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【完結】捨てられ令嬢と魔女の薬屋  作者: 竹間単


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30/41

●30


 調理場へ行き、鍋の中に残っていた使用人用の料理を皿によそって食べる。朝食も昼食も食いっぱぐれていたからだ。

 町で何かを買って食べることも考えたけれど、もしアレクシス様に見つかったら、もしジェフの正体がジゼルだと気付かれたら、と思うと、とても町に長居をする気にはなれなかったのだ。そのため急いで町へ来る口実だった花の苗だけを購入して、逃げるようにサンチェス伯爵邸に戻ってきた。


「ご馳走様でした!」


 お腹がいっぱいになったところで、午前中に草むしりが出来なかった分を取り返すために庭へと急いだ。しかし屋敷内のため走らず、それでいて行儀が悪くない程度になるべく早足で。



 私が庭へ行くと、花の手入れをしていたフレッドさんが作業の手を止めて近付いてきた。怖い顔で腕を組みながら。


「やあジェフ。君が選んで来た花の苗に苦言を呈したいのだけど、いいか?」


 質問の形式をとってはいるけれど、この様子だと何を言っても絶対に苦言を呈する気だろう。


「あの花の苗、良くない状態でしたか?」


「最悪ではないけど、最良でもない。君は最良の苗を買ってくるべきだった」


 花屋で売っていた中で一番状態の良いものがあの花の苗だった可能性もあるのに、フレッドさんは最良ではなかったと言い切った。それは言いがかりなのではないだろうか。

 その気持ちが顔に出てしまったのかもしれない。フレッドさんが溜息を吐いた。


「俺の言葉が信じられない様子だね? 俺はあの花屋の常連なんだ。だからあの花屋の扱う苗の中で最良のものが、あの程度ではないことを知ってる。もっと質の良い苗が売ってたはずだ」


「すみません。僕はあれが一番綺麗だと思ってしまって……」


「やっぱりリッキーのお願いなんか聞かずに俺が行くべきだったな。あんなに必死に頼み込んでくるあいつは珍しいから何かあると思って譲ったんだけど」


 こんなに植物にこだわるフレッドさんから、花の苗を買いに行く権利をむしり取るのは簡単なことではなかっただろう。リッキー先輩には後でまた全力の感謝を伝えよう。


「どうしてリッキーは君に甘いんだろう。これまでも面倒見は良かったけど、新人にはもっと乱暴に接してたのに。仕事だってもっと大変なことを任せてさ」


「そうなんですか?」


「当然だろ。そりゃあ最初は草むしりから入るけど、毎日やってたらだんだん雑草が減って楽になってくる。そのタイミングで別の雑用を押し付けれられるのが普通だ」


 初耳だ。新人は全員私と同じ内容の仕事をするのだと思っていた。どうやら私は甘やかされているようだ。もしそうなら、その理由は……きっとルーカス様の指示があったからだろう。


「たぶん僕がルーカス様の知人の親戚だからだと思います」


「ああ、なるほど」


 私の言葉を聞いたフレッドさんが納得したような顔をした。


「あの、つかぬことをお伺いしますが、リッキー先輩とはこういった話はしないのですか? お二人は仲良しなのですよね?」


「リッキーとは仲良しだけど、あいつは使用人で俺は庭師だからな。プライド持ってやってる仕事に口出しされるのは良い気分がしないと思って何も聞いてない。俺なら庭師でもないやつに仕事についてごちゃごちゃ言われたら腹が立つからな」


 フレッドさんが私のことを見ながら言った。

 どうやら今回私が花の苗を買いに行ったことが、余程お気に召さなかったらしい。


「すみません、実は込み入った事情がありまして。今日僕は一人で町へ行かなければならなかったのです」


「……君がルーカス様の知人で特別なことは分かったけど、だからと言ってやりたい放題するのは頂けないな。優しい人たちを利用するのは可哀想だ」


 周りが優しすぎて私は甘えてばかりだったけれど、こういう意見があるのは当然だ。もしかすると屋敷内には他にもこういった意見を持っている人がいるのかもしれない。ただ使用人の中で序列の高いリッキー先輩が、私の耳にこういった話が入らないようにしてくれていただけで……。


「みなさんの厚意に甘えすぎてしまってすみませんでした」


 私が再度謝ると、フレッドさんがひらひらと手を振った。


「別に俺は使用人の仕事に関してどうこう言うつもりはない。ただ他人の善意を悪用はするな、って釘を刺しただけだ」


「ご指摘ありがとうございます」


 フレッドさんはまた手をひらひらと振って、この話を終了させた。


「それにしても、今朝からリッキーの様子がおかしいんだ。苗の購入を君にさせたいと言ってきたのもそうだけど、妙にそわそわしてるんだよな。同室の君は何か知らないか?」


 それはたぶん元の私が女だと知ったからです。

 ……とは言えるわけもないので、曖昧に笑って誤魔化す。


「まあいいや。君に頼むことじゃないかもしれないけど、リッキーのことを気にしてやって。あいつって図体はデカいくせに小心者だからさ。同室の君なら何か気付けるかもしれない」


 きっとフレッドさんが私に近付いてきたのは、花の苗に関する文句を言うためだけではなく、リッキー先輩のことが心配だったからだろう。

 もちろん私への苦言や花の苗に関する文句を言いたかったのも大いにあるとは思うけれど。




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