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今日も今日とて草むしりをするために庭へ行こうとすると、後ろから声をかけられた。
「ジェフ。風邪は引いていないかな?」
振り返ると、真後ろにはルーカス様が立っていた。
「その説はありがとうございます。すぐに着替えさせて頂いたおかげで、この通り元気です」
恭しくお辞儀をしてから腕を大きく動かして元気なことをアピールすると、私の元気な動きを見たルーカス様がくすっと笑った。
「それは良かった。急いで部屋に戻ったから、寒気がしてきたのかと心配をしていたんだ」
「あれは……えっと、そうですね。あのときは、ちょっと寒気がしたかも、しれません」
何と誤魔化せばいいのか分からず、しどろもどろになりながら寒気がしていた案に乗っかることにした。
すると途端に笑っていたルーカス様が真面目な顔になった。
「それなら今日は大事をとって休んだらどうかな? 昨日だって町へ行ったり通常業務をこなしたりと忙しかったのだろう? 雑草だって一日二日くらいは待ってくれるよ」
ああっ! 休むために言ったわけではないのに、休みたいから寒気がしていたことにした人みたいになってしまった!
どうしよう。休みたがる使用人だからと解雇候補にされてしまったら、かなり困る。
「いえ、もうめちゃくちゃ元気になったので心配ご無用です! それに使用人の分際で気軽に休むのはよくありませんから!」
私は慌ててそんなつもりはなかったことを伝えた。
しかし元気いっぱいの私を見ても、ルーカス様は悩ましげな表情をしている。
「前にも言ったけれど、無理をさせてジゼル嬢の親戚を寝込ませたとなったら、彼女に会わせる顔が無いんだ。私のためだと思って休んではくれないかな?」
「ええと……」
ルーカス様が断りづらい言い方をしてきた。
ジェフがこれを断ったら、ルーカス様がジゼルに嫌われると分かっているのにあえて休まない選択をする意地悪、をしているみたいになってしまう。
もちろんジゼルである私はそんなことでルーカス様を嫌いになったりはしないけれど、今の私はジェフなわけで、何とも答え辛いことこの上ない。
「雨の日は君の仕事は休みになるらしいけれど、それ以外は毎日働いているのだろう?」
確かに今の私には決まった休みが無い。屋敷内で行なう仕事を覚えたら、雨の日は屋敷内での仕事をすることが出来るのだけれど、現状では雨の日の私は役立たずになる。そのため雨の日は休みを取らざるを得ないのだ。
だから雨によって休みだらけのスケジュールにならないよう、最初は休みなしでぎっちり仕事のスケジュールを詰めている。当日に急に仕事が休みになることもあるから。
もしかするとこの基本休み無しのスケジュールで、他の使用人の私に対する留飲を下げさせる狙いがあるのかもしれない。雨によってそこそこの休みをもらっているため、実際に効果があったのかは不明だけれど。
そしてルーカス様はそのことを伝聞系で話しているので、詰め詰めスケジュールによるヘイト減らし作戦は、リッキー先輩の案なのだろう。
「僕は今のスケジュールで気持ちよく働くことが出来ています。もっと仕事を増やされる分には構いませんが、減らされることは望みません」
「とはいえ今の勤務体制では、前もって休みを知ることが出来ないだろう? プライベートな予定が立てづらいのではないかな?」
「問題ありません。僕には特にプライベートな予定がありませんので」
友人がいないことを宣言しているようで少し恥ずかしいけれど、事実だから仕方がない。
ある日突然現れたジェフには友人がおらず、特に観劇やオペラ鑑賞の趣味も無いため、休みの日は本当に暇なのだ。
エマが雨の日はジェフの仕事が休みであることを知って、お喋り相手として部屋に呼んでくれて助かったくらいだ。エマを苦手としているリッキー先輩には同情をされたけれど。
しかしお喋りもそこまで長時間ではない。長年寝込んでいた時間を取り戻そうとしているのか、最近のエマは大忙しだからだ。
「暇な一日を過ごすくらいなら、仕事をしていた方がずっと良いのです」
「暇だとしても、誰にだって適度な休息は必要だよ。この仕事の入れ方は今後見直していく必要がありそうだね。君には無茶な仕事をさせないように指示していたものの、スケジュールまでは気にしていなかったよ」
やはりルーカス様の指示が入っていたのか。
いくらジェフがいきなり現れた怪しい人間とはいえ、仕事が草むしりだけというのは甘やかされ過ぎている。フレッドさんに指摘されたことで、私自身もそんな気がしてきていた。
思い出してみると、私の実家にもラミレス伯爵邸にも、そんな使用人はいなかった。ということはこの仕事量は異例であり、リッキー先輩の独断で決めたことのはずがなかった。
そんな特例待遇を受けているのに、その上スケジュールまで私に都合が良いものにしようだなんて、バチが当たりそうだ。
「使用人のスケジュールまで、お忙しいルーカス様が気にするべきことではないと思います。それに僕は本当に今の環境に満足していますので」
「ジェフはあくまでも休みたくはない感じなのかな?」
しまった。これでは、使用人の分際で雇用主の厚意を無下にしてしまっている。
ここは素直に休みをもらうべきなのだろうか。
私が答えに困っていると、ルーカス様が柔らかく微笑んだ。
「それならジェフの今日の仕事内容を、執務室で私とお喋りをすることに変更するのはどうかな?」
「へ? お喋りが仕事ですか?」
「そう。これはサボりではなく仕事だよ。使用人なら、雇用主の指示した仕事をこなさないと、だよね?」
きっとこれは私が断れないようにして、無理やりにでも私のことを休ませようという優しい提案だ。
本当に今の私は恵まれている。
だからこそ、女だとバレて屋敷を追い出されたくはない。
最初はそれしか考えていなかったけれど、現在はそれ以上に、今まで嘘を吐いていたのかと責められることが怖い。優しい人たちの顔を曇らせることはしたくない。
ここで迂闊にルーカス様に近付いてしまっては、また魔法が解ける可能性がある。そんなことになったら、私はきっと後悔をする。
「ありがたい申し出ですが、僕は……」
「何でも答えてあげるよ」
「え?」
「ここで働き始めてしばらく経ったのだから、質問の一つや二つはあるだろう? 今なら答え辛い質問にも答えてあげよう。さすがに知らないことは答えられないけれど」
ルーカス様が魅力的な条件を重ねてきた。
実のところルーカス様にしたい質問がいくつかある。
「どうかな、ジェフ?」
「……あの、ありがとうございます」
好奇心に勝てなかった私は、気付くとルーカス様の提案を受け入れる返事をしていた。




