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「さて。仕事も終わって飯も食った。じゃあ部屋に戻るぞ。お前の荷物は部屋に運び込んであるからな」
「は、はい」
リッキー先輩は新人に庭の植物を説明して雑草の抜き方の見本を見せるという仕事をこなしたけれど、私はただ話を聞いているだけだった。そのため仕事をした実感も達成感も一切無い。
あとは屋敷で働く使用人の紹介もしてもらったけれど、それだけだ。
それだけで晩御飯を頂くのは申し訳が無い気もするけれど、お腹が空いたことも確かなので、ありがたく頂戴することにした。
晩御飯は使用人用のものなので、アレクシス様の妻として食べていたものとはだいぶ違う内容だけれど、空腹の身体に染み渡った。
「わざわざ僕の荷物を運び込んでくれたなんて。ありがとうございます」
「いや、荷物を運んだのはもののついでだろう。お前が刺客じゃないとも言い切れねえから、荷物の中身を調べる必要があったんだ。主人の命を守るための措置だから悪く思わねえでくれよな」
なるほど。荷物の中身を確認するついでに部屋まで運んでくれたということか。
……女性用のドレスとアクセサリーを売っておいてよかった。
そんなものが鞄から出てきたら、怪しいことこの上ない。
これから変装をして何かをするつもりなのか、もしくは鞄から出てきたドレスとアクセサリー自体が盗品なのか。そんな疑いをかけられていたことだろう。
馬車に乗るお金が無かったから売っただけだったけれど、その行為が功を奏した。
「悪くなんて思いません。いきなり屋敷にやってきた僕が疑われるのは当然のことですから」
「やけに物分かりが良いな。分かったと言いつつ嫌な顔をする新入りが多いんだが……ジェフは貴族だからこういうことに慣れてるのか」
「実際に刺客が来た場面に立ち会ったことはありませんが、うわさは聞いたことがあります。事業の資料を狙ったスパイが侵入した話とか、対抗貴族の刺客が忍び込んだ話とか。ですので、ある程度は事情を理解しているかと」
「本当にそんな物騒なことがあるのかよ! やっぱり貴族って怖えな!」
私の言葉を聞いたリッキー先輩が目を丸くして驚いていた。
連れてこられた部屋には、狭い空間にベッドが二つ置かれていた。
「ここが俺とお前の部屋だ」
「えっ!? リッキー先輩と同室ですか!?」
勝手に一人部屋だと思っていたため、今度は私が驚く番だった。
「なんだよ。他のやつと同室が良かったのか?」
「いえ、そうではなく。一人部屋ではないのかと思いまして……」
私の言葉を聞いたリッキー先輩は、大口を開けて笑い出した。
「新入りに一人部屋が与えられるわけねえだろ。元貴族ならそのくらい知ってるんじゃねえのかよ」
リッキー先輩は片方のベッドに腰掛けると、もう片方のベッドに座れと合図を出した。
素直に指示されたベッドに腰掛ける。
「俺と同室だったやつが、急いで部屋を代わってくれたんだから感謝しろよ」
どうやらこのベッドは昨日まで別の使用人のものだったらしい。教育係のリッキー先輩と新入りの私を同室にするために、急遽部屋を移動してくれたようだ。
「ってことだから、仕事以外でも何か分からねえことがあったらいつでも俺に聞けよ」
「ありがとうございます」
「ただし滅多なことが無い限り、寝てる俺は起こすなよ。どうやら俺は寝起きがものすごく悪いらしい。当たり散らされたくねえなら気を付けろよ」
私がこくこくと頷いていると、部屋のドアがノックされた。
ドアを開けると、先程会った執事がドアの前に立っていた。
「ジェフ。ルーカス様がお呼びです。すぐに向かうように」
「ルーカス様が!? お前、何かミスしたのかよ!」
執事の言葉に、私よりも先にリッキー先輩が反応した。
慌ててそんなことはしていないと大きく手を振る。
「してませんよ!? 僕が何もしていないことは、今日一日僕のことを指導していたリッキー先輩も知っているでしょう!?」
私たちのやりとりを見た執事が、一つ咳払いをした。
「そう焦らずに。ルーカス様は単にジェフに話があるだけのようです」
「何だよ、驚かすなよ」
「ビックリしました」
リッキー先輩と私は同時にくたっと力を抜いた。その様子を見た執事がまた咳払いをする。
「早く来なさい、ジェフ。ルーカス様をお待たせするわけにはいきません」
「は、はい!」
私はリッキー先輩に見送られながら、執事のあとを追った。




