●22
(5)
「ジェフ、これから忙しくなるぞ」
ある日、リッキー先輩が多忙宣言を出した。
「忙しくなる? 毎日それなりに忙しいとは思いますが」
現在、私は庭の掃除業務を一人で請け負っており、毎日が忙しい。
やることが単純だし、重い荷物を持つわけでもないから、この仕事に不満を言ったら他の使用人に怒られてしまうだろうけれど。それでも庭が広すぎるため、毎日が忙しいことは事実だ。
「近々、エマお嬢様が茶会を開くらしい」
いつの間にかエマは、お茶会を主宰することが出来るほどに身体の調子が良くなったらしい。薬の効果が抜群すぎて怖いくらいだ。
次に魔女の薬屋へ行くことがあったら、エマの分まで全力でお礼を言おう。
「覚悟しておけよ、ジェフ」
「はい! お茶会のために、念入りに草むしりをしろということですね!」
私が元気よく返事をすると、リッキー先輩がそうじゃないと首を横に振った。
「お前がするのは草むしりじゃねえ。エマお嬢様は、茶会でお前に、自分の近くに控えていてほしいらしい」
「ええっ!?」
そんな大役を任されるとは思っていなかったため、大きな声が出てしまった。だってジェフはまだ庭の掃除しか任されていない新人の使用人なのに。
「エマお嬢様にずいぶん気に入られたみてえだな。少しも羨ましくはねえけど」
リッキー先輩が本音を隠しもせずに言った。
リッキー先輩はエマにかなりの苦手意識があるようだ。エマの背格好はリッキー先輩の半分もないのに。まるでトラが猫に怯えているようで少し面白い……リッキー先輩の中ではエマの方がトラらしいけれど。
「エマお嬢様に気に入られたのは、僕がエマお嬢様と年齢が近いからかもしれません」
「使用人として好感を持たれるのは良いことだ。ただし、先輩としてこれだけは言っておく。エマお嬢様に、身分違いの恋はするなよ」
「しませんよ」
何と言っても、本当の私はジゼルであり、恋愛対象は男性だ。
いくら仲良くなったとしても、エマと恋に落ちることはあり得ない。
「ってことで、明日から茶会での使用人の動きをレクチャーする。しっかり覚えろよ」
「リッキー先輩に教わるのですか?」
「……お前、俺のことを見くびってるだろ。俺は本来、草むしりをするような人材じゃねえんだぞ」
「僕はすごい人に教育係になってもらっていたのですね!? 本当に僕のために時間を使ってもらって良いのでしょうか」
正直リッキー先輩がそこまでの地位を得ているとは思っていなかったため、驚いた。
そういえば侍女や使用人からの苦情がリッキー先輩に集まっているようだった。今思うとあれは、使用人たちが上司に問題を提言していたのかもしれない。
「すごいリッキー先輩の時間を、新人教育なんかに使わせてしまって、申し訳ありませんでした」
「別に。俺の趣味みたいなもんだから気にするな」
「前は、新人を俺に押し付けるなとか言っていたのに、新人教育が趣味だったのですか?」
「俺は新人教育じゃなくて、新人いびりが趣味なんだよ!」
照れ隠しなのかリッキー先輩がそう言ったけれど、リッキー先輩にいびられた記憶は無い。
前にフレッドさんが言っていたように、やはりリッキー先輩は面倒見の良い人のようだ。




