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馬車に揺られながら、変わっていく景色を眺める。
私はリッキー先輩の貸してくれた、体型の分かりにくいぶかぶかの服を着て町へ行くことになった。長い髪は帽子の中に仕舞い込んで隠している。
「性転換薬の注意事項……恋をすると性転換の魔法は解ける」
薬の効果が切れたのなら、私はその注意事項を破ったのだろう。
……恋。
私は、ルーカス様に恋をしたのだろうか?
「でも初恋だとか嫁にもらうとか言われたら、誰だってああなるわよね!?」
嬉しくて、胸が高鳴って、ちょっぴり恥ずかしくて。
それは確かに、恋の症状と似ているかもしれない。
「恋のような症状が出たから、魔法が解けちゃったのかしら」
だけど、ルーカス様の話には気になる部分があった。
ルーカス様がジゼルに恋をしたのは、ほんの子どもの頃だと言っていた。
でも。
「……私、子どもの頃にルーカス様と会ったことなんてあったっけ?」
* * *
「薬屋はこの辺りだったと思うんだけれど……」
前回魔女の薬屋を見つけたあたりをウロウロしてみたものの、一向に薬屋は見つからなかった。一筋の汗が首筋を伝う。
「もしかして、私が性転換薬を心から求めていないから見えない……なんてことは、ないわよね?」
本当は今この瞬間にも私の目の前には魔女の薬屋が存在していて、それなのに私には見えていなかったりして……その場合、私はどうやって魔女の薬屋に入ったらいいのだろう。
軽い絶望感が押し寄せてくる。
「見えないことには店に入れない。勘で扉を開ける動きをして入るなんてことは……きっと無理よね。何と言っても魔女の薬屋だもの。そんなルール違反は魔法で弾かれるわよね」
もっと性転換薬を欲すればいいの?
……ううん。今だって私は性転換薬を欲している。あの屋敷で働き続けたいから。男のジェフでなければあの屋敷で働くことは出来ないから。
だけど働くことは出来ないけれど、ジゼルに戻ってルーカス様の嫁になることは出来……。
「ってダメ! そんなことをしたらルーカス様にご迷惑が掛かるわ!」
……本当に迷惑なのだろうか。
ルーカス様の言うように、初恋が実った話がうわさになるなら、ルーカス様にダメージは無いのでは?
「だから、ダメだってば! 他人の厚意に甘えすぎるのは良くないわ」
頭を振って甘ったれた考えを追い出す。そんなことを考えていたら、魔女の薬屋が見えないままだ。
ジゼルとしてルーカス様に愛してもらえたら、なんて夢物語は捨てないと。
「ジゼル?」
そのとき、私の名を呼ぶ、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「えっ?」
「久しぶりだな。そんな服を着てどうしたんだ?」
私が振り返ると、私の名を呼んだ人物がおもむろに私の帽子を取った。
すぐに帽子の中に隠していた長い髪がバサッと落ちる。
「やっぱりジゼルだ」
「……アレクシス様」
私の前に立っていたのは、会いたかった魔女の薬屋の店主ではなく、もっとも会いたくなかった人物。元夫であるアレクシス・ラミレスだった。
「元気にしていたか?」
「あなたがそれを聞きますか」
私に元気が無いとしたら、どう考えてもその発端はいきなり離婚を切り出したアレクシス様その人だ。
「少し話をしよう。馬車に乗るといい」
アレクシス様が指し示す先に、彼が今まで乗っていたのだろう馬車が見えた。
過去には私も使っていた馬車だ。懐かしい気持ちにはなったけれど、特にこれといって良い思い出は無い。
「早く馬車に乗るんだ」
「……嫌だと言ったら?」
「無理やり乗せられるよりは、自分から乗った方が痛い思いをしなくて済むと思うぞ」
私が何を言おうとも、アレクシス様は私を馬車に乗せる気らしい。
「そう身構えるな、ジゼル。ただ話をするだけだ」
「……分かりました」




