●15
「……それで、エマお嬢様の悩みとはどのようなものなのでしょうか」
エマは何度か口をパクパクとさせてから、ついに悩みを打ち明けた。
「ねえ、ジェフ。あたしの髪の毛ってどう思う?」
エマがもじもじしながら質問をした。これに素直に答える。
「ふわふわの金髪で、とても可愛らしいと思います」
まるで絵本の中から飛び出して来たお姫様のように見える。あのふわふわの髪にカラフルな花を散らしたら、メルヘンなことこの上ないだろう。
「……やっぱりふわふわに見えるわよね?」
エマが自身の髪を触りながら溜息を吐いた。
「ふわふわの髪がどうかしたのですか? エマお嬢様にとてもよく似合っていると思いますよ」
「似合ってる似合ってないの話じゃないのよ……あたしの家族は全員まっすぐな髪をしてるの」
そう言われて、ルーカス様の部屋で見た肖像画のことを思い出した。
肖像画に描かれているエマの両親もルーカス様もさらさらの髪で、ふわふわした髪を持っているのはエマだけだった。
もしかしてエマは、髪のせいで良くない想像をしてしまっているのだろうか。
「まさかエマお嬢様は、自分が両親の実の娘ではないのではないかと不安に思っておられるのですか? 確かに髪質は違いますが、髪の色も目の色も顔の造形も、エマお嬢様はルーカス様とそっくりです。絶対に兄妹だと思いますよ」
これはエマをなだめるために言った言葉ではなく、私の本心だ。エマとルーカス様は見た目も仕草もそっくり……気性はだいぶ違うけれど。
それに二人とも父親と同じ蒼色の目に、母親と同じ金色の髪をしている。顔の造形も両親二人を足して二で割ったような出来上がりに見える。これで血の繋がりを疑う方が難しい。
「あたしも、お兄様と自分が似てるとは思ってる……でもね、それでも。家族の肖像画で、まっすぐな髪のお父様とお母様とお兄様が並んでると、あたしだけ家族の一員じゃないみたいな気がしてきちゃうの」
「気にし過ぎですよ。エマお嬢様は絶対にサンチェス家の一員です」
「あたしもそう思おうとしてるんだけど、鏡を見るたびにこの髪の毛が目に入るの。みんなと違ってくせっ毛のこの髪が」
他人から羨ましがられるようなエマの髪も、本人としては気に入らないもののようだ。
「……あたしが血の繋がった家族ってことは分かってるの。でも、この髪を見るたびに嫌になっちゃって。理屈じゃないの。感情がこの髪を拒否するの」
理屈ではない、か。それならいくら理詰めで説得をしたところで意味は無いはずだ。感情に訴えかけたとしても、必ずしもエマの感情が動くとは限らない。それなら。
「あたしもまっすぐな髪だったら良かったのに」
「エマお嬢様は、くせの無いまっすぐな髪になることを望んでいらっしゃるのですね?」
念のため確認をする。勝手な憶測で動くことは良い結果を生まないからだ。
「そうよ。あたしもまっすぐな髪になりたい……そんなことは無理なのにね」
「いいえ、もしかしたら可能かもしれません」
私の返答を聞いたエマは、自身の耳を信じることが出来ないのか、その場で固まった。
「絶対に可能とは言えませんが、やってみる価値はあります」
「なにそれ!? 本当!? どうやって!?」
私がなおも言葉を重ねると、一気に硬直の解けたエマがベッドの上で身を乗り出した。
「あたしもみんなと同じまっすぐな髪になれるの!?」
「すみません。可能かもしれない、程度です。あまり期待はしないでください。買えない可能性もありますから」
「買う?」
「明日、町へ買い物に行く許可と馬車の使用許可をお願いしてもよろしいでしょうか?」
私は、ふわふわの髪をまっすぐな髪に変える魔法が使えるかもしれない人物を知っている。
魔女の薬屋の店主だ。




