かないからね⋯⋯っ!」
一度火がついたフユは留まることを知らず、タジタジとなる幼馴染たち。
ムキになったフユの『一週間口を聞かない宣言』は、文字通り本当に一週間きっかり口を聞いてくれなくなる現象だ。それを長い付き合いで理解している三人は、従う以外に道はなかった。
「じゃあみんな、入りの最初だけは⋯⋯あえてバラバラにポーズを取って⋯⋯っ! 四人パーティーとして、キャラクター毎の、個性を出す感じで⋯⋯っ! 最後だけ気持ちを合わせるのっ。いい!?」
「「「イエッサー、ボス!!!」」」
「じゃあ、本番、行くよ⋯⋯! 3、2、1、ハイっ!」
「「「「パパパパーパーパーパッパパー♪♪♪♪」」」」
魔剣を大振りに勢いよく振り抜くハル。
魔剣を上げて笑顔でピョンピョンと跳ねるナツ。
魔剣を頭上でクルクルと回転させるアキ。
魔剣を顔に近づけて騎士の祈りのポーズを取るフユ。
そして曲のラスト、一列に並んだ四人は円陣となり、凛々しい表情で四本の魔剣の刃を空中で「キンッ!」と音と共に交わり合わせた。
「⋯⋯なあ、キレイに決まったんじゃね?」
「うん! なんか本当にRPGのキャラになった気分!」
「生きるか死ぬかの異世界で何をやってるんだ、俺たちは⋯⋯」
「ふふふ⋯⋯っ! みんな、ありがとう⋯⋯っ! これで──」
──その時、四本の交じり合った魔剣の刃が、音ならざる音を発し、急激に光を膨れ上がらせる。
「え? え? なになに!? なんなのー!?」
「なんかめっちゃ光り出したぞオイ!?」
「──!! これは、工場で見た光──」
パープルブラック、マンダリンオレンジ、エメラルドグリーン、サファイアブルー。四色の神秘的かつ暴力的なまでの鮮やかな極光が、交差した四本の刃を中心に渦巻き、突然の異変に戸惑う四人を包み込んだ。
────。
時間にして数瞬。爆ぜた光が収束と共に霧散した。
四人の少年少女たちが立っていたその場所には、誰も残されていなかった。
「ひ、人が⋯⋯消えちゃった⋯⋯」
奇妙な光や声に誘われ、その場に急いで駆け付けた者の困惑のみを残して──
※読み飛ばしOKのおまけ
タイトル名《奇妙な幕間》は、自分の場の望む数のクリーチャーを追放し、次の終了ステップにまた戦場に戻す、白の3マナインスタントカード。
一人だけではなく、全員がその場から消えたことと、こんな状況で端から見れば文字通り「奇妙な幕間」を繰り広げる四人の様子のカード名やカード効果とプロットの噛み合わせ。




