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Dear Four Seasons 〜魔剣使いが往く異世界剣聞録〜  作者: 鹿島ジュン
1章︰Adventures of the Four Seasons

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11話 告別/Farewell



 今度の今度こそ完全に勝負は決した。

 フユの放った《真実と欺瞞の剣》によって上下の顎を完璧に貫通され、地面に串刺しにされた怪物のその姿は、まるで捕らえた獲物を枝に突き刺しておく「モズの早贄」のようだった。

 さらにアキによって両の後ろ足をも切断された巨体は、もはや自力で起き上がることすら叶わない。

 唯一健在なのは、あらゆる障害物を一撃で粉砕するであろう太く強靭な剛腕──すなわち二本の前足だけだった。しかし残念ながら、うつ伏せに寝転がっただけの状態では、その圧倒的な破壊力を振るうべき標的は、奴の短い射程内にはどこにも存在しなかった。


「──!! ──ゥゥゥゥッ!!」


 口を割ることもできず、喉の奥から押し潰されたような呪詛の音を漏らしながら、それでもなお復讐心に囚われた凶獣の悪あがきは止まらない。自慢の顎による噛み付きはおろか、わずかに口を開くことすら封じている忌まわしい蒼き魔剣。それを力任せに抜き去ろうと、怪物は血の滲む太い前足を必死に上方へと突き上げた。


 だが──。


「おっと、そりゃダメだ」


 アキの言葉が言い終わるよりも早く、その空間を薄緑の軌跡が高速で一閃した。無慈悲に振り抜かれたアキの魔剣によって、掲げられた二本の剛腕はあっさりと切断され、宙を舞った。

 四肢を失い、武器を封じられ、大地に縫い留められた怪物。

 完全な「詰み」だった。


 静寂が戻りかけた凄惨な戦場に、ナツがゆっくりと足音を響かせて近づいていく。琥珀色の光を湛えた《福音と呪詛の剣》が、夕暮れの森の光を反射して妖しくきらめいた。

 怪物のすぐ傍らに立ち、ナツは血走った敵の瞳をじっと見つめた。


「⋯⋯ごめんね。子供を失って、辛くて憎いなんて、当たり前だよね。きっと、あたしも⋯⋯ハルやみんなの誰かが死んでたら、あなたと全く同じことをしたかもしれない」


 ナツは魔剣をゆっくりと、頭上高くへと振り上げた。その制服姿の少女のシルエットは、これから魂を刈り取る大鎌を構える死神のようでもあった。だが、その張り詰めた空気には、死神にはおよそ似合わない、どこか不自然なほどの深い優しさと哀悼が満ちていた。

 怪物の絶望に染まる瞳に、決意を秘めたナツの姿が映る。


「でも⋯⋯あたしも、自分の大事な人を絶対失いたくないから。⋯⋯失うわけには、いかないから⋯⋯っ!」


 きゅっと奥歯を噛み締める。

 親玉の介錯人。それはつい先ほど、ボスが三人に向かって突っ込んで来た時にナツが引き受けようとした時と同じ。今回も改めて自分が引き受けることにした。


 なぜなら、ナツはこの復讐劇の『起点』だからだ。


 ナツは言う機会を逃し、皆にまだ言っていなかった『事実』がある。

 例の廃工場でハル、ナツ、アキ、フユの四人は、四本の魔剣に同時に触れた。そして全員凄まじい光と共にこの謎の森に転移させられ、気を失って倒れていた。ここまでは皆との共通認識で間違いない。


 だがここで状況的にひとつ、未解決の『謎』が残っている。


 この森への転移直後、ハル、アキ、フユの三人は近くに固まって気を失っていたにもかかわらず、何故()()()()が、三人よりも少し離れた位置で、彼女の悲鳴によって発見されたのか?


 答えは簡単だ。四人の中で一番最初に目を覚ましたのは、実はハルではなくナツだったからだ。


 廃工場にいたはずが、なぜか見覚えのない奇妙な森で意識を取り戻し、傍らには眠る三人の幼馴染たち。

 混乱が頭を渦巻く中、それでも状況を少しでも把握しなければと、ナツは勇気を振り絞って周囲の探索に出てしまった。

 そして異形の化物と遭遇してしまい、あとは皆の知る通り。

 皆が目を覚ますまで側で待っていれば、また違う展開があったのかもしれない。

 怪物の親も子を失わず、ハルが限界を超えるまで戦うこともなかったかもしれない。


 確かに怪物の子を斬ったのはハルだ。

 だが、そのハルを怪物の子の仇にしてしまったのは──ナツだ。


 だからこそ──この殺すか殺されるかでしか終われない復讐劇に、責任を持って幕を引く役目は、ナツしかいなかった。


 そんなナツの抱える事情を知らないアキとフユも、彼女が強く希望していることを汲んで、何も言わず介錯人を託すことにした。

 ナツは悲しみを引き裂くように、最後の言葉を紡いだ。


「天国でも⋯⋯家族と⋯⋯いつまでも仲良くね」


 躊躇なく振り下ろされた琥珀の一閃。《福音と呪詛の剣》は、抵抗する力を失った化物の首を滑らかに飛ばし、その魂へ一瞬の苦痛もない慈悲深い「死」を与えた。

 ドサリ、と頭部が転がり、残された巨体が淡い光の霧へと変わっていく。それはまるで、戦いの終わりを祝福する光の雨のようでもあった。


 ついに、迷い込んだ異世界の森で少年少女たちを脅かしていた全ての脅威は、完全に全滅した。




※読み飛ばしOKのおまけ


タイトル名《告別》は、マジック︰ザ・ギャザリングにおける、戦場のクリーチャー全追放、アーティファクト全追放、エンチャント全追放、墓地全追放の四つのモードを一つ以上を任意に選べる、白の6マナソーサリーカード。

これを上回る規模と効率のリセットカードは多くない。


ボスに文字通り「告別」を告げ、敵の全てを破壊しても消えない《怨恨》もろとも消し去ったという、カード名、カード効果、プロットの符合。


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― 新着の感想 ―
一気に惹き込まれて読んでいました! 迫力の戦闘シーンに、ナツの「天国でも⋯⋯家族と⋯⋯いつまでも仲良くね」はすごく心に来ますね…… めちゃ面白くてブクマもさせて頂きました。 じっくり読み進めていきます…
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